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箱庭幻想譚―救い無き箱庭で、少女は幸せを願う―  作者: 物部 妖狐
第二章 首都スメラギへの旅路

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第4話 とても不快で嫌らしい町

 あの後、険しい道を抜けて街道に出た私たちは、ようやく小さな町に着いた。


 けど……集落と比べて、雰囲気が暗い。

 本当にこんなところで休めるのかって、心配になるけど……。


「……やっぱり、ベッドで寝たいなぁ」


 やっとゆっくり休めるって期待の前では、多少の居心地の悪さは関係ない。


「あぁ、仕事中に悪い。俺たちは旅の者なんだけどさ、この町の宿の場所を教えてくれないか?」

「……宿だぁ? こんな小さな町にそんなもんないぞ?」

「ないって、まじか。……ならさ、一晩だけでも泊まれるところがあったら、知りたいんだけど、いいか?」

「あぁ……それなら、町長のとこに行けば泊めてくれんじゃないかな。ほら、あそこの屋根の色が一つだけ違う大きな家があんだろ? そこに行けばいい」


 近くで畑仕事をしている人に、ゼンさんが宿があるか聞いてくれたけど、宿がないからって町長さんの家にお邪魔していいのかな。

 見ず知らずの他人がいきなり現れて、一晩泊めてくれって言われたら、私なら……嫌だと思う。


「あ、あの……だ、大丈夫なの?」

「へぇ……まぁ、話好きな人のいい爺さんだから、喜んで泊めてくれるさ」

「そういうことなら早速、行かせてもらうわ」

「おぅ、そこの旅慣れてない綺麗な娘さんをちゃんと休ませてやれよ? ……あ、そうだ。一応確認なんだけどさ、これ、あんた等の女……じゃねぇよな?」


 さっきから私の身体を上から下まで、なめまわすように見てくる。

 なんだか、嫌な気持ちになったけど、途中で視界をさえぎるようにカーくんが前に出てきてくれた。


「……俺たちはそういう関係じゃねぇぞ?」

「ん? いやぁそうか……。そりゃそうだよな、見た目は綺麗でも、胸が平らで貧相じゃあ、恋仲にもなれやしねぇわな」


 ……胸が平らなのと、美人なのは別だと思う。

 褒めてもらえたのは嬉しいけど、カーくんの背中越しに感じる視線はやっぱり、すごい気持ちが悪い。


「君、もしかして彼女に手を出そうとか、考えてないよね」

「……そ、そんなことしねぇよ。さぁ仕事だ仕事、早くしねぇと夜になっちまう。ほら、あんたらも暗くなる前に町長の家に行きな!」


 そもそも、人のことを見た目だけで選ぶような人と一緒にいたくないし、今の人みたいな人と恋仲になるのは嫌。


「……シャルネ。大丈夫かい?」

「う、うん……ありがと」

「大丈夫ならいいけど、無理はするなよ?」

「え、ゼ、ゼンさん!?」


 畑仕事に戻った男の人を無言で睨みつけていたゼンさんが、カーくんの背中の陰から出てきた私の手を握ると、足早に町長の家に向かって歩き出す。


「やっぱり……久しぶりのベッドはいいなぁ」


 あの後、屋根の色が違う大きな家に向かうと、町長さんはすぐに私たちを笑顔で迎え入れてくれた。

 空き部屋を一晩だけ貸してもらえることになって、私は部屋に入ってすぐ、ベッドの上に飛び乗ったけど……多少の硬さが気にならないくらいに、気持ちがいい。


「——ルネ。ったく、気持ちよさそうに寝てるな」

「ん? え……え?」


 ベッドの上でゆっくりしている間に、いつの間にか寝てしまっていたみたいで、窓から見える景色が少しだけ暗い。


「あ、ご……ごめん、ね?」

「謝んなくていいって、慣れない旅で疲れてんだから当然だ」

「う、うん。……けど、起こしにきたってことは、何かあったの?」

「いや? 町長がもうすぐ夕飯だから一緒に飯を食いたいんだってさ……どうする?」

「あ、うん。それなら……私もいくね」


 ベッドから起き上がって、ふと……町長さんの家に行くまでの道中を思い出す。


(なんか、嫌なところ……って気がする)


