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裏切り勇者の征服譚  作者: ワニガエル
第2章 魔王軍
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第16話 ささやかなわがまま

「これでマリーは魔王軍将になったわけだけど、何か聞きたい事とかある?」

「魔王軍将ってどういう事するの?」

 ローズマリーは魔王軍将の具体的な仕事内容をガレディアに聞くと、彼女の代わりにアルバートがいつもの凛々しい真顔で教えてきた。

「魔王軍将の仕事は山程ある。魔王様の護衛に執務の補佐、スケジュール管理、各部署の統括や提出された書類の検閲。全てを言っていたらキリがない」

「貴方はそれを今まで1人でやってたの?」

「無論だ」

 多忙だった勇者の時よりも更に膨大な仕事量とそれをアルバートが1人でこなしていた事を聞かされたローズマリーは驚愕の眼差しで彼の方を向き、アルバートは涼しげな顔でそれに答える。

「といってもお前は秘匿にしなければならない存在だし、私一人で事足りるから仕事はほとんどないだろうな。精々、魔王様の夜間の護衛くらいだろう」

「それじゃあ貴方の負担はほとんど減ってないじゃない」

 任命されて早々仕事はないと言われ、ガレディアが自分を魔王軍将にした理由の一つを真っ向から否定されたローズマリーは口を尖らせながらアルバートの方を向いた。

「いや、夜中に魔王様を襲う輩がいないとは限らないから夜間の護衛はどうするものか悩んでいてな。前に私が一晩中監視を行うと提案したら、魔王様から即却下された事もある。魔王様はお前を大層気に入っているし、私も一応は信用しているからな」

「一晩中監視って……。貴方、もしガレディアがそれを許可したらするつもりだったの……?」

「当たり前だ。それに、私は例え何年も寝なくても平気な体質でな。一晩など余裕だ」

 主君の為とはいえ年頃の少女の部屋に一晩中入り浸って監視をするなど、耳を疑うような事を恥ずかしげも無く言うアルバートに流石のローズマリーも言葉を失い、苦笑いを浮かべた。

「マリー……。アルバートは本当に優秀なんだけど、真面目すぎるが故にこういう事を平気で言ってくるの……」

「そ、そうなんだ……」

 ガレディアは擁護を入れながらアルバートがいかに生真面目な人物なのかを半ば呆れる感じでローズマリーに話し、彼女は反応に困りつつも相槌を打つ。

 色々言われているにも関わらず、アルバートは全く気にもせずに別の話題をガレディアに振り、生真面目さを更に際立たせた。

「ところで魔王様。マリーの存在を知る者は我々くらいに留めておきましょうか?」

「そうするつもりだけど、十軍長くらいには顔を合わせておかないといけないかな」

「十軍長?」

「魔王軍には一軍から十軍まで存在する。そして、その軍を取りまとめる者を軍長と呼び、それが十人いるから十軍長と呼ばれている。魔王軍の指揮や統括も魔王軍将の仕事の一つだからな。彼らからすれば、指揮官が一人増えた事になるからお前を紹介しようと魔王様はお考えなのだろう」

 アルバートがローズマリーに魔王軍の説明をし終えると、ガレディアは彼を呼びつけて一つの指示を出した。

「アルバート。近いうちにマリーの事を話そうと思うから軍長会議がある事を彼らに伝えておいて」

「承知しました」

「それじゃあ私からの話はこれで終わりだから、退室していいよ」

 ガレディアは全ての用が済んだので二人に退室を促し、アルバートは失礼しますと一言述べた後、扉の前で彼女の方を向いて一礼してから執務室を出て行った。

「じゃあ私も失礼させてもらう」

 ローズマリーもアルバートに続くように部屋を出ようとした時、

「あっ……」

ガレディアが手を伸ばしながら、何かを言いたげな声を漏らした。

「何?言い残した事でもあった?」

「いや、何でもない」

「言いたいことがあるなら言いなさい。そういうのが一番よくない」

 ガレディアはすぐさま言葉を引っ込めたがローズマリーはそれを許さず、上半身を前のめりにしながら彼女の机に手をついて顔を近づけて来た。

 こちらに言い迫るローズマリーの真剣に見つめる凛々しい顔よりも彼女の胸元に付いていて普段顔を埋めている柔らかい物にどうしても目がいってしまい、目のやり場がないガレディアは視線を逸らしながら気丈に振る舞った。

