第17話 十軍長
数日後、ガレディアは十軍長を招集し軍長会議を開いた。
議題は、クラウディア王国との戦争する目的と彼らに新たな魔王軍将としてローズマリーを紹介するためである。
「魔王様、全員揃いました。早速会議を始めましょう」
「ありがとう。ではこれより軍長会議を始める」
軍長達が真剣な眼差しでガレディアの方を向きながら会議が始まった。
「まず始めに今回の議題だが、君達も知っての通り、我々はクラウディア王国との戦争に身を乗り出した。目的は人間と魔族を隔てる壁を取り払い、共に生きる世界を作るためである」
ガレディアが戦争の目的を言うと、彼らは彼女の言葉に耳を傾けながら静かに聞いている。
「王国を相手取るにあたってこの度、君達に新たな仲間を紹介したいと思う。それじゃあ入って来て」
ガレディアは扉の方を向いてローズマリーを呼ぶと、彼女はくすみのない鮮やかな金色の髪を靡かせながら何にも臆さない堂々とした足取りで会議室に入り、軍長達の前に姿を現した。
「それじゃあマリー。みんなに自己紹介して」
ガレディアに自己紹介するよう言われた彼女はアルバートの時と同様、胸に手を当てながら十軍長達の前で深々と頭を下げた。
「ご紹介に預かりました。クラウディア王国七勇者が一人。愛の勇者ローズマリー・ヘルゲートです」
魔王に呼ばれて入って来た新しい仲間が敵である人間であり、それも勇者である事に彼らは互いの顔を見合いながら困惑と動揺の声を上げ、部屋は一気にざわつき出す。
「おい」
会議室が騒々しくなる中、明らかに不機嫌な声がわずかに聞こえたローズマリーが顔を上げた途端、
「何故人間がここにいる!!」
軍長の一人で、体長は五メートルをゆうに超える紫色のドラゴンが大翼を広げ、剣をも通さない硬い鱗で覆われた太く隆々たる腕でローズマリーの首元を掴みながら、敵意と憎悪に満ちた瞳で彼女を睨んだ。
「おい何してんだ!」
「落ち着け!」
ドラゴンは怒りでローズマリーしか見えておらず、他の軍長が慌てて止めに入るが周りの言葉を掻き消しているかのように聞き入れようとしない。
「今すぐ手を離しなさいフレイザード!これは命令よ!」
フレイザードと呼ばれたドラゴンが突如、ローズマリーに襲いかかった事にガレディアは鋭い視線を向け、就任の儀の際に発した低い声で怒り狂う彼に彼女への無礼を即座に止めるよう警告した。
「魔王様。まさかとは思いますが、こいつを魔王軍に入れようなどとお考えではありませんでしょうな?」
フレイザードは真紅とコバルトブルーの鮮やかなオッドアイでローズマリーを睨んだまま、彼女を断固して認めない意思を感じる声でガレディアを問いただした。
「そうよ」
淡々と言ったガレディアの言葉に、フレイザードは盛大に舌打ちしローズマリーから腕を離した後、何も言わずに扉の方へ歩き出す。
「おいどこ行く気だ!」
「人間なんざと一緒に居られるか。我は帰らせてもらう」
他の軍長に呼び止められたフレイザードは忌々しそうに吐き捨てると、白く鋭い爪を尖らせた足で扉を力任せに蹴破り、会議を放棄して部屋を出て行った。
「マリー大丈夫?」
「えぇ。いきなりの事で驚いたけど平気よ」
フレイザードから乱暴に解放され、床に座り込んでいたローズマリーは主に強く打ったお尻をさすりながら平然とした声でゆっくりと立ち上がった。
「魔王様、応急処置ではありますが扉の修繕を済ませておきました。それと今回の会議の内容については私が後で彼に伝えておきます」
「ありがとう。そうしてもらえると助かる」
フレイザードが壊した扉をアルバートが魔法を使って瞬く間に直し、ガレディアは今後の事に頭を抱えながら溜め息混じりにお礼の言葉を述べた。
「改めて紹介するけど、彼女はローズマリー・ヘルゲート。これから私達が戦うクラウディア王国の勇者で殺されそうになった私を助けてくれた恩人でもある」
