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第二十二話 異なる世界の住人


「まだ足りぬ!もっと、もっとだ。この()()()()()に、より強き者を持ってこいっ!!」

橙色の髪を左側に纏めた少女が、愉悦に満ちた表情で高笑いをあげる。目の前で起こっているその光景に、私達は言葉を失っていた。

「な、何あれ……?」

隣にいるアカリが、呆然とした様子で呟く。それもそうだ。何故ならあの少女はいきなり現れて、私達を襲って来た黒い鎧の兵士を消滅させたのだ。あれは明らかに……人の理解できる範疇を超えた存在だ。

「カッカッカ!――ん?なんだぁ……?そこに、誰かいるのかぁ……?」

少女はこちらを向いた。……その時、彼女の隠れていた部分が目に映った。――その少女は、左腕が刀のような形になっていた。その姿を見て、私は息を呑む。

「化け物……!」

「ほう、俺様の事を化け物と呼ぶとは。やはりこの姿は、人間の前に出るのには適していないようだな」

少女はこちらに向いて、私達の目の前まで、左腕を引きずりながら歩いてきた。近くにいたアカリが怯えながら母さんの後ろに隠れ、母さんは警戒心を抱きながら刀を構える。私は左腕を押さえながら、少女に視線を向ける。

「……ビャクヤさん、下がってください。その少女は危険です」

「ん?その一本だけで俺様に挑むか?蛮勇だな」

「か、母さん!危ないって!僕達もやられちゃうよ!」

「カッカッカ!勇ましき戦士よ、普段ならその勇気を称え、手合わせの一つでもしてやる所だが……今は、それより優先することがあるだろう。おい、そこのお前」

騒ぐアカリを意に介さず、少女は何故か私に声を掛けた。私は警戒しながら、視線を逸らさずに少女を見つめる。少女は真剣な表情で、低い声で言った。

「それはミラードにやられた傷だな。この俺様が治療してやろう。……≪治癒≫」

少女が右手を私の左腕にかざすと、傷から流れる血が止まり、痛みが引く。私は驚いた様子で傷を見て、恐る恐る腕を動かしてみる。

「……痛くない」

「ふん、当然だ。イヴリプスには劣るが、神の使徒たるもの、回復魔法くらい使えなくてはな。まぁしばらく傷は残るが、跡は残らないから安心しろ」

少女は得意げにそう言って私の左腕を軽く掴み、どこからか取り出した包帯を巻いていく。……先程とは全く違う様子に、私の警戒心はより上がった。

「あなたは、一体……」

「俺様か?俺様の名はオリーリヤだ。神の使徒とも呼ばれている。貴様は名をなんという?」

オリーリヤの問いに、私は警戒しながらも答える。 

「……ビャクヤだ」

「ほう、ビャクヤというのか。変わった名だな。ビャクヤよ。貴様は何故こんな所にいる?」

「……わからない。気づいたら、ここにいたんだ」

「ふむ、そうか……もしや、さっきのミラードに連れてこられたのかもしれんな。奴らの転移は周囲の生命体を巻き込む事があるからな」

「……あなたも、あの怪物を知ってるのか?」

「ああ、奴らは害虫のような魔物でな。人間の記憶を食うために世界を転移する……俺様は奴らを駆除するためにここに来たのだ」

「人間の記憶……?」

「――そのままの意味ですよ、ビャクヤさん」

首を傾げた私の肩を寄せ、母さんが私とオリーリヤの間に割って入る。母さんは鋭い視線をオリーリヤに向け、片手で刀を構えた。

「ミラードは人間の記憶……人間を構成する要素を糧とする魔物です。奴らにあったが最後……廃人にされて、存在を抹消されてしまいます」

「……ほう、詳しいな。人間でミラードを知ってる奴は初めて見たぞ」

「……何者ですか、あなたは。ミラードを一撃で殺し、≪魔法≫を用いてビャクヤさんの傷を治した……そんな人間を、私は見たことがありません」

「まぁ、俺様は人間ではないからな!カッカッカ!」

オリーリヤの高笑いを聞いて、母さんはより目つきを鋭くした。……ここまで警戒してる母さんは初めて見た。母さんは背丈も高いし、威圧感が凄い。そんな母さんを前にしても、オリーリヤは全く恐れた様子がない。

