第24話 城の外へ(3)
2人を乗せたゴーレム車は門を潜ると、まず初めに七色に光り輝く台座の上にそびえ立つ黄金で作られたとある人物の像の真横を通り過ぎた。
「あれは?」
「アイルハート王国初代魔王ヴァヌイット・アイルハート様の像だ。初代魔王様はこの国の礎を築いた魔王の中の魔王。その為、魔族からの人気が今でも根強いのだ」
「へぇ」
「過去の文献によれば、初代魔王様は幾万の人間の兵に1人で挑み、1人残らず肉塊にし、辺り一面を血の海にしたという逸話が残っている。その場所は今も残っており、その伝承から血の平原と呼ばれている」
キルフィスの説明にローズマリーは軽く相槌を打つ。
初代魔王の説明を一通りした後、キルフィスは自分の翼を嘴で噛み、表情に陰りを見せた。
「昔はあの魔王様の像は石像だったのだが、劣化が酷いのと今の時代に石像は古臭いという理由で今の像に建て替えられたのだ」
次第に遠くなっていく金色に光り輝く魔王の像をキルフィスは車内から見つめながら、忌々しく呟いた。
建て替えられた理由は真っ当なのだが、その様子にローズマリーは彼は何かしらの矜持を持っているのだと読み取れる。
だが、何が彼をそんなに不機嫌にさせるのかまでは彼女には理解できなかった。
2人の間にしばらく沈黙の時間が流れ、ゴーレム車はやがて街の方へと繰り出し、外から賑やかな声が聞こえ始めた。
ローズマリーは無意識のうちにゴーレム車の窓から街の様子を眺める。
出店で買い物をする母親と思われる猫型の魔族とその周りをうろちょろとしている子猫の魔族、安売り中である事を声高々に上げて宣伝するゴブリンの店主、綺麗に舗装された白い石畳の道を高笑いを上げながら駆けていく複数の魔族の子供達。
ローズマリーが初めて見た魔族の街の光景は、かつてノヴァウスで見たものと何ら変わりなかった。
(魔族の街だからどんなものかと思ったけど、人間が魔族に代わっただけで本質は何も変わらないのね)
そのような事を考えながらローズマリーは街の風景を眺めていると、
「賑やかな街だろ?」
街の賑やかさにつられてなのか、さっきまでしかめっ面のまま口を堅く閉ざしていたキルフィスが目を綻ばせながらローズマリーに話しかけた。
「そうね。あそこを思い出すくらい」
キルフィスの言葉に、ローズマリーは街を眺めたまま適当に返す。
そのまま興に乗り始めたキルフィスは先程のように、再び彼女と会話をし始めた。
「ここは魔王都ーー」
「魔王都ヴァヌイット。アイルハート王国初代魔王の名前から取ったこの国の首都。面積は約3843㎢、総人口は全人口の35%の約617万人。主に地位の高い魔族や出稼ぎ労働者が人口の大部分を占めており、魔王直属の領地でもある」
「……随分詳しいのだな」
「私はもうこの国の魔王軍将なのだから、自分の国の事を知らないなんて笑えないじゃない」
キルフィスは街の説明をしようとしたが、話そうとした事をローズマリーに先に全て言われてしまい、またもや好意を無下にされたキルフィスは引きつった笑いを浮かべながら、彼女に話しかけた。
彼女らしい真っ当な返事が返ってきたが、何か解せない気持ちでいるキルフィスは表には出さずに必死に平静を装う。
キルフィスの事を微塵も気にせず、ローズマリーは再び街の様子を眺めてると、ある光景が目に留まった。
それは、綺麗な建物と建物の間に広がる深い暗闇の中で横たわっている魔族の子供だった。
(……こんな所までそっくりね。)
一瞬ではあったが華々しい魔王都の光と影を目の当たりにしたローズマリーは、魔族の子供がかつて王都で見つけたガレディアと重なり、僅かに目を細める。
彼女のほんの微かな感情の変化に、対面で座っていたキルフィスは決して見逃さなかった。
「どうしたのだ?」
「一瞬だったけど、街の路上で生活してる魔族の子供が見えたの」
「ああ浮浪魔族か。この辺ではよく見かけるぞ」
キルフィスに話しかけられたローズマリーは、先程見かけた魔族の事をキルフィスに話した。
よく見かけるというキルフィスの言葉に黙って聞き流せなかったローズマリーは、眉をひそめながらその場で彼に問い詰めた。
「この国はあの子のような魔族が大勢いるの?」
「富裕層と貧困層の貧富の格差がこの国では問題でな。今の魔王様になってから少しは改善しつつあるが、それでも溝は深い」
腕を組みながら溜め息混じりにキルフィスは、この国の現状を彼女に包み隠さずに語る。
その中のとある言葉に、ローズマリーはひっかかるものがあった。
「今の魔王になってから少しは改善されたってどういうこと?」
「昔は一部の腐敗した貴族連中が庶民から多額の税をむしり取っては、湯水のように金を使ってまた庶民から税を巻き上げるのを繰り返していてな。それを知ったガレディア様が激怒して彼らの身分と財産を剥奪した事があったのだ」
「へぇ。やるじゃないあの子」
「だがなぁ……」
祖国でそういった貴族を何人も見てきたローズマリーは、悪徳な輩を一切許さずに相応の裁きを下したガレディアをただ純粋に褒める。
ローズマリーに対してキルフィスは右の翼で頭を支えながらゴーレム車の扉をもたれかかり、ぼやくように呟いた。
「中には長い間、国の重役を担っていた者も居たがそういった者でも容赦なく剥奪したからな。まあそいつは前から評判が悪かったが。おかげで庶民にはかなり支持されてはいるが、一部の貴族からは反発を受けているのだ」
「ところで不敬な者達から取り上げた財産はどうしてるの?」
「領地などは一旦、魔王様の直轄領として管理して多大な活躍をした貴族に領地の一部を割譲したりしている。それから金品などは魔王城で保管して公共事業といった庶民の為の政策に還元されているのだ」
キルフィスと会話しているうちにローズマリーは、ゴーレム車の窓から黒い屋根の大きな屋敷を見つけ、屋敷の方へ指を指し、キルフィスに尋ねる。
「あの大きい屋敷は?」
「私の自宅だ」
そう述べるとキルフィスは停止の合図をゴーレム車に出してゴーレム車を停めた。
ゴーレム車に揺られる事数十分、2人はキルフィスの自宅に辿り着いた。