軍長の一人が暴れてローズマリーに危害を加えかけるというトラブルに見舞われたが、何とか収まったのでガレディアは会議を再開させた。
「彼女にはアルバートと同じ魔王軍将に就いてもらっている。つまり、彼女は君達の上官にあたる事になる」
ガレディアが本来、敵である人間のローズマリーを自分達よりも地位の高い役職である魔王軍将に就かせた事に軍長達は驚愕の声を上げ、中には平常心を失って彼女に言い迫る者も現れた。
「どういう事ですか魔王様!!」
「何故人間である彼女を魔王軍将に!?」
声を荒げる軍長達の抗議の言葉にガレディアは彼らの言い分を冷静かつ素直に受け止める。
「君達が動揺するのも無理はないし、彼女の事を信用できないと思う者もいるだろう。だが、彼女が我々の味方である事は私がこの命にかけて保証しよう」
ガレディアの簡易ながらもローズマリーを信じて欲しいという情熱のこもった猛き熱弁に、軍長達は全員口を閉じたままただただ彼女を見つめる事しか出来なかった。
「それじゃあ一人ずつ彼女に自己紹介して」
軍長達に自己紹介するようガレディアが命令し、右奥に座っていた毛髪のない頭に角が一本生え、獣の毛皮で作られた下着を一枚履いた大男が口を開いた。
「第一軍長、オーガ族、ゴウケツ、よろしく」
ゴウケツが手短かに自己紹介を終わらせると彼の隣に座っていた黒い翼が生えた鳥型の魔族が自己紹介を始めた。
「初めまして、ミス・ローズマリー。私は第二軍長、ガーゴイルのキルフィス。以後、お見知りおきを」
自己紹介の後、キルフィスはローズマリーに向かって軽くウインクをする。
それを隣で見ていた薄紫色のウェーブがかかったロングヘアに羊のような巻き角が生えており、ローズマリーに負けず劣らずの豊満な胸が目立つ極端に露出が多い衣装を着た女魔族が彼に軽蔑の眼差しを向けて何かを呟いた後、色気を感じる甲高い声で種族と自分の名を名乗った。
「初めまして、わたくしは第三軍長のサミエル。種族はサキュバス。よろしくね。それとさっきはごめんなさいね、あのバカトカゲが」
「バカトカゲ?」
「さっき貴方に酷い事してきたドラゴンの事よ。アイツすーぐ逆上して暴れまくるから森を焼け野原にしたり、民や街を凍りつかせたりとしょっちゅう不祥事を起こすのよ」
聞いてもいない事をベラベラを喋る様に困惑しているローズマリーをよそに、サミエルは自分の話をどんどん進める。
「まぁあいつに限らず、魔王軍にいる奴らは乱暴で品がないのが多いのよ。ああいう野蛮な奴ってわたくし、ホント嫌いなの。それに比べて貴方はーー」
「いつまで喋ってんだサミエル」
自己紹介がとっくに終わっているにも関わらず、話を終わらせないサミエルに隣の赤い鎧を着た黒いオークが痺れを切らし、彼女の話を無理矢理中断させた。
「うっさい黒豚」
「んだと!!」
話を盛り上げようとした矢先、オークに水をさされたサミエルは気分を害し、キルフィスに向けた時と同じ視線で彼の方を向いて不満気に吐き捨てる。
彼女のふてぶてしい態度と悪意のこもった蔑称で呼ばれた事に、オークは鼻息を荒くしながら今にも食ってかかるような目で椅子から勢いよく立ち上がった。
二人は互いを睨み合い、危うく揉めかけたがアルバートがわざとらしく咳き込むと二人は彼の方を向き、舌打ちしながら互いとは逆の方向に顔を向けて大人しくなった。
「お見苦しい所を見せてしまって申し訳ない。私は第四軍長のモルドレッドという者だ。これからよろしく頼もう」
サミエルと喧嘩していたオークは席に戻るとローズマリーの方を向いて一言詫びを入れて態度を一変させ、白い歯を見せながら快活な声で自分の名を名乗った。
「第五軍長、ヴァンパイアのダンテだ。よろしく頼む」
