第25話 コレクション(1)
無事に自宅へと辿り着いたキルフィスはゴーレム車の扉を開け、外に出た。
彼に続き、ローズマリーも認識阻害魔法をかけてから外に出ようとした時、
「ちょっと!あれキルフィス様じゃない!?」
「本当だ!キルフィス様だわ!」
「キャー!キルフィス様ー!」
偶然居合わせた女魔族達の黄色い声が湧き上がり、キルフィスは一瞬で彼女達に囲まれた。
「私達キルフィス様のファンなんです!」
「一緒に写真撮ってもらっていいですか!」
「あとサインもお願いします!」
キルフィスの周りを取り囲む彼女達は、自分達の要望を各々に口にしながら彼に言い迫る。
突然の出来事だったがキルフィスは一切拒まず、普段ローズマリーやサミエルに向けている爽やかな顔で彼女達に応えた。
それからキルフィスと彼のファンによる唐突な交流会が始まった。
女魔族達と一緒に写真を撮ったり、話をしたりと交流会は30分近くかかった。
女魔族達が満足して去っていくと別の魔族達に見つかり、先程のように交流会が再び始まる。
キルフィスは来るものを一切拒まずに次々と交流を繰り返し、結局交流会は1時間半にも及んだ。
彼が庶民の魔族達と交流している間、ローズマリーはゴーレム車の中でただじっと待つ事しかできなかった。
「ありがとございました〜」
「こちらこそ。気をつけて帰りな」
キルフィスは最後に交流していた魔族に笑顔で手を振りながら彼女を見送った。
最後の魔族が去った事を確認後、ローズマリーは髪を掻きながら呆れ顔でゴーレム車から降り、キルフィスの前に火の玉を灯す。
「すまない。随分待たせてしまったな」
「ここに居たらまた絡まれるかもしれないから屋敷に入りましょう」
「そうだな」
他の魔族に見つからないうちに2人はやや駆け足で彼の屋敷の門をくぐる。
ゴーレム車の中から見えてたキルフィスの屋敷は魔王都に建てられた一般住居よりはるかに広大な敷地を持っており、庭園には大小様々な石像が立ち並んでいた。
門から屋敷の扉まで等間隔に並べられたサキュバスを模った石像に囲まれながら、ローズマリーはキルフィスについて行ってるとある事に気がついた。
それは、ここまで来たゴーレム車のゴーレムに似た赤い石の欠片が庭園の至る所に散らばっていたのだ。
何故、彼の庭にウーラルレックと思しき石の欠片があるのかと疑問に思う。
かといってそれが何の影響を及ぼすはずもないとローズマリーは即座に頭の中からその事を切り捨てた。
「どうぞこちらへ」
そしてキルフィスが屋敷の扉を開け、ローズマリーは彼の屋敷の中に足を踏み入れた。
キルフィスが屋敷の扉を閉めたのを確認したローズマリーは先程まで自分にかけていた認識阻害魔法をようやく解いた。
突然姿を現した彼女にキルフィスは特に動揺する事なく、屋敷の大広間を歩き続けた。
「随分大きな屋敷ね」
「といっても叔父上のものを譲り受けてるけどな」
「叔父さんの?」
「ああ。この国の宰相をしているカーグストという男だ」
ローズマリーはカーグストには一度会ったことがある。
キルフィスの叔父である彼は非常に有能な人物で、ガレディアとアルバートも彼に信頼を寄せている。
だが、ローズマリーは彼に裏の人格のようなものがあると感じており、彼の事を信用してはいない。
今のところは彼が何かしら問題を起こすつもりはなさそうなので手を下すつもりはないが、その時がいずれ訪れる事を警戒している。
「彼、貴方の叔父さんだったのね」
「会った事あるのか!?」
「えぇ。一度だけ」
ローズマリーが叔父と会っていた事に、キルフィスは目を見開きながら足が止まる。
取り乱す彼をよそに、ローズマリーは少し歩くと光差す大広間の中心で注目を浴びる踊り子のように身体を捻らせ、彼に尋ねた。
「ところで、貴方の話って?」
「あ、ああ。話というのはだな。入って欲しい部屋があるのだが」
「部屋?」
「この屋敷の最上階の左奥に白い扉の部屋があるのだが、その部屋に入ってもらいたいのだ」
あまりのローズマリーの美しさについ見惚れていたキルフィスはハッと我に返り、彼女に要件を言った。
「部屋に入るだけなの?」
「詳しい話は入ってからする」
そう言うとキルフィスは大広間から他の階層に繋がる階段を上がって行く。
ローズマリーも彼の後を追うように続いて階段を上がって行った。
「ここがその部屋だ」
最上階に左奥の部屋に着くとキルフィスは扉を開き、ローズマリーに入るように促した。
彼に言われるがままにローズマリーは部屋に入ると中は薄暗く、無数の石像が所狭しに並んでおり、なんとも気味の悪い部屋だった。
「随分と素敵な部屋ね。それで、こんな所でする話って何なの」
ローズマリーは皮肉混じりにキルフィスに尋ねると、彼は扉を閉めた後に嘲笑するような低い声で彼女に言い放った。
「単刀直入に言おう。私のコレクションになりたまえ」




