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箱庭幻想譚―救い無き箱庭で、少女は幸せを願う―  作者: 物部 妖狐
第二章 首都スメラギへの旅路

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第2話 焚火と苦手な食べ物

 あの後、集めた枝をテントまで持ち帰って火を起こして、カーくんと話しながらゼンさんの帰りを待っていた。

しばらくしてゼンさんが、見たことがないくらいに大きい蛇を獲ってきた。

……けど……


(……これって、どうやって料理すればいいの?)


 正直、どうすれば美味しくなるのかが分からない。

だから適当に鍋にぶち込んでしまおうと思って、まずはゼンさんに手伝ってもらいながら頭を落とす。

それから苦戦しながら皮を剥いで、枝を集めていた時についでに採っておいた野草と一緒に煮込んだ。


(臭いは大丈夫そうだけど、食べれるのかな……)


 爬虫類は鶏のささみのような味がするって、転生前……誰かから聞いたことがあるけど、見た目のせいで想像ができない。


 でも、ゼンさんが美味しそうに食べているから……とりあえずは、人が食べても大丈夫なんだと思う。


(でも……カーくんはちょっと、嫌そうな顔してる?)


 もしかして口に合わなかったのかも。

なんだか悪いことをしてしまったような気がして、カーくんを見るけど……何も言わずに、完食してくれた。


(……次は絶対に、カーくんに美味しいって言わせてみたいなぁ)


 そう思いながら蛇の肉を口に運んだけど、独特な生臭さがあって、食べれなくはないけど美味しくはなかった。

ゼンさんのことだから、お腹に入ればそれでいいって感じで、美味しいって食べてるみたいだけど……今度は私とカーくんのために、もっと頑張ろう。


「——でさ。夜間の警戒は誰がやる?」


 夜ご飯を食べ終えて片付けをしていると、地面に腰を下ろしていたゼンさんが、思い出したように言葉にする。


「……そうだね。君は狩りで疲れているだろうし、夜目がきく俺がやろうかな」

「カーくん……だ、大丈夫、なの?」

「問題ないよ。種族の特徴で、生物の体温が分かるんだ。暗くても、誰がどこにいるのか分かるからね」

「ふーん……まぁ、そういうことなら任せるわ。けど、何かあったらすぐに呼べよ?」


 二人でどんどん話を進めてしまうけど、私は……夜間の警戒? っていうのをしなくていいのかな。

旅をするんだから、こういう大事なことは皆で分担した方がいいのに。


(でも、私がいても役に立てないと思うし、役に立てるの……料理しかない)


 他には……疲れている二人を労ってあげて、疲れを次の日に持ち越さないようにしてあげる。

テントの中に入って、横になったゼンさんを見ながら考えてみるけど……考えれば考えるほどに、頭の中がこんがらがってしまいそう。


「……ね、ねぇ。私も夜間の警戒……とか、しないで大丈夫、なの?」


 だから、形だけでも意思表示をしようと思って、カーくんの隣に座ってみる。


「ん? 君は旅に慣れていないんだから休みなよ」

「で、でも……それだと私、料理しかでき、ないよ?」

「気にしないでいいんじゃないかな? もちろん、慣れてきたら少しは手伝ってもらうだろうけど、それまではできることをしてくれたらいいよ」


 優しげな声で言ってくれるけど、わかってる。

カーくんはどこかで、私との間に距離感を作ってるってこと……だから、そろそろ冷たい言葉がくる……と思う。


「あぁ……でも、そうだね。できれば次からは、蛇だけは止めてほしいな。後でゼンにも伝えておいてくれないかな」

「……え? やっぱり美味しくなかった?」

「いや、そうじゃないんだ。見た目のせいでどうしても、共食いをしているような気になってね。……心が落ち着かない」


 私の気持ちとは違って、すがるように話すカーくんに少しだけ申し訳ない気持ちになる。


(魔族と蛇は全然違うと思うけど、カーくんが嫌なら気を付けないと……だよね?)