「カッカッカ!そこまで警戒するな。俺様は優しいからな。人間は殺さん」

「……信用できませんね」

「貴様らが生きているのがその証拠だ。貴様らがミラードなら、俺様は容赦なく殺しているだろうよ」

「…………」

……母さんの顔が怖い。普段はとても優しい人なのだが、こんな顔をしているのを見るのは初めてだ。流石の私でも、ちょっと怖い。

「母さん、落ち着いてくれ……オリーリヤさんもこう言ってるし、実際私達は助けてもらったじゃないか」

「表で良い顔をして、裏で悪い顔をする人間なんてごまんといますよ、ビャクヤさん。警戒するに越したことはありません」

「カッカッカ!この俺様を悪党扱いか!ビャクヤよ、貴様の母とやらは面白い人間だな!」

「……っ!」

母さんとオリーリヤは互いに視線を交わし、オリーリヤは獰猛に笑い、母さんは冷徹な瞳で睨みつける。さっきと同じく、一触即発の状態だ。私は思わず叫びをあげる。

「二人共!喧嘩はやめてくれ!」

「カッカッカ、喧嘩だと?こんなでかいだけの女、俺様の相手にもならんわ」

「……っ。その減らず口、叩き斬ってあげましょうか?」

駄目だ、火に油を注いでしまった……!私だけでは、二人を(主に母さんを)止められない……!私はずっと母さんの後ろで黙っていたアカリに声を掛ける。

「アカリ!母さんを止めてくれ!」

「ええっ、なんで僕!?無理だよ!さっきまで空気になってた人間に何ができるっていうの!?」

……それは確かに。

「ビャクヤよ、止める必要はない。俺様がこのまま動かなければよい話だ。こんな奴のなまくら剣では、俺様には傷の一つもつけられん」

「何ですって!?」

まずい、母さんが本気でキレた……!オリーリヤの言葉が完全に裏目に出ている……!このままだと、本当に喧嘩になるかもしれない。

「黙って聞いていれば、でかいだけの女だのなまくら剣だの……!許せません!」

「お、落ち着いてくれ母さん!」

「そうだよ、確かに母さんはいろいろ大きいけど、気にすることないって!」

「――あの少女を切り捨てます」

「アカリ!?お前は何を言っている!?」

何故火に油を注いだ!?母さんが怒りを通り越して無表情になったぞ!?そんなやりとりをしている間に、母さんが鞘から刀を――

「はいはい、そこまでですよぉ」

抜く前に、二人の間に割って入る声があった。その人はどこから現れたのか、二人の間に立って、母さんの手を押さえていた。私とアカリは後ろに下がり、割って入ってきた人を見る。――その人は、()()()()()()()緑髪の女性だった。

「オリーリヤちゃん、血気盛んなのはいいけれど、喧嘩するのは駄目でしょ?若いうちは、仲良くしなくちゃねぇ」

「い、イヴリプス……」

「ほら、そっちの子も。そんな物騒なものしまって、オリーリヤちゃんと仲良くしてくれないかい?」

「え、ええ?」

緑髪の女性にオリーリヤは目を見開いて驚き、母さんは困惑している。刀を抜こうにも手が押さえられているせいか、母さんの手は全く動いていない。

「ほら、二人共。仲直りの握手をしましょうねぇ」

「……うむ。分かったぞ」

「い、いきなりなんですかあなたは。握手なんてするわけ――」

「まぁまぁ、そう言わずに。ほら」

緑髪の女性は、母さんの左手に無理やりオリーリヤの右手を握らせた。それを見て、女性は嬉しそうに頬を緩める。

「よくできたねぇ。よしよし」

「ちょっ……!?何故私の頭を撫でるのですか!というか、手が動かな――」

「オリーリヤちゃんも。よしよし」

「カッカッカ!この感じ、久しぶりであるな!」

オリーリヤは満足そうに笑い、母さんは必死に手を振りほどこうとしている。先程までの殺伐とした雰囲気が一転して温和な雰囲気になり、私とアカリはひとまず安堵の息を吐くのだった。

  

  


 

 

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