第1話 私たちのこれから
野営の準備ってどうやるのかな。
そう思いながら二人の姿を見守っていると、ゼンさんがバッグの中からテントを取り出して組み上げていく。
(……なんか、手際がいいなぁ)
カーくんも、金具を地面に刺して、テントに繋がっている紐を器用に結んでいる。
その様子を見ていると、なんだかすごい……頼もしく感じて、少しだけ頬が緩んでしまう。
「……どうした?」
「え、あぁ……うん。なんだか、二人がすっごく手際がいいなぁって……」
「手際がいいって言われてもな、俺は……あの集落に落ち着くまでは野営が多かったから自然とな。まぁ、俺としてはカーティスの方が意外だけどな」
「俺は、野菜を育てる過程で覚えただけだよ。季節外れの野菜を育てるのに必要だったからね」
転生前にテレビで農業関連の番組がやってた時に、同じようなことを聞いたような気がするけど、内容は全然覚えてない。
(すごいなぁって思ったけど、素人が見よう見まねでやるのは良くないし?)
そもそも、興味がなかったっていうのもあるけど……覚えていたら、カーくんがどうしてそんなことをしていたのか、少しは分かったのかもしれない。
「さてっと……テントの設営も終わったし、俺は今晩の飯でも狩ってくるわ」
「え? ゼ、ゼンさん。明日からのことを話すんじゃ……ないの?」
「あぁ……悪いけど、俺はそういうのには向いてないから、面倒なことは二人に任せるわ」
バッグをテントの中に放り込んだゼンさんが、手を振りながら森の奥へと消えてしまう。
「あ、い……行っちゃった」
そのあまりにも迷いのない行動に、何も言えずに見送ることしかできなかった。
(こういう大事なことって、皆でやった方がいいと思うんだけど……)
……けど、心の中ではちゃんと言えたから、これで良いことにしておこうかな。
「まぁ……ゼンは、考えるより、身体を動かす方が得意だからね。任せてもらえるなら、これはこれで助かるかな。シャルネもそう思わないかい?」
「……たしかに今まで頭を使ってるところ、あんまり見たことないかも」
「はは、言われるまで気付かないだなんて、君は今まで彼の何を見てきたんだい?」
「え、えぇっと……家に住まわせてくれるし、毎日食材を獲ってきてくれる頼もしい人?」
「そっかぁ……まぁ、うん。どうやら二人は相性が良いのかもしれないね」
妙に物わかりの良い、親戚のおじさんみたいな顔をされても反応に困る。
それだとまるで、私とゼンさんの考え方が似てるって言われてるみたいで、心外っていうか。
ちょっとだけ……嫌。
「とりあえず、一緒に焚き火に使う枝を拾いながら話そうか」
「え? あ……うん」
私たちまでテントから離れてしまっていいのかなって思うけど、ゼンさんが帰ってくるまで話す以外にやることはない。
(……暗くなってきてるのに、理由をつけて私みたいな美少女を連れ出そうだなんて、もしかして?)
手を出す気はないとか言っていたのに、やっぱり私の魅力には抗えないのかな。
「ふひ、これが……異世界ハーレム」
でもなぁ、モテちゃうのは困るなぁ。
だって私には、生活に困らない程度の暮らしをさせてくれるゼンさんがいるし?
「君が何を言ってるのか、よくわからないけど、とりあえずその緩み切った顔を止めた方がいいんじゃないかな」
「……え?」
「せっかくの美少女がこれでは台無しだよ」
「び、美少女って……それほど、でも?」
「……めんどくさいから、さっさと行こうか。早くしないと今日の夕飯に火を通さずに食べることになるからね」
「それは、いやかも……うん。早く行こう? カーくん」
すごい失礼なことを言われたような気がするけど……美少女って言われたから許してあげよう。
そんな私の気持ちを察してくれたのか、カーくんが小さく笑うと、私に歩幅を合わせてくれながら、枝を拾ってバッグにしまっていく。
「ここから先は、当初の目的通り、まずは栄花の首都スメラギに向かうことになると思う」
「……う、うん。けどいきなり首都って、だいじょうぶ……なの? ほ、ほら、物語のセオリーだと、道中でいろんな町や村を通って、やっと到着するって場所、だよね?」
「セオリー? 君の言葉をいちいち気にしていたら、めんどくさいね。まぁ……これにはちゃんと理由があるんだよ」
足を止めたカーくんが、バッグの中に手を入れると、一枚の手紙を取り出す。
『首都スメラギに行き、マチザワ殿とセイラ殿に会い、栄花の神【豊穣神プリムラスグロリア】の協力を得てください。その後のことは三人の判断に任せます』
カーくんから手紙を受け取り、灯りを近づけてもらいながら読んでみたけど、セイラさんってたしか……ゼンさんが言ってた口うるさい人だよね。
マチザワさんとは、一回話したから……たぶん、次はちゃんと話せるとは思うけど、初対面の人に会うのは、だいぶ不安かも。
(あ、ゲームとかだと、次の目的地に着いたら重大なヒントをくれるってあるし……きっとそういうことかも?)
きっと、色々と役に立つ話をしてくれて、まずは五大国のどこに行った方がいいとか情報をくれるはず。
それに口うるさいって言っても、セイラさんとマチザワさんは、ゼンさんの知り合い……たぶん、お友達みたいなものだし、私にも良くしてくれると……思う。
(……なんだか、首都に行くのが楽しみになってきたかも)
そう思うと、急な旅立ちも悪くない気がしてくる。
呆れたように肩をすくめるカーくんを見ながら、私はワクワクを抑えられなかった。