 できればカーくんには、美味しいって思えるものを食べてほしい。

私は……うん、前世のせいで、食べるのが楽しいって思えないけど、二人が嬉しそうにしてくれたら、嬉しいって思う。


「共食いっておまえ、魔族と爬虫類は違うのに……何言ってんだ?」

「おや、起きてたのかい?」

「横になってすぐ寝れるわけないだろ?」

「……それもそうか、けどね。ダメなものはダメなんだ」

「ほ、ほらゼンさん! カーくんが嫌がってるんだから……や、やめよ?」


 テントの中から聞こえてきた声に、咄嗟に言葉を返す。

思ったことを口にするのはいいけど、それで……相手が嫌な気持ちになるのは、ダメだと思う。


「好き嫌いするのは、奪った命に申し訳ないだろ?」

「そ、そうかも……だけど、ほら、ゼンさんにも嫌いな食べ物ってある、でしょ?」

「ないぞ? 昔から生きるためになんでも食わないといけなかったからな、そんな贅沢を言う余裕なんて……なかったしな」


 ゼンさんの気持ちはわからなくはないけど、今は自分で食べ物を狩って自由に食べれるようになっているんだから、贅沢をしていいと思う。


「で、でも……ゼンさんも、自分からあんまり食べたくないって……思うのも、ある、よね?」

「……野菜、だな。できれば肉だけ食っていたいくらいだ」

「え? お肉だけって、集落で普通に食べてた……よね」

「そ、そりゃあ……おまえ」


 僅かに頬を赤らめて、小さな声で何かを言っているけど……離れているせいで、よく聞こえない。


(……なんか、ゼンさんらしくない)


 けど、カーくんが面白いものを見たかのように、静かに笑い始めて、ますますこの状況が分からなくなっていく。


「ゼンさん? ちゃんと言ってくれないと……わからない、よ?」

「だ、だからだな……」

「ふふ、シャルネ。ゼンはさ、君が作ったものだから、ちゃんと食べたかったって言いたいんだよ。……まぁ、俺の畑で採れた野菜だから、美味しいのは当然だけどね」

「カ、カーティスおめぇっ! これ以上余計なことを言うな! シャルネも……こいつの邪魔をいつまでもしてねぇで、もう寝るぞ!」


 テントから出てきたゼンさんが、私の手を掴むと、そのまま中へ引っ張っていく。

カーくんにおやすみって言葉を言う間もなく、寝床の近くまで連れていかれると、ゼンさんは何事もなかったみたいに再び横になった。


(あれ? これって……わかってはいたけど、年頃の男女が一つ屋根、いや、テントの下でって、こと?)


 外でカーくんが見てるのに、そんな……強引なことをするなんて、まるで盛りのついた……。


「け、けだ、もの……ふひ、ふひひ」

「うわぁ……ゼン、テントが一つしかない以上はしょうがない……とは思うけど、仮にも【お姫様】を手荒に扱うのはどうなんだい?」

「うるせぇ、こいつが救世主だろうが、おまえたちのお姫様だろうが、こいつはこいつだろうが! くだらねぇこと言ってないで、周囲の警戒でもしてろ!」


 ゼンさんの言葉にドキッとする。

私のことをしっかりと見てくれているような気がして、すごく……嬉しい。


「必死に言う姿はまるで、シャルネと二人きりになる言い訳を探してるように見えて……とってもこっけいだよ。ふふ、面白いけど、そろそろ止めた方がいいんじゃないかな」

「……うるせぇって、ったく」


 何だかこの二人のやりとりって、年の離れた兄弟みたいで面白い。


(……世話のかかる弟みたいなゼンさんに、世話焼きのカーくんって感じ?)


 そう思いながらゼンさんの隣で横になると、テントの入口の向こうで、カーくんが小さく手を振った。


「……さっきは、気を遣ってくれて嬉しかったよ」


 焚き火に照らされた横顔で、カーくんは静かに笑う。

その姿を見ていたら、なんだか私まで照れくさくなって思わず。


「お、おひゃふみなひゃい!」


 私もカーくんにおやすみって言おうと立ち上がったけど……緊張して、思いきり噛んでしまった。


(……あ、頭がくらくらする)


 しかも、いきなり立ち上がったせいで足がもつれて……そのまま身体ごと倒れ込んで、ゼンさんのみぞおちに肘を落としてしまう。

 そうして、静かな夜に……ゼンさんの悲鳴がこだまするのだった。

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