第二十五話 鏡写し
「――紹介しよう。俺様の仲間、イヴリプスだ」
「よろしくねぇ。人間ちゃん達」
二人の諍いが収まった後。私達はオリーリヤから緑髪の女性――イヴリプスを紹介された。彼女はオリーリヤの仲間で、尖った耳が特徴的な、エルフという種族らしい。争いを好まず、植物を愛でて自然と共に生きる長命な種族なのだとか。
「えっと……ビャクヤと言います。よろしくお願いします、イヴリプスさん」
「おやおや、随分と若い子だねぇ。若い頃の私にそっくり」
「……?あの、あなたも十分に若いと思いますが……」
「イヴリプスは千歳を超えているのだ。人間で換算すると、九十歳前後というところだな」
「き、九十……!?」
オリーリヤの言葉に、私は目を見開いて驚く。イヴリプスの見た目は、多く見積もっても二十代にしか見えない。確かに言動や雰囲気は落ち着いているが……九十代とは思えない。
「おや、どうかしたのかい?」
「い、いえ。特に何も……」
「もしかして、お腹が空いているのかい?何か食べ物はあったかねぇ……おや、先程いただいた木の実があったねぇ。一つ食べるかい?」
「だ、大丈夫です。お構いなく」
「そうかい?美味しいんだけどねぇ……オリーリヤちゃんは食べるかい?」
「うむ、頂こう」
頷くオリーリヤに懐から取り出した木の実を渡すイヴリプス。彼女の行動に戸惑っていると、後ろにいる二人の声が聞こえてきた。
「……なんか、本当にお婆ちゃんみたいだね」
「そうですね……少し、実家の母親を思い出します」
「うん、お婆ちゃんもいつもこんな感じだったよね」
母さんとアカリは祖母の事を思い出したのか、ひそひそと喋りながら二人の様子を見ていた。母さんとあかりに気づいたのか、イヴリプスは二人の方を見る。
「おや、そちらにも可愛らしいお嬢さん方がいるねぇ。ビャクヤちゃんのお友達かい?」
「……私はミコト。ビャクヤさんの母親です」
「僕はアカリ。ビャク姉の妹だよ」
「アカリちゃんに……ミコトちゃんかい?可愛らしい名前だねぇ」
イヴリプスがほのぼのとした笑みを浮かべていると、木の実をかじっていたオリーリヤが、不敵な笑みを浮かべてこういった。
「……ふむ。場も温まったようだな。では、先程の話の続きと行こうか、ビャクヤよ」
「話の続き……まさか、また喧嘩か?」
「カッカッカ!そこのでか女がしたいのなら相手になるが……その話ではない」
でか女という言葉に反応して、母さんがオリーリヤを睨むが、オリーリヤは無視して話を続ける。
「ビャクヤよ、貴様は元の世界に帰りたいのではないか?」
「……!……ああ。こんな危険な場所に、いつまでも留まっているわけにはいかない」
「カッカッカ!賢明な判断だ。ここは常人が生きるにはちと厳しいからな。よし、そうと決まれば、この俺様が協力してやろうではないか」
「助かるよ、オリーリヤさん」
「オリーリヤでよい。貴様は俺様の認める強者だ。この俺様と肩を並べられる栄光を噛み締めろ」
オリーリヤはそう言って、右手で肩を組んできた。その時、私は彼女への警戒心がすっかりと解けているのを感じた。
「ミコトちゃん、アカリちゃん。お菓子はいるかい?この前作ったのが余っちゃってねぇ……」
「……いえ、別にお腹は空いていないので」
「僕も、今はそんな気分じゃ……」
「まぁまぁ、そう言わずに。――それっ」
「んぐっ!?ちょ、何勝手に……!……え?お、美味しい……!」
「何これ!?めちゃくちゃ美味しいよ!?」
「口に合ったようで、よかったねぇ」
母さんとアカリが、イヴリプスとほのぼのとしたやりとりをしている。……なかなかに混沌とした状況だなと、私は思った。
「――≪壊滅刃≫!」
オリーリヤの左腕が、黒い鎧の兵士――ミラードを消し飛ばす。そんな彼女に、一息つく間もなく別のミラードが襲いかかる。しかし――
「――おや?全く効かんなぁ……?それが貴様の全力か?」
「――――!」
「……≪崩壊斬≫」
オリーリヤは攻撃をものともせず、ミラードを横に切り裂いた。戦闘が終わり、オリーリヤが息を吐く。
「ふう、肩慣らしにもならなかったな。相変わらず骨のない奴らだ」
「……凄いな。あんな怪物を一撃で……」
「これくらい、神の使徒ならば当然だ。まぁ、そこのでか女も、頑張れば同じ事が出来るだろうな」
「でか女ではありません。私にはミコトという名前があるのですが?」
「カッカッカ!これは失敬。それ以外に特徴がないものだから、思わずそう呼んでしまったぞ!」
「…………」
「か、母さん!刀はしまってくれ!今は味方同士で争うべきじゃないだろ!?」
「ビャクヤさん。私も戦士の端くれです。体型――もとい、鍛えた身体を馬鹿にされて、黙っているわけにはいかないのです」
……まずいな。母さんの目が本気だ。オリーリヤは何故、いちいち母さんを煽るんだ……!どうやって母さんを止めるかと悩んでいると、ふと、後ろをついてきていたアカリが目に入った。アカリはどこか気落ちした様子で、イヴリプスの側に立っている。その様子を見て、何か引っかかるものを感じた。
「アカリ……?」
思わず声を掛けようとしたが……私の口は止まった。
「アカリちゃん、お菓子食べるかい?喉が渇いたら、水もあるからねぇ」
「う、うん。ありがとう」
イヴリプスに声を掛けられ、お菓子と水を受け取って食事を始める。そのいつも通りの様子を見て、考えすぎかと思い、私は声を掛けるのを止めたのだ。……だから、私はその異変に気が付かなかった。アカリの抱えている、大きな闇に……




