↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切り勇者の征服譚  作者: ワニガエル
第2章 魔王軍
PR
21/26

第20話 私を口説き落として

 二人は椅子に座り直したが先程とは違って重く、鈍重な空気が部屋中を包み込んでいた。

 ローズマリーは腕を組み、澄ました顔と鋭い瞳でサミエルを見つめ、彼女は身体を凝縮させ、青を通り越して紫色になった顔で気まずそうに視線を逸らす。

 重々しい雰囲気の中、ローズマリーがこの状況を打破するように落ち着いた声で口を開いた。

「単刀直入に聞くけど、なんで貴方は私にあんな事したの?」

「貴方が欲しいと思ったから……」

 最早何も隠さず素直に白状したサミエルにローズマリーは特に動じる事もなく、彼女に冷ややかな視線を浴びせるだけ。

 何も言ってこないローズマリーにサミエルは頭が真っ白になりながら顔を伏せた。

「私が欲しかった?下らないの一言しか出ないしそんな事したらガレディアが黙ってないのは貴方も想像できるでしょ?そもそも小手先の手段で私を手籠めにしたところで貴方はそれで満足なの?」

 容赦なく突き刺さる正論にサミエルはうつむいたまま何も言い返せない。

 そしてローズマリーはハァと小さくため息を吐くと何を思ったのかおもむろに椅子から立ち上がった。

「サミエル。魔王軍将として貴方に命令する」

 ローズマリーから突然突きつけられた命令にサミエルは頭を上げ、固唾を呑むが何を言われるのかを察し、すぐに頭を下げた。

 (ああ。ここを追い出されるのね。まああんな事したから自業自得なのだけれど、これからどうしよう)

 ローズマリーに命令を下される事になったサミエルは魔王軍から追放される前提で今後の事に頭を巡らせる。

 (親の娼館で働く手もあるけど、不祥事で魔王軍を追い出された事が周りにバレればお父様とお母様、それに妹が好奇の目に晒されてしまうわ。なら今までの資産で自分の店を開くのは?でもわたくし、経営なんてした事ないし上手くいく保証なんてない。でもこのままでは露頭に迷ってしまうわ)

 サミエルが答えの出ない考え事に耽っているとローズマリーが見下ろしたまま一つの命令を下した。

「戦争が終わるまでに私を口説き落としてみせなさい」

「……はい?」

 唐突かつ意味のわからない命令にサミエルはとっさに頭を上げると目を丸くし、彼女からは想像つかない間抜け面を晒しながら、ローズマリーの顔を一転に見つめた。

「聞こえなかった?戦争が終わるまでに私を口説き落としてみせなさいって言ったのだけど」

 やはりもう一度聞いても意味が分からない。

「……何よそれ」

「何ってそのままの意味だけど」

「それが分からないのよ!」

 ローズマリーが何を考えてそんな命令を自分に出したのか分からないサミエルは顔を伏せたまま声を荒げ、椅子から勢いよく立ち上がった。

 そんなサミエルをローズマリーは前にも似たような事があったようなと思いながらただ彼女をじっと見つめていた。

「わたくしは身勝手な理由で貴方を支配しようとしたのよ!?貴方はそれに下らないと言ったし、例え魔王軍から去るよう言われてもそれを受け入れるつもりでいたの!なのに戦争するが終わるまでに口説けって意味分かんないわ!なんでわたくしを罵らないの!?なんでわたくしを魔王軍から追い出そうとしないの!?なんでそこまでわたくしの事をゆるーー」

 自分に正当な裁きを下さないローズマリーにサミエルは様々な感情が入り混じり、彼女への罵倒とも己の自虐とも取れる叫びを部屋中に響かせる。

 感情を剥き出しになりながら本音をぶちまける彼女にローズマリーは身を乗り出し、人差し指で彼女の唇に触れて無理矢理黙らせた。

「少しは落ち着きなさい」

 ローズマリーに諭され、サミエルは何も言わずにゆっくりと椅子に座り直す。

 彼女が落ち着きを取り戻したのを見届けた後、立て続けにローズマリーも椅子に座り直した。

「それで、何でわたくしは戦争が終わるまでに貴方を口説かなきゃならないわけ?」

 振り出しに戻り、サミエルは自分に下された意味不明な命令の意図を彼女に尋ねる。

 サミエルからの問いにローズマリーは少し間を置いてから口を開いた。

「貴方、私が欲しかったからあんな事をしたのでしょ?」

「それは……そうだけど……」

「だったら洗脳なんか使わずに私を自分の物にしてみせなさい」

 凛とした表情でローズマリーは命令の意図をサミエルに突きつける。

 どこまでも堂々としている彼女が輝いて見えたサミエルはとりあえず命令の意図を理解したが、ある事が引っかかっており、まだ納得が出来ていない。

「でもわたくしの言った事をなんであっさり信じられるの?適当についた嘘だとは思わないの?」

 サミエルは手を差し伸べられた時から引っかかっていた事を神妙な顔で彼女に再び尋ねる。

 ローズマリーはその答えに口角を上げ、少し表情を崩しながら口を開いた。

「さっき私の金髪が地毛なのか聞いてきた時に貴方から裏を感じられなかったの。私はこんな見た目だし勇者だったから打算や裏の目的がある奴はすぐ分かるのだけど、貴方は純粋に私に興味があるだけなのが分かった。だから貴方の言った事を私は信じたの」

