第12話 魔王軍将アルバート(2)
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「アルバート様。頼まれていた書類を持って参りました」
「……」
「あの……アルバート様?」
「あぁ、すまない。そこに置いといてくれ」
「かしこまりました。それでは、失礼します」
ある事に頭を悩ませていたアルバートは部下からの言葉気付かず、しばらく間を置いてから適当に指示を出した。
部下が部屋を出た後、アルバートは右肘をつきながら頭を抱え、盛大に溜息を吐いた。
「分からん。本当に何なのだあの女」
ローズマリーを監視して2週間程が経過するが彼女は1日のほとんどをガレディアの部屋で過ごし、する事といえば読書か簡単な魔法の練習で、ガレディアが部屋に戻って来れば、ベッドの上で1日どんな事があったのかなどを幸せそうに彼女と話し合い、そして互いに抱き合いながら眠りに付いて1日を終える。そんな生活を続けているのだ。
(あんなだらしない生活を送っている奴が本当に勇者なのか?だが魔王様はあいつに絶大な信頼を置いているし、今のところ怪しい行動は何一つ見られない。それに、何かと理由をつけて始末しようものなら魔王様の逆鱗に触れ、かえって私の立場が危うくなる。……どうすればいいものか)
「アルバート様」
「!?……お前、挨拶も無しにいつ部屋に入ってきた」
突然、他人の声が聞こえたアルバートは勢いよく頭を上げて正面を見ると城に仕えている侍女が知らぬ間に部屋におり、勝手に入ってきた事に苛立ちながら眉間に皺を寄せて彼女を睨んだ。
「部屋の外でアルバート様のお名前を呼んでいたのですが、返事が無かったので僭越ながら部屋に入らせていただきました。ところで、アルバート様は先程から誰の話をしているのでしょうか?魔王様がアルバート様の他に信頼を置いている方が他にいらっしゃるような物言いですし、それに勇者というお言葉も……」
「何でもない!忘れたまえ!!」
「わ、分かりました!」
思っていた事が口に出ていた事に気づかず、侍女に独り言を聞かれていた事にアルバートはまずいと慌て、声を荒げながら侍女を速やかに部屋から追い出すと、
「このまま悩んでいても埒があかん!あいつから直接問いただしてやる!」
遂に痺れを切らし、椅子から勢いよく立ち上がると一瞬で霧になり、ローズマリーが居るガレディアの部屋に転移した。
「おい!」
ガレディアの部屋に転移したアルバートは日の光を浴び、側に置いてある椅子に腰掛けながら読書をしているローズマリーを睨みつける。
「どうしたの?貴方が直々にここへ来るなんて」
こちらから出向いてきたにも関わらず、視線すら向けずに本のページをめくるローズマリーに苛つきながら、アルバートは前置きもなしに彼女に本題を突きつけた。
「何故お前は部屋から出ない?」
「余計な騒ぎを起こさない為よ」
「余計な騒ぎ?」
ローズマリーの返した答えに、アルバートは眉をひそめながら不可解そうに彼女の言った言葉を繰り返す。
「敵国の人間で、それも勇者である私が城をうろついてたら騒ぎになるでしょ?それに、魔王が勇者を匿ってるなんて知られたら魔族の民からの信頼を損ねて最悪の場合、暴動が起こりかねない。退屈だけど、あの子の為なら多少の不自由を強いられても平気よ」
そう言うとローズマリーはアルバートに見向きもせず、再び読書にふけた。
ローズマリーが己の立場と与える影響を鑑みた上で部屋に引きこもっている事を知ったアルバートは何の言葉も出ず、その場で棒立ちになる。
(言われてみればそうだ、この女は本来我らの敵。奴が城中をうろついてたら騒ぎになるは必然、だからわざと1日のほとんどを魔王様の部屋で過ごしていたのか。思惑を暴く事ばかり考えて、その事を考慮していなかった自分が愚かしい)
主君の為に敢えて部屋に籠っていたローズマリーの誠実かつ真っ当な理由にアルバートはぐうの音も出ず、先程までの怒りの感情がすっかり抜け落ちて彼女の評価を改めざるおえなかった。
「さっきは退屈だなんて言ったけど、これはこれで悪くは感じない。勇者だった頃は早朝から深夜までぎちぎちに詰め込まれたスケジュールで多忙だったし、休日なんて物はほぼ無いに等しかったから。まあ剣の腕が鈍ってそうなのが不安だけど」
「……ローズマリー」
「何?」
頬を指で掻きながら恥ずかしそうな表情で話す彼女の本音を黙って聞いていたアルバートは一つの提案を口にする。
「私と手合わせしないか?」
「手合わせですって?」
彼の提案にローズマリーは一瞬で表情を変え、警戒心剥き出しの視線をアルバートに向けた。
「そう睨むな。手合わせと言ってお前を騙し、始末するつもりはない。最近は机仕事ばかりでたまには武も磨いておかねばいざという時に魔王様をお守り出来ないし、魔王軍将として他の者に示しがつかないと思ってな。それに勇者の実力がどのくらいのものなのか興味もある」
「分かった。私も剣の腕が鈍ってないか不安だったしやりましょう」
ローズマリーはゆっくりと椅子から腰を上げ、読んでいた本を椅子の上に置くとアルバートの申し入れを快諾した。
「では場所を変えよう。もちろん人目には配慮する」
アルバートが指を鳴らすと枯れ葉が所狭しに敷き詰められ、魔族どころか生き物の気配すら感じない薄暗い森の開けた場所に一瞬で転移した。
「ここなら誰の目を気にせずに勝負が出来るだろう」
「足場の悪い場所での戦闘を想定した訓練にはもってこいの場所かも」
日の光がほとんど届かない為か油断したらぬかるみに足を持っていかれそうな程に地面は湿っており、所々に泥水で出来た水溜りを作っている。
「それで、勝利条件は?」
「どちらか息絶えるまで」
アルバートの言葉にローズマリーは身を構えたが、
「と言うのは冗談で、相手をなす術もない状況に追い込んだ者が勝ちというのはどうだ?」
アルバートは冗談だと言ってさっきの言葉を真顔ですぐに否定した。
「分かった、そうしましょう。但しやるからには容赦はしない」
「そのつもりで来い。私も始めから本気で行く」
ローズマリーは腰に下げたアンペガサスを引き抜き、アルバートも闇の時空から黒い大剣を取り出すと互いに剣を向け合った。
「クラウディア王国七勇者が1人。愛の勇者ローズマリー・ヘルゲート」
「アイルハート王国魔王軍将アルバート・ヘレスティス」
「いざ」
「尋常に」
「「勝負!!」」
2人は自分の名と肩書きを名乗ると、静かな森の中に掛け声と共に金属同士がぶつかる轟音を鳴り響かせた。




