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番外編 禁忌の研究者:二話


「……まさか、あんたに会えるなんてな」

「うぉぉ……まさか族長の娘の仲間に会ってしまうとは……!ということは族長の娘もここに……!」

「…………」

俺の言葉は華麗にスルーされた。というか、なんかこいつ蹲ったんだけど。身体がめちゃくちゃに震えてるんだけど。

「……なぁ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ!僕の命が奪われるかもしれないんだよ!?」

おお……急にキレるじゃん……どうしよう、見なかったことにしてこの場を去ろうかな。うん、そうしよう。

「それじゃあ、俺はこの辺で」

「ちょっと待って!もしかしなくても族長の娘にチクる気だよね!?やめてください、お願いします!」

「いや、別にそんな事は……ちょっ、やめろ!ズボン引っ張んな!」

「お願いだからやめてぇ!もうあの子の尋問受けたくないの!集落の外に出たことが知られたら殺される!」

「分かったからズボン引っ張んのやめろ!脱げたらどうする気だお前!」

その後、女性をなだめるのに三十分かかった。


「……あの、すいませんでした」

「おう、落ち着いたか?」

「うん……落ち着いたよ」

女性は膝を抱えながら何処か遠い目をしている。……この人は一体シオンに何をされたのだろう。いや、聞きたくはないけど。それより、聞いておきたい事がある。

「なぁ、あんた」

「ん?何?」

「ここは一体何処なんだ?それにこの服装は……」

「ああ、ここは僕の作った世界だよ。自分の思い通りに設定を考え、登場人物を配役して世界を生成する。――僕はこれを≪仮想世界≫って呼んでるんだ」

「仮想世界?」

これまたベタな……異世界の次は仮想世界か。ファンタジー……というのは微妙だが、ラノベとか漫画によくあるやつだ。VRのゲーム世界とかそういうの。いや待て、僕の作った世界?

「え、ここってあんたが作った世界なの?」

「その通り。偉大な研究者である僕が一から研究して作ったんだ。いやー、コレがまた大変でね。異世界についての文献を漁って、我が神の魔法や力を模倣して……おっと、やば」

そこまで言って、女性は口を手で塞いだ。……ノリノリで話していた所を見るに、誰かに話したかったのかもしれない。分かる、分かるよ。自分の作ったものって語りたくなるよな。……にしても、世界を作ったとか……この人、マジでヤバイ人なんじゃね?

「あんた、すげぇな。人体実験するマッドなやつだと思ってたけど、もっとヤバイ奴だったんだな」

「ふふん、でしょー?もっと褒めてくれても……待って、もっとヤバイ奴って言った?」

「それで、あんたに聞きたいんだけど……元の世界に戻る方法教えてくんない?学校生活とかめんどいし、食堂の限定スイーツが食いたいんだ」

「今絶対僕の発言無視したよね?……それに、あんたって名前じゃないから。僕はアルジュナっていう立派な名前があるの」

「そっか、それでアルジュナさん、元の世界に戻る方法教えてくんない?学校生活とかめんどいし、食堂の限定スイーツが食いたいんだ」

「いろいろとあけすけ過ぎじゃない?というか、僕は君達人間より遥かに年上なんだから、敬意ってやつが必要だと思うんだ」

「元の世界に戻る方法教えろください」

「……なんか、じわじわと腹が立ってきたな。君みたいな人間は初めてだよ」

とりあえず、全く褒められていない事は理解できた。

「……はぁ、まぁ良いか。早く族長の娘を連れて帰ってもらいたいし……そもそも、なんであの子が選出されちゃったんだよ……」

アルジュナは何かぶつぶつと言いながら、頭を抱えだした。どうしたんだろう、頭でも痛いのか?

「良いよ、元の世界に戻る方法……教えてあげる」

「お、あざーす」

「うっわ、なんかムカつく……!……コホン、その前に、僕の姿を変えても良いかい?君に協力するのに、このメイド姿だと不都合だろう?」

アルジュナはそう言うと、その場で一回転した。すると、目の前に緑髪の美少女が現れた。背は俺より少し低いくらい。髪は長めのストレートで顔は小さいが、とても整った顔立ちだ。更に、服装は俺の学校の制服姿になっていた。

「これなら、君と一緒に行動出来るだろう?」

「……まぁ、良いと思うけど。いきなり見覚えのない生徒が現れたら皆混乱するくない?」

「そこはほら、この世界の創造主権限で辻褄を合わせるんだよ。君のクラスに美少女転校生として現れたら問題なしでしょ」

「自己評価たけー……ていうか、創造主ならこの世界から俺たちをスッと出せるんじゃないの?」

「……それが、そうはいかない事情があるんだよね」

「え、事情って……?」

「よし!そろそろ一日が終わるから、家に戻ろうか!と言ってもこの世界では家に帰るのはスキップだから、また明日ね!」

そう言って、アルジュナは去っていった。……スキップ?