 ローズマリーから告げられた瞬間、サミエルは心臓の鼓動が一瞬はっきりと聞こえたのと同時に何かが落ちる感覚がした。

 そしてそれが何なのかを察した後、自分の余りの単純さに呆れて乾いた笑いが溢れた。

 (滑稽ね。他人を誘惑し、魅了する事に長けたサキュバスであるわたくしが人間の元勇者に魅了されるなんてとんだ皮肉じゃない。でも貴方が欲しいのは変わらないからこれだけは言うわ。)

「分かったわ」

 サミエルは口角を上げて呟いた後、おもむろに椅子から立ち上がり、

「魔王軍第三軍軍長サミエル。誇り高きサキュバスの名にかけて貴方をわたくしの物にしてみせるわ」

ローズマリーを見下ろし、誓うか如く胸に手を当てながら声高々に彼女に宣言した。

 サミエルからの布告にローズマリーも口角を上げ、

「でも私を口説ける?なんてたって私はあの子のお気に入りなのだから」

余裕そうな笑みで彼女に挑発するように言い返した。

「後さ」

「何かしら?」

「これからは私の事はマリーって呼んでくれない?」

 ローズマリーからの突然のお願いにサミエルは一瞬目を丸くしたが、

「えぇ。分かったわマリー」

すぐ了承し、指定された名で彼女を呼んだ。

「ところでマリーに聞きたい事があるのだけど」

「何?」

 ローズマリーと和解して椅子に座り直した後、気になっていた事がもう一つあったサミエルはついでに聞くかの如く彼女に尋ねた。

「貴方、どうやって誘惑の状態を解除したの?普通は誘惑にかかるとかけた本人が解かない限りずっとそのままなのだけど」

 どうやって自力で誘惑を解いたのか聞かれたローズマリーはケーキスタンドに盛られたお菓子を取りながらいつものすまし顔で答えた。

「私、昔からそういった魔法の耐性が普通の人よりかなり高いらしくて子供の頃、試しに自分にかけてみた事があったの。毒、麻痺、催眠、石化、幻覚とか思いつく限りの魔法は全部試したけど全く効かなかったのよ。その後、親に物凄く怒られたけど」

 子供の頃の思い出と共に理由を話したローズマリーは何の返答もしないサミエルに違和感を感じ、彼女の方に顔を上げる。

 サミエルの顔はこの世の者でない何かを見たかのように青ざめており、ローズマリーに怯えているような眼差しでこちらを見ていた。

「貴方、本当に何者なの……?どこの生まれなの……?」

「王都から遠く離れた何の変哲も無い小さな村で生まれた敵国の元勇者だけど」

 聞かれた事を馬鹿正直に答えるローズマリーにサミエルは感情のボルテージが上がり、前のめりになりながら再び声を荒げた。

「そういう事を聞いてるんじゃないの!そもそもそういった魔法に耐性があるのは魔王様のような特別な血筋を持つ者だけなのよ!小さな村に住んでる村娘がそんなに耐性があったら色んな貴族から養子の話が山程送られて来るわ!」

 ローズマリーに色々な事を一方的に浴びせた後、我に返ったサミエルはやらかしたを言わんばかりに両手で顔を隠し、身体を縮こまらせた。

「ごめんなさい。わたくし、また貴方に酷い事を……」

「いや、謝らなくていい。それよりも」

 ローズマリーは特に気にしていない旨をサミエルに伝えた後、腕を組みながら扉の方に向かって睨むかのような鋭い眼差しを向ける。

「いつまでも盗み聞きしてないで入ってきたらどうなの?」

 自分のサミエルの他に誰かがいる事に気づいていたローズマリーは扉の向こう側にいる悪趣味な輩に低い声で牽制をかけた。

「おや?バレていたか」

 返事があった後、扉がゆっくり開くと向こう側にいた者が正体を現した。

「上手くいったと思っていたつもりだったが流石は勇者だ」

 扉の向こう側で二人の会話を盗み聞きしていたのは第二軍長のキルフィスだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。