モルドレッドが自己紹介を済ませると隣に座っていた明るめの茶髪を短く切り揃えてオールバックにした赤い瞳の男が立て続けに自己紹介を手短かに終えた。
「俺は第六軍長、アンデットのバーンだ。先に言っておくが、俺はフレイザードのように手荒な真似はしないし指示には従うが、アンタを認めねえ」
ダンテの向かいに座っていた肉付きがいい緑色の肌につぎはぎが目立つ黒髪の男は自己紹介をした後、ローズマリーに敵対心剥き出しの言葉を吐いて彼女を睨んだ。
「では次は……バーン。隣の奴を起こせ」
バーンが自己紹介を終えた後、アルバートは会議中にも関わらず顔を突っ伏して寝ている狼男を起こすよう隣に座っていた彼に命令する。
「おい起きろバカステラ」
「うるせぇ……二日酔いで頭に響く……」
「お前また朝まで酒場をハシゴしたな!いい加減やめろと何度言ったら分かるんだ!」
狼男は二日酔いで気分が悪く、そっとしてくれと言わんばかりに鉛のような低い声で鬱陶しそうに返事をする。
狼男からの陰鬱そうな返事にバーンは声を荒げながら彼の耳に口を近づけて叱責した。
「彼は?」
「あいつは第七軍長のカカステラという奴だ。……見ての通り酒癖が悪くてな、いつもああだ」
「そう」
ローズマリーはアルバートの方を向いてだらしない態度の狼男の事を聞くと、彼は溜め息をつきながら呆れた声で彼の事を手短かに話す。
「彼の事はまた今度でいいから次いっていいよ」
ガレディアも彼を起こすのに時間を割くのはもったいないと判断したのかそのままにして次の軍長に自己紹介を促す。
「初めましてぇ〜。アタシは第九軍長のテオニアスよぉ〜。種族はケンタウロスなのぉ。よ・ろ・し・く・ね♡」
カカステラを飛ばして次に自己紹介したのは、鍛え抜かれた筋骨隆々な上半身に口元を横一直線に横断する立派な口髭が生えた半人半馬の男だった。
彼の厳つい容姿とは想像つかない口調にローズマリーは思考回路の処理が追いつかず、面食らった表情で彼を一点に見つめた。
「あらあらどうしたの?もしかしてアタシの事が好きなの?照れちゃうわ〜」
「な訳あるか」
「あんたのその喋り方に戸惑ってんのよ駄馬」
「んもぉ〜。みんなったら酷いわ〜」
他の軍長から罵倒紛いの指摘を受けたテオニアスは頬袋にエサを詰め込ませたリスのように頬を膨らませ、両手を上下に振りながらわざとらしく怒る。
「最後はゼロちゃんねぇ」
第九軍長まで自己紹介が終わり、ゼロと呼ばれた最後の軍長は全身をローブで身を隠した性別すら不明の謎の魔族だった。
「ゼロ。第十軍の軍長を務めている。以上だ」
ローブの内側から成人した男の若々しく低い声が聞こえたので性別は恐らく判明したが、それでも彼は個性的な軍長達の中でも極めて異質で不気味だった。
「それじゃあ自己紹介も終わった事だし、ここからは今後の方針について語りたいと思う」
一人を除く全ての軍長が自己紹介が終えるとガレディアはクラウディア王国との戦争の事を中心に会議を進める。
ローズマリーの存在を絶対に守秘する事や進軍開始の日時、物資の調達など会議は二時間半近くに及んだ。
「それじゃあ今回の会議はここまで。進軍開始の日時等は軍の者全員に伝えるように以上、解散」
ガレディアが会議終了の合図と共に軍長達は椅子から立ち上がると背伸びをしたり、他の軍長と話したりとそれぞれ異なる行動を取り出す。
ローズマリーも椅子から立ち上がると、
「ねぇローズマリー」
誰かから名前を呼ばれたが、その声はねっとりしていて甲高く、そんな声の主は1人しか居ない。
「私に何か用なの?サミエル」
ローズマリーを呼び止めたサミエルは近づくと自分の胸が彼女の胸とぶつかって潰れていくのを気にも留めず、極限まで顔を近づけて誘惑するように囁いた。
「これからわたくしといい事しない?」