次の日……というか少し時間が経った後。いきなり夕暮れ時だった空が青色になり、俺は学校の前に立っていた。隣にはアルジュナが立っている。

「おはよう、実にいい朝だね。族長の娘の仲間君」 

「ユウだよ、ユウ。なんだその長い呼び名は」

「おっと失敬。人間の名前を覚えるのは苦手でね」

アルジュナはそう言って、学生鞄を持ちながら、やれやれと肩を竦める。そんな素振りも中々様になっているのが悔しい。昨日俺に泣きついてきたやつなのに。

「それにしても、珍妙な服装だね。なんかあちこちが苦しいというか、肩が張るというか……」

「え、制服着たことないの?」

「せいふく……なるほど、この服装はそう呼ぶのか。今回の世界は中々に珍しいな……やっぱりランダムに生成したからかな……」

隣でぶつぶつと喋りだすアルジュナ。……よくわからんけど、研究者って皆こうなのか?シオンもよくなんかぶつぶつ言ってたよな……他の生徒の視線を集めているからやめて欲しい。

「ほら、行くぞ。こんなとこで足止めてたら遅刻するからな」

「それとも、世界生成に使った触媒が……?いやいや、素材はいつものを使ったはずで……」

俺はアルジュナの手を無理やり引っ張り、校舎へと向かっていった。


教室に入ってホームルームが始まると、転校生の紹介が始まった。

「転校生のアルジュナです。よろしくお願いしまーす」

アルジュナは前で挨拶をして、その場でひらひらと手を振った。見てくれがいいからなのか、あちこちから「おお……」というクラスメイトの声が聞こえてくる。

「せんせー、席はどこですか?」

「アルジュナさんの席はユウさんの前の席です。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

アオイさんがそう言うとアルジュナがこちらの方に歩いてきた。……俺の前の席って、空席だったっけ?誰かいた気がするんだけど。

「やぁ、ユウ君。今朝方ぶりだね」

「今朝方ぶりというか、さっき分かれてすぐだな」

「しょうがないじゃん、辻褄合わせのためなんだから。物語に新しい人物を登場させるのって難しいんだよ?」

「そもそも、俺の前は空席じゃなかったはずなんだけど」

「あー……消しちゃった☆」

こいつ、笑顔でさらっととんでもないこと言ったな。やっぱりこいつは要注意人物なのかもしれない。協力するの早まったかな。

「……ねぇ、ユーさん」

「ん、なんだ?小原」

「アルジュナさんと会ったことあるの?やけに仲が良さそうだけど」

小原が首を傾げながらそんな事を言ってくる。……そうだ、そりゃあ今日来たばっかりの転校生が自分の友達と仲がよかったら、疑問に思うよな……説明なんも考えてなかった。どうしたものかと悩んでいると、アルジュナが小原に向かって小悪魔的な笑みを浮かべながらこう言った。

「僕は、ユウ君の恋人だよ」

「えっ、恋人!?あの恋愛のレの字もないユーさんに恋人!?」

小原の一言で、クラスがざわめき出す。……マジかよこいつ(アルジュナ)とんでもない爆弾放ちやがった。というか小原、俺のことそんなふうに思ってたん?お前が騒ぎ出すから凄く皆の視線が痛いんだけど。これは弁明せねばなるまい。

「皆待ってくれ!俺は恋人はおろか、友達すらほとんどいな……ぐふっ……!」

自分で言ってて、凄く胸が痛くなった。致命傷だよどうしてくれんだ。許さねぇぞアルジュナ。俺の一言で、クラスの皆の視線が痛いやつをみる視線から哀れむような視線に変わった。アオイさんはコホンと咳払いをすると、俺から目を逸らした。そのまま、ホームルーム終了の言葉を告げる。

「……それでは、ホームルームを終わります」

「「「ありがとうございましたー」」」

挨拶と同時に、クラスメイトはいつも通りに(俺から目を逸らしながら)授業の準備を始めだした。隣にいる小原とアルジュナが、悲しそうに俺を見てくる。

「……ユーさん、元気だしなよ。私はちゃんと、ユーさんの友達だからね」

「……うん、なんか僕も申し訳なくなってきた」

「やめろよ。マジでやめてくれ。そういうのが一番傷つくから」

こうして朝のホームルームは、俺が大ダメージを負うという結果に終わるのだった。






 


 




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