表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/48

第二十九話 ベリル


「そう。俺はベリル。ベリルだ。所謂――悪魔って奴だ」

コウと瓜二つの黒髪の少年――ベリルは、片手で剣を弄びながらそう言った。フェリスは槍を構え、警戒しながら彼を見る。

「……あなたが、悪魔ベリル……」

「ホロウの野郎を抑えてくれて助かったぜ、天使サマ。おかげで俺は()に出てくることができた」

ベリルは笑みを浮かべ、フェリスを見る。その瞳には欲望の混じった光が宿っており、それを見てフェリスは目を細めた。

「……()()()()()()()()()()()()。あなたに眠る、悪魔の力が」

「ああ。この力があれば、俺はベリルとして生きられる。もう、()()()()()()()にならなくていいんだ」

ベリルはフェリスの側にいるコウを指差し、彼への憎しみを露わにする。それは、仇を憎むような表情として表に現れていた。

「……俺は、コウを()()。そして、俺が!完全になるんだ!ただの操り人形じゃない、完全な悪魔に!」

声高らかにそう宣言したベリルは、剣を構えてコウの元に走る。ベリルは剣を振りかぶり、コウに斬り掛かった。

「…………」

しかし、コウはそれを槍で受け止めた。既に意思なきその肉体は、創り変えられた天使として、本能だけで動いていた。悪を滅する、正義の使徒として。

「ハッ、ざまあねぇな!今度はお前が操り人形になったのか!」

「…………」

「お前が俺から全てを奪ったんだ……姉さんを、俺の身体を……俺の自由を!」

ベリルはコウから剣を離し、別の角度から斬り掛かった。コウは身体を逸らしてそれを躱し、槍を振るう。

「甘えんだよ!」

ベリルはそれを弾いて、その隙に剣で斬り払う。コウの身体から赤い血が流れ、コウの動きが鈍くなる。

「…………!」

「どうだ!俺はお前よりも強い!いつも部屋の中でウジウジしていた、お前よりもだ!」

ベリルの瞳に宿る光が加虐性を増し、剣に邪悪な光が宿る。それを見て、フェリスは目を見開いて驚く。

「なっ……!まさか、それは……!」

「とどめだ……!――くらいやがれっ!」

「駄目です、それは――!」

フェリスの静止も虚しく、光が宿った剣がコウを捉える。コウの身体は真っ二つに斬り裂かれ、彼についている羽根は消失した。コウはその場に倒れ、槍を取り落とした。

「はは……!やった、やったぞ!俺の勝ちだ!これで俺が、完全な悪魔に……!」

「――それはどうだろうな」

ベリルが愉悦の笑みを浮かべた時……誰かの声が響き、彼の目の前に、二つの影が現れた。水を刺されたベリルは、怒りの表情を浮かべて影を見る。

「誰だ!?」

「――俺は、()()()()()()()。この世界……世界0001の――管理者だ」

影の一つは、神秘的な服を纏った男だった。男――スレイプニールはベリルを見て目を細め、彼の隅々まで視線を向ける。

「……ふむ。報告の通りだな。まさか、これ程までに似ているとはな……」

「なんだ、お前は……!邪魔するんじゃねえよ!」

ベリルは激昂し、スレイプニールに斬りかかる。しかし、その刃が彼に届くことはなかった。刃は、もう一つの()によって止められたからだ。

「――痛くもかゆくもねぇな。お前――()()()()()か?」

それは、異形の怪物だった。怪物の漆黒の腕がベリルの剣を容易く受け止め、怪物は獰猛な笑みを浮かべた。それを見て、ベリルは恐怖を感じながら、口を開いた。

「……お、お前、なんなんだよ……!」

ベリルの言葉を聞いた怪物は、笑みを浮かべながらこう言った。

「俺か?俺は――()()()。やっと見つけたぜ、()()()()()()

怪物の言葉に、ベリル――いや、()()()()()()は。目を見開いて、剣を取り落とした――



――――

「……俺が、偽物……?な、何を言ってるんだ?」

「そのままの意味だ。お前は(ベリル)じゃねぇよ。名無しの悪魔(ネームレス)……それが、お前だ」

ベリル――ネームレスは、意味が分からないといった表情を浮かべ、頭に手を当てた。それを見て、怪物――ベリルは、どこか愉快そうにネームレスを見る。

「そこのクソ天使にお前を教えられた時は、びっくりしたぜ。なんせ、俺の名を騙る偽物の悪魔が現れたっていうんだからな。クソ天使が俺を騙すために嘘をついたのかと疑ったぞ」

「……天使は嘘をつかないんですよ、バカ悪魔」

フェリスがため息を吐きながら、ベリルに悪態をつく。そして、ネームレスの方を見て、視線を鋭くする。

「……あなたは不完全な儀式によって生まれた、()()()()()……未熟な子供の闇……それがあなたの正体です」

「で、俺達はこの世界に来たお前を消すために、そこのクソ天使に()()()打たせて、お前を完全に消去するためにやってきたんだ」

ベリルの言葉に、ネームレスはハッとする。フェリスがコウを天使の姿に変えたこと……そしてコウが殺された時の、あの必死の表情……それは全て、自分をここまで追い詰めるための芝居だった――!

