第13話 魔王軍将アルバート(3)
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剣を交えながら2人は力を全く緩める事なく、互いをじっと見つめ合った。
「意外ね」
「何がだ?」
「貴方が冗談とか言うなんて、もっと生真面目な堅物だと思ってた」
「あれはただの気まぐれだ。何故あんな事を言ったのか、私にも分からん」
アルバートはローズマリーとの会話に口角を上げながらフッと笑うと一瞬で霧になり、彼女の前から姿を消した。
いつどこから現れてもおかしくないアルバートの奇襲にローズマリーは神経を研ぎ澄ませて辺りを警戒していると、
「ダークネスクロウ」
真っ黒な翼を生やしたアルバートが鋭い爪を光らせた右腕で彼女を引き裂こうと頭上から急降下して来た。
「グラビティ」
ローズマリーはアルバートの攻撃を躱すと重力魔法を使って彼の動きを封じようと試みるが全く効かず、再び空中に逃げられてしまった。
「その程度の魔法で私を止められると思うな」
アルバートは漆黒の翼を羽ばたかせ、ガレディアよりも赤い瞳でローズマリーを上空から睨みながら再び彼女に襲いかかり、ローズマリーはアルバートを避けながら隙を窺うが彼に隙なんて物は無しに等しくひたすら逃げるしかなかった。
「おのれちょこまかと……!」
一切攻撃を仕掛けてこないローズマリーにアルバートは段々と苛立ちを覚える。
そして、ローズマリーは諦めたのかその場に立ち止まってしまった。
「もう敗北を認めたか。クラウディア王国の勇者がその程度だったとは拍子抜けした」
アルバートはそのままローズマリーにとどめを刺そうとした時、
「カーニバルスプラント」
ローズマリーが魔法を唱えるとアルバートの目の前に森の木々と同等の大きさの食虫植物が地面から現れ、アルバートを飲み込もうとその大口を開いて来た。
「チッ……!」
アルバートは舌打ちをしながら咄嗟に黒い爪で食虫植物を切り裂くと、2本3本とアルバートの周りを取り囲むように次々と食虫植物が生え続けて彼に襲いかかる。
(これ以上空中にいれば、コイツらの餌食になりかねん。降りるか)
空中に居続けるのは無理だと判断したアルバートは不服ながら地に足を着けた時、
「ライトニングブレード!」
背後からローズマリーが光魔法を付与したアンペガサスでアルバートを切りつけようと振り下ろして来た。
「やはりそう来たか」
アルバートはそう呟いて防御魔法で障壁を張り、彼女のアンペガサスを易々と受け止める。
「空中を飛ぶ私を食虫植物で襲わせ、地面に降りた隙を狙う。隙を作らせるには実に見事だが、甘い」
アルバートはローズマリーの策を褒めつつ、そのまま彼女の肋骨を折らんとする勢いで回し蹴りを放つが、
「何……!?」
ローズマリーに足を掴まれ、片手で投げ飛ばされると木に叩きつけられ、更に追い討ちをかけるように水の鎖に身体を縛られて身動きを封じられる。
「これで終わりよ」
一切の猶予も与えずにローズマリーは雷の弾を発射してアルバートにとどめを刺そうとしたが、アルバートはなんとか水の鎖を壊して間一髪で避け、彼を縛り付けていた木は彼女の放った電撃を受けて縦から真っ二つに折れた。
「私の蹴りを受け止めた挙げ句、投げ飛ばすなど人間が出来るはずがない。お前、一体何をした?」
「身体強化の魔法を使っただけよ」
「身体強化、か。それだけの事でこうも追い詰められるとは、私は随分と身体が鈍っていたようだ」
かろうじて窮地を脱したアルバートが自虐気味に笑うとローズマリーはアンペガサスを片手に彼に近寄る。
「ところで、あの大剣はどうしたの?」
「それならここにある」
ローズマリーの問いにアルバートは答えると右腕を覆っていた黒い爪が変形し始め、最初に闇の空間から引き抜いた大剣に姿を変えた。