 すごくやせ細って骨と皮だけみたいな人に、不健康そうなくらい痩せているのに、お腹だけ大きい妊婦さんもいて、見ていて辛かった。


 それに、すれ違う男の人たちから嫌らしい視線を向けられた。

 ……それも、小さな男の子からまで、二人に心配させたくないから、気づいていないふりをしていたけど、苦しかった。


「……やっぱりやめるか?」

「だ、大丈夫」

「……無理はするんじゃねぇぞ?」

「うん、わ、私は大丈夫、ありがと」


 ゼンさんと部屋を出た後も考えてしまう。

 この町はまるで、女性を道具のように扱って住人を増やしているんじゃないかって、これが私の妄想だったら……いいけど。


 でも、私の感じている不安が事実で、もしこれが、栄花の常識だったら……すごい嫌だ。

 けど……これが、この町独自の習慣だったとしたら、今夜だけは我慢して休んで、朝になったらすぐに出ようって二人に相談しようかな。


「おぉ、よく来てくれました。慣れない旅でお疲れだとお連れの方から聞いておりましたので、夕飯をご一緒できないかと思ってましたよ」


 食事が用意された部屋に入った瞬間、町長さんが笑顔で迎え入れてくれる。

 けど……さっき、町の中のことを思い浮かべたせいか、まるで貼り付けられた表情みたいに感じて、少しだけ怖い。


「あ、あの……いえ、あの、せっかく……作ってもらった……ので」

「……はい?」

「町長さん、この子はひどい人見知りでね。初対面の相手だとうまく話せないんだ……気を悪くさせてしまったなら、俺が代わりに謝るよ」

「な、なるほど、そうなのですね。ささ、綺麗なお嬢様、是非私のとなりに座ってください」


 やっぱり、町長さんの視線も気持ち悪い。

 でも夕食に誘われたからには、言われた通りに隣に座らないと失礼……だよね。


 そう思って、町長さんの隣の椅子に座ろうとした時だった。


「別に座るところくらい、どこでもいいだろ?」


 ゼンさんがその椅子に座ると、隣の椅子を手で押して、私が座れるようにしてくれた。


「そ、そうですな。いやあ……それにしてもその美しさ。人見知りのお嬢様だとしても、慣れている方の前では、きっとよく笑うのでしょうな。それに、先ほどの言葉も言いたいことはわかったので大丈夫ですよ。……見た目だけでなく心までお美しいとは、感激いたしました」

「あ、ありがとう……ござい、ます」

「ささ、お嬢様のお口に合うかわかりませんが、冷める前に召し上がってください」

「あ、は、はい……いただき、ます」


 乾燥して硬いパンに、野菜を入れて煮込んだだけのスープを、ゼンさんの真似をして食べるけど、お世辞にも美味しくない。


(……食べてる時くらい、落ち着かせてほしいな)


 まるで商品を見定めるような、嫌らしい視線を向けてくるせいで、ご飯を食べることが嫌になりそう。


「食事の作法もしっかりとしておられるとは、もしかしてと思っておりましたが、やはり……良家のお嬢様ですか?」

「え……あ、あの——」

「違うぞ? こいつは俺と同じ村で生まれ育った幼馴染だよ。子供の頃は、目を離すとすぐ木に上ったり、川に飛び込んでびしょ濡れになるわ。おてんば娘だったんだぜ?」


 身振り手振りで、ゼンさんが私の子供の頃の作り話をしてくれるけど、これだと……まるで、本当に幼馴染みたい。


(そんな、子供の時を二人で過ごしてみたかったかも)


 自然と美味しくない料理も、ゼンさんの隣だと美味しく感じてくる。


「ほう……まさか村娘とは、見かけにはよらないものですな。いやぁ、そこまで元気な娘となると、さぞ良い男児が産まれるのでしょうな」

「……え?」

「良き男の元に嫁げば、生活にも困らないですからな。……これは、もしもの話ではあるのですが、この町は男が多く……女が極端に少ないもので……嫁を貰える家が少ないのですよ。良ければ、ここでお相手を探していただけませんかな」

「お、お相手って……私、まだ誰とも、付き合ったことも、ない……し」


 私の言葉を聞いた瞬間、町長の目の色が変わった。

 驚いて二人に視線を送るけど、カーくんは顔色を変えずに食事を続けていて、何を考えているのかよくわからない。


(……なんで、私を助けてくれないの?)


 けど、ゼンさんだけは、笑顔で聞きながら、自分の太腿を強く握り締めて我慢しているのが見えて、気持ちが少しだけ落ち着いた。


(……私のために、怒らないように我慢してくれてるんだ)


 その手を離したら、今にも暴れ出しそうな雰囲気で、でも……私の視線に気付いて、いつも以上に優しく笑ってくれて、息がちょっとだけしやすくなる。


「ということは生娘なのですなっ! これは素晴らしい。……あ、いえ、申し訳ありません。もし……この町で良き出会いがあり、関係を持ちたいと思うほどの相手がおりましたら、是非このまま夫婦として末永く暮らしてくだ……さ……」

「……どうしたんだ? 結構、辛そうだぞ?」

「お、おや……も、申し訳ない、急にお腹の調子が、大事な会話の席なのにし、失礼っ!」


 町長さんが全身から汗を噴き出しながら立ち上がると、凄い速さで出て行ってしまう。


「カーティス。……おまえ、やったな?」


 さっきとは違って、自然な笑みを浮かべたゼンさんが、何かを察したかのようにカーくんを見る。


「あまりにも不快だったから、魔法で彼のスープの中に、人間が腹を下す程度の微弱な毒をね。しばらくはトイレから出られないんじゃないかな?」


 そう言いながら、カーくんは目を細めて魅力的に微笑む。

 あぁ、良かった……カーくんも、怒ってくれていたんだ。


 そう思うと安心して、私も少しだけ笑顔になるのだった。

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