「……ホロウがあなたを捕らえたのは想定外でしたが……奴を表に出せたのは大きな成果でした。あとはあなたを消去すれば……この大がかりな演劇も、フィナーレを迎えるでしょう」

「……!?」

――嘘だろ。俺が……消される?こんな、奴らに……?ネームレスの思考が真っ白になり、彼は動揺したように顔色を青くする。

「……い、嫌だ!やめろ!俺はただ、自由になりたかっただけなんだ!消さないでくれ!」

「……申し訳ないのですが、あなたがこの世界にいることは、許されないことなのです」

「……名無しの悪魔(ネームレス)は、存在するだけで、本来あるべきはずの世界の姿を変えてしまう。管理者として、見過ごすわけにはいかない」

「そういうわけだ、偽物野郎。お前に恨みはねぇが、とっとと消させて貰うぜ」

ネームレスの元に、フェリス、スレイプニール、ベリルの三人が迫る。ネームレスはすっかり戦意を喪失し、その場にへたり込んだ。

「あ、ああ……」

「せめて一瞬で消してやるぜ、偽物野郎――!」

ベリルが拳を振り上げた、その時――()()()()()()()()()()()()()()()。ネームレスは()()()()()、声も上げずにその場に倒れた。突然の事態に、ベリルは首を傾げる。

「あ?なんだ今の……おい、クソ天使。てめぇの仕業か?」

「い、いえ。私は何もしていませんが……」

「……俺も同じだ。今の攻撃は、一体……」

「――()()、攻撃ですよ、皆さん」

()()から聞こえた声に、三人は振り返る。……そこには、先程()()()()()()()少年――()()の姿があった。

「嘘……#()#()#()#()()()?……あなたは先程、私が≪天使化≫したはずで……」

「ああ、あの()()()な行動ですか。天使になど、なるわけがないでしょう。少し()()()打っただけなのですから」

コウは手をかざすと、自らの背後に()()()()を出現させる。それを見て、フェリスは目を見開いて驚く。コウは無表情のまま、声だけは抑揚をつけて話を続ける。

「まぁ、この身体に巣食う病を治してくれたことには感謝します。おかげで……()()()()を取り戻せました」

「……なるほどな。この魔力……()()()()()()()名無しの悪魔(ネームレス)か」

ベリルの言葉に、コウは口角を少しだけ上げた。コウは警戒する三人を他所に、ネームレスの元に歩いていく。

「……少しだけ、違いますよ。ベリルさん。俺は名無しの悪魔じゃありません。俺は――顔無しの悪魔(フェイスレス)、と呼ばれています。そこで可愛らしく眠っている、()()()()()を糧として生まれた、異界の悪魔です」

顔無しの悪魔(フェイスレス)……つまり、今貴様が攻撃したのは……ネームレスではなく、####コウ……!?」

スレイプニールの指摘に、コウ――フェイスレスは残虐な笑みを浮かべて実に嬉しそうに答えた。

「お見事!流石は()()使()()ですねぇ!随分と頭の出来も良いようで!」

「……貴様は何を企んでいる。俺達を欺き、器である####コウを殺した……貴様の目的は、なんだ!」

スレイプニールの言葉に、フェイスレスはわざわざ考えるような素振りをして、愉快そうに羽を羽ばたかせる。

「目的……目的ですか。()()()()()()()()、目的など」

「……何?」

「強いて言うなら……せっかく()()()()()()()()、自由になったんですから、楽しい事がやりたいです!例えばそう……この素直で純真な()()さんを、絶望に叩き落とすとか!あ、でももう死んでるんでしたっけ!アハハハハハハ!」

フェイスレスはコウの頭を掴み、残虐な高笑いをあげる。三人は警戒したように身構え、フェイスレスを睨む。

「……そこのバカ悪魔も大概ですが……あなたは、倫理観の欠片もない最悪の馬鹿ですね……!」

「ま、悪魔ってやつはこんなもんだよな……!あと言っておくがクソ天使、俺はもう少しマトモだろが?」

「……貴様はこの世界に害をなす存在だ。俺は貴様を、見逃すことはできない……!」

武器を構え、臨戦態勢となった三人を見て……フェイスレスはコウの頭を離し、地面に落とす。その顔には、なおも残虐な笑みが浮かべられていた。

「皆さん、とても怖い顔をしていますね。……ですが、すぐに笑顔にして差し上げますよ――≪改変≫」

フェイスレスが手をかざすと、辺りの景色が歪み始め、世界が()()()に包まれる。異様な光景を前にして、三人は狼狽え始める。

「……っ!なんですか、これは!」

「偽物野郎、てめぇ一体何しやがった……!?」

「これは……!ベリル、フェリス!撤退だ!この光に包まれたら、もう――」

スレイプニールが言い終える前に、()()()姿()()消える。同時に、()()()に荒らされていた地形も……元の姿に戻っていく。いつの間にか、コウの姿も()()()()()()()姿()()()()()()()世界を眺めて、フェイスレスは愉悦の感情に満たされる。

「……()()()()()()()()、最初から」

フェイスレスの羽が羽ばたき、彼の頭の上に光の輪が現れる。まるで()使()()()()()姿()に変わった彼は、喜色を乗せた声で呟いた。

(コウ)()()()()()世界を――()()()()世界を」




 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