「マリー。本当に何もなーー」

「ガレディア」

 この期に及んで何もないと言おうとするガレディアに、ローズマリーは目を細めながらかつて王宮で彼女と対峙した時のような冷たい声で本心を隠した嘘を遮る。

 ローズマリーのややドスが入りかけた低い声で名前を呼ばれたガレディアは背筋を凍らせた後、観念したのか頬を赤く染めて上目遣いになりながらか細い声で小さく口を開いた。

「少しだけギュッとして欲しい……」

 ローズマリーはようやく本音を聞けた事に安堵したのと同時にそれだけの事なのに何故ひた隠しにしようとしたのか気になり、彼女に一言聞いてみた。

「それは構わないけど何で素直に言おうとしなかったの?」

「だってマリーの迷惑になると思って……」

 自分を気遣ってくれた事はありがたいが、小さなわがままを言うだけが迷惑だと思われてる事を心外に思ったローズマリーは口角を上げながら落ち着いた声で彼女に言う。

「私が今まで君に迷惑だなんて言った事ある?」

「いや……。ない……」

「でしょ?今からそっちに行くからちょっと待ってて」

 ローズマリーはそう言って机を右回りしてガレディアの方へ向かって歩き出し、彼女の真横に立つと、

「ほら、おいで」

慈悲に溢れた微笑みを顔に出しながら両手を前に出してガレディアを抱き締める体勢を取った。

 ガレディアはいても立ってもいられなくなり、椅子から立ちあがると小走りになりながら彼女の方へ向かった。

 マリーに甘えたい。

 今すぐ彼女に抱き締めて欲しい。

 内側に押さえつけていた感情を抑えられず、ガレディアはローズマリーに飛び込むように抱きつくともう二度離さないと言わんばかりに彼女の腹に腕を一周させて自然と腕に力が入る。

 ローズマリーは何も言わずにただただ自分に抱きつくガレディアを愛おしく思い、彼女の頭を撫でながら穏やかで幸せなひと時を過ごした。

 しばらく二人で抱き合っていると部屋の外から扉を叩く音とガレディアに用があり、こちらに戻ってきたアルバートの声が聞こえてきた。

「魔王様、アルバートです。先程の件で話がございます」

 アルバートの声が聞こえたガレディアは慌ててローズマリーから離れようとするが、今度は彼女が離そうとせずに強く抱き締め身動きが取れない。

「ちょっとマリー、アルバート来たから離れて」

「抱き締めて欲しいって言ったのは君でしょ?」

「それはそうだけど、魔王が執務を放棄してこんな事してるのを見られたくないの」

「アルバートなら別に見られても大丈夫じゃない?それよりもっといい事してあげる」

 扉の向こうから何かが聞こえるがガレディアからの返事が来ない為、部屋に入れないアルバートは扉に耳をくっ付けて盗み聞きという下品な行動はせずに聴覚が鋭くなる魔法を使って会話の内容を探る事にしてみた。

「ふぅ……うぅん……」

「気持ちいいでしょ?今度はこっちもしてあげる」

「あっ……やっ……」

 卑猥そうな会話を耳にしたアルバートは己を落ち着かせようとしたが完全に動揺しており、後ろ向きな考えが頭の中を圧迫し始めた。

 (一体何が起きている!?私が部屋を出た時はマリーも出て行こうとしていたからアイツの可能性はない。だとしたら誰だ!?まさか魔王様に仇なす反勢力が魔王様を襲いに……)

 最悪のシナリオが頭の中で完成してしまったアルバートはガレディアが襲われていると思い込み、扉を蹴破るように部屋に入ると彼女に良からぬ事を行っている不届き者に明確な敵意を込めた低い声で言い放った。

「白昼堂々魔王様を襲う度胸は褒めてやる。貴様には今ここで……何をしているのだお前は」

 部屋に入って目にしたのは、ローズマリーがガレディアに膝枕をしながら耳かきをしており、快楽に喘ぐかのような妖艶な声の正体は単に耳かきがくすぐったかっただけだった。

「何って耳かきだけど」

「そういうのは寝室でやれ。今は執務中だぞ」

「貴方こそあんなに勢いよく部屋に入って来てどうしたの?急ぎの用事?」

 自分がどんな事を考えて部屋に入ったのか知るよしもなく、無駄に大きな胸のせいで手元が見えていないにも関わらず器用に耳かきをしている彼女にアルバートは何も言う気が起きない。

「じゃあそろそろ私もお暇させてもらうから降りてもらえる?」

「うん」

 ローズマリーはガレディアに膝から降りるように言うと、彼女は素直に立ち上がって彼女から離れた。

「それじゃあ。また後でねガレディア」

 呆れ返ってるアルバートをよそに、ローズマリーはガレディアの方を向いて微笑みながら手を振り、彼女も何も言わずに手を振り返すと黒塗りの扉を開けて執務室を出て行った。

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[気になる点] 軍長についてですが、1軍長、2軍長という感じで役職名で呼ぶ時に10軍目のひとをどういう風に言うんでしょうか? 私見ですが10軍長というのではなく、別称を用いた方がいいと感じました。 […
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