「私が愛用している武器。ヴェランドゥリングだ」
「変わった武器ね」
ローズマリーがヴェランドゥリングの事に反応するとアルバートはそれを杖代わりにして立ち上がり、どのような武器なのか説明し始めた。
「ヴェランドゥリングはこの国では変化という意味の言葉だ。そしてその名の通り、様々な物に姿を変える事が出来る」
そう言うとアルバートは大剣の形をしていたヴェランドゥリングを槍、鎌、弓など次々と姿形を変化させると思い出話に花を咲かせた。
「これは、私が魔王軍将に就いたばかりの時に先代魔王様から頂いた物。我がヘレスティス家は代々魔王様にお仕えしてきた一族で、父が先代魔王様に仕えていたから私は魔王様の実の娘であるガレディア様にお仕えするはずだったが、あの頃は私は本当に愚かだった」
眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したような表情になったアルバートはヴェランドゥリングが折れかねない程、握った拳に力を入れて忌々しそうに語った。
「私はガレディア様をお守りするどころか行方不明にさせてしまった。魔王様をお守りする魔王軍将が行方不明にさせるなど本末転倒にも程がある。私はヘレスティス家に泥を塗り、魔王様の血筋を途絶えさせた事に命で詫びようとしたがそんな私を叱責したのは父だった」
そう言うとアルバートの顔から眉間の皺が消えて表情が少し穏やかになり、折らんとばかりにヴェランドゥリングを握っていた手も力が緩む。
「父は私を殴り、胸元を掴んでこう言った。ここで命を絶って詫びるのが魔王軍将の役目か?ガレディア様はまだ生きておられる可能性があるのだろ?だったら必ず探し出せ、そして見つけたら何に変えてもお守りしろ。お前が死ぬのは魔王軍将の役目を全うした時だと。その日から私は必死に探した。城の者から無能と蔑まれ、陰口を叩かれてもそれが私の使命だと信じた。長い月日をかけて私はようやく見つけ出して誓ったのだ!全てを犠牲にしてでもお守りすると!お前にそれだけの覚悟はあるか!ローズマリー・ヘルゲート!!」
「私が何の為に国を捨ててまでここに居ると思うの?あの子と運命を共にすると誓ったあの日から、覚悟はとうに済ませた!その心に偽りはない!」
「ならその覚悟を私に見せてみろ!!」
アルバートの荒れ狂った叫びに、ローズマリーはアンペガサスを構えながら答えると彼はヴェランドゥリングを再び爪に変化させながら駆け出し、2人は手合わせである事を忘れるような熾烈な戦いを始めた。
アルバートは再び霧になると4体程の分身を作り出し、ローズマリーに襲いかかった。
「今度は分身か……!」
容赦ない攻撃を仕掛けるアルバートの軍団にローズマリーは5体の中に紛れた本物に警戒しつつ、一瞬の隙を突いてアルバート達を攻撃すると偽物のアルバートは霧となって消える。
アルバートの偽物を4体倒し、残った1体が本物だと確信したその時、
「まんまと引っ掛かったな」
5体のアルバートは全て偽物であり、霧の中から本物のアルバートが目の前に現れ、ローズマリーの腹に目掛けて拳を突き出した。
「ぐふぉあっ」
アルバートの強烈な一撃をもろに受けたローズマリーは、腹部を中心に激痛が身体を巡りながら吹き飛ぶと森の木に叩きつけられ、彼女を受け止めた木は太い幹がへし折れて切り株と化した。
「身体強化の魔法、かけたままでよかった……。あれが無ければ骨や内臓がめちゃくちゃになってた……」
口元を垂れる血を拭きながらローズマリーはアルバートを一点に見据え、彼は黒い爪を尖らせた禍々しい右腕のままゆっくりと彼女に歩み寄った。
「立てローズマリー。勝負はまだ始まったばかりだ」




