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箱庭幻想譚―救い無き箱庭で、少女は幸せを願う―  作者: 物部 妖狐
第二章 首都スメラギへの旅路

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第3話 意見のぶつかり合い

 初めての野営だから、眠れないんだろうなぁ……とは思っていたけど、そんなことはなかった。


(ゼンさん……優しかったなぁ)


 ゼンさんは痛そうにお腹をさすりながら、私が寝るまでいろんな話をしてくれた。

 気づいたら夢の中にいて、転生前の夢を見てしまったけど、慣れない場所で寝たせいだと思うから、しょうがない……のかも。


「ねぇ……ずっと歩いてばかりで、疲れてきたかも」


 あの夜から、深い森の中を歩き続けて三日が経ったけど、いまだに首都スメラギに着きそうにない。


 歩き続けて足が痛いし、わがままだってわかってはいるけど、そろそろ……ベッドでゆっくりと休みたい。


「たぶん、あと一週間くらいで着く。だから頑張ってくれ」

「えぇ? なら……他に町とかあったら、そこで休みたいかも。ねぇねぇ、近くに人が暮らしてる場所とかないの?」

「あるにはあるけど、今は近づくべきではないと思うけどね」

「……なんで?」


 カーくんが地図を見ながら言うけど、どうして近づいてはいけないのか。

 疲れているんだから休みたいと思うのは当然だし、少しでもゆっくりとしたい。


「集落での襲撃のように、町に着いて気が緩んだ瞬間に襲われたら……危ないからね。ゼンがいるから、そう簡単にどうにかなることはないだろうけど、わざわざ危険を増やしてまで近づく必要はないだろうしね」

「俺としてはシャルネが行きたいなら、別にいいと思うけどな。旅に慣れてない奴に無理をさせるのはよくないだろ」

「そうかもしれないけどね……いくらゼンが強くても、集団を相手にすれば限界はあるだろう?」


 またこの前みたいに、私を置いて二人で話し始めるけど……もしかして、私のことを忘れてないかな。


「……ゼン。君に守り切る自信があるなら、行ってもいいとは思うけど、どうなんだい?」

「おまえに言われなくても大丈夫だって」

「君ならそう言うとは思っていたさ。けどね……襲われた時の周囲の被害はどうするんだい? シャルネ、君も旅に出た以上は、自分の身は自分で守らなければいけない時がくる。わかっているんだよね?」

「……え、えっと」


 わかっているつもりだけど、ちゃんとできるかは、わからない。

けど、私のせいで傷つく人が出てしまったら、後悔する……と思う。


(もし……死んじゃう人まで出たら、残された人はどうするのかな)


 私には残された人の気持ちはわからない。

でも、ゼンさんやカーくんが私の前で死んでしまったらと思うと、なんだか嫌な気持ちになる。

……もし、これが残された人が感じる気持ちなんだとしたら、今はわがままを言わないほうがいい気がする。


「……それなら諦めようかな。だって、私のわがままで傷つく人がいるのは、い……いや、だよ」

「カーティス、そんなこと言ったら首都に着いた後どうするんだ? シャルネに無理をさせるのは、俺は反対だぞ?」

「反対するってことは、それなりの理由を聞かせてくれるんだろうね?」

「理由とか、理屈じゃねぇよ。集落から外に出た以上、ここはもう生きるか死ぬかの世界だ。栄花の中はまだ幾分かましっちゃあましだけどさ。無理させたいわけじゃねぇ。……けど、早いうちに慣れさせたほうがいいだろ」


 慣れさせたほうがいいとか、まるで私の保護者みたいで……少しだけ嫌だな。

どうするかは、私が決めるものなのに、私を置いて行かないでほしい。


「それは……たしかにそうかもしれないけどね。いきなり過酷な環境に連れて行くのは、俺はどうかと思うかな。……悪いけど、そんな乱暴な考えをするなら、俺はシャルネの気持ちを無視した判断はしたくないね」

「だからって、いつまでも危険から遠ざけてたら、こいつのためにならねぇだろ」

「あ、あのぉ……わ、わたしのために色々と言ってくれるのは、嬉しいんだけど……」


 二人の声が少しずつ硬くなっていく気がして、このままだと喧嘩になってしまうかもしれない。


(……どうしよう)


 そう思って、止めようとしたけど……次の言葉が頭に浮かんでこない。


「……どうした?」

「え、えっとね。ほら、私からしたらもう、この状況が過酷って……いうか。でも、ゼンさんの言うように危険があるなら慣れたほうがいいと思うし……」

「君は本当にそれでいいのかい?」

「う、うん。だってカーくん……私の気持ち、無視しないでくれ……るんでしょ?」


 カーくんが、小さく溜め息を吐く。

それから困ったように笑って、優しい目で私を見る。


「……いいよ、それなら行こうか。けど、自分で選んだ答えを後悔しないようにね」

「後悔しないって約束は……できないけど、わ、私……この世界について知らないことが、お、多いから、この目で見て、ちゃんと考えられるようになりたい……かな。こ、これじゃ……ダメ?」

「そこまで言うなら、これ以上は何も言わない……けど、本当に君に危害が及ぶと判断したら、俺は町の住人たちを皆殺しにしてでも、君を守るつもりだよ」

「そ、そこまで……しなくても?」

「するさ。君はこの箱庭……いや、俺たち魔族にとって、大事なお姫様だからね」


 カーくんはそう言うと、何かを考えるように難しい顔をして、静かになってしまう。

皆殺しにしてでも……という言葉が、胸の奥に小さく引っかかった。

けど……多分、これに関してはしょうがないと思う。

カーくんにはカーくんなりに、この旅について思うところがあるんだろうし、ゼンさんにはゼンさんの考えがある。


(……旅に出るって、こういうことなのかな)


 だからきっと、これからも旅の間に何度もぶつかることになるんだと思う。


(喧嘩になる前に話し合って、お互いのことを少しずつ知って、仲良くなれたらいいなぁ)


 そんなことを考えていると、ゼンさんが私たちに振り向いて、笑みを浮かべた。


「とりあえず……話はまとまったな。俺の記憶が間違っていないなら、ここから町までは陽が沈むまでには着けるはずだ。さっさと行こうぜ?」


 そう言って、ゼンさんは私たちの前を歩き出すのだった。

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