第11話 魔王軍将アルバート(1)
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ローズマリーは、現れた男からガレディアを守るかのように彼女の腰に回した手を自分の方に引き寄せて男を睨み返した。
「貴方こそ何者?相手の名を聞きたいのなら、自分から名乗るのが筋じゃない?」
ローズマリーが言い返した言葉に男は眉をピクリと動かし、出方次第では殺すといわんばかりの鋭い眼光と威圧的な声を彼女に向けた。
「質問を質問で返すか」
「貴方から名乗らぬ以上、私は自分の名を言うつもりはない」
二人の間に険悪な空気が漂い始めてやがてその空気は部屋中に充満し、二人は互いを睨み合いながら微塵も動かずに一触即発状態だった。
「待ってアルバート。彼女は私達の味方よ」
「味方、ですか?」
「そうよ。向こうで処刑されそうになった私を転移魔法で助けてくれたの」
そんな空気を壊したのはガレディアで、アルバートと呼ばれた男はローズマリーが彼女の命の恩人だと知ると、態度を一変させて深々と頭を下げた。
「これはとんだ失礼を。魔王様を救っていただきありがとうございます。私は魔王軍将のアルバートと申します」
「魔王軍将?」
「魔王様直属の部下で、いわば側近のような者です」
聞いた事がない単語が出て来たのでローズマリーは謎の言葉を繰り返し、アルバートはそれに淡々と答える。
「なら、私も自己紹介しなくちゃね」
アルバートが一通り自己紹介を済ませるとローズマリーはベッドから立ち上がり、
「はじめましてアルバート殿。私はクラウディア王国七勇者が1人。愛の勇者ローズマリー・ヘルゲートという者よ」
アルバート同様、深々と頭を下げながら自己紹介をした途端、
「勇者……だと……?」
アルバートは目を見開きながら再び態度が変わった。
(どういう事だ?クラウディア王国の勇者といえば、我がアイルハート王国でも名を馳せている特に警戒すべき敵。そんな勇者が何故ここに居る?本当に味方か?それとも我々を陥れる為に向こうが送り込んだスパイなのか?)
アルバートはしばらく黙り込んだ後、深呼吸をして少し間を置いてから口を開いた。
「お前が本当に勇者だというのなら証拠を見せて欲しい」
「何を言い出すのアルバート!」
アルバートがローズマリーに疑いをかけてきた事に、ガレディアは憤慨して声を荒げたが、
「分かった。これが証拠よ」
彼の疑惑の言葉に答えるように、ローズマリーは平然と腰に下げたアンペガサスを引き抜いて彼に手渡す。
「マリー!?それは……!」
「いいの。私が敵国の勇者である事を証明できるのはこれしか無いのだし」
「これは?」
「勇者に選ばれた者のみが使える七つの聖なる武器と呼ばれる伝説の武器の一つ。聖剣アンペガサスよ」
アルバートは手渡されたアンペガサスをじっと眺めて暫く口を閉じた後、何も言わずにアンペガサスをローズマリーに返して先程と変わらぬ口調で彼女に告げた。
「魔王様を救っていただいた事には感謝している。だが、私はお前を信用できない」
「アルバート!!」
相も変わらずローズマリーを疑っているアルバートにガレディアは顔に怒りの文字を書きながら更に声を荒げるが、
「疑われるのも仕方ないのよガレディア。敵国の人間を信じろと言う方が難しい」
ローズマリーは依然として落ち着いており、返してもらったアンペガサスを鞘に戻しながらアルバートの言う事を冷静に肯定した。
「物分かりがよくて助かるが、その口の聞き方を謹んでもらおうか。魔王様に不敬な真似は許されんぞ」
「私は気にしてないからそれは不問よ」
「!?……そう、ですか」
ガレディアの言葉にアルバートは絶句しながら、ローズマリーへ顔を向けて再び彼女をじっと見つめた。
(魔王様にあのような口の聞き方をしておいて、普通ならば斬首されてもおかしくは無いのだぞ。なのに、魔王様は咎めるどころか不問と仰った、そんな事などあり得ない。本当に何なのだ、この女)
「今日から1ヶ月、お前を監視させてもらう。もしその間に我々を陥れる行為を働いた時は、覚悟しろ」
アルバートは人差し指をローズマリーに向けて、眉間に皺を寄せながら威圧的な声で彼女を睨む。
「それで貴方の気が済むのなら、幾らでも疑ってくれて構わない。私は貴方達の味方である事を言動で示すだけよ」
「その言葉が偽りで無い事を心から願うぞ」
澄ました顔でローズマリーはアルバートからの監視を受け入れると、彼は若干歯ぎしりを鳴らしながら少し不機嫌そうにガレディアの部屋を出て行った。
「心から願う、か。思っても無いくせによくそんな言葉が口から出るものね」
「ごめんマリー。私のせいでこんな事になって」
ローズマリーは腕を組み、眉を潜めながら部屋を後にしたアルバートに愚痴るとガレディアが後ろから抱きつき、申し訳さなそうな表情をしながら弱々しい声でローズマリーに謝った。
「君が気にする事はないし、ましてや謝る必要もない。本来、私は敵側の人間だからこういう扱いを受けるのも分かってたさ」
「アルバートはああ言うけど、私はマリーを絶対に信じてるから!」
ガレディアはローズマリーから身体を離した後、彼女の前に回り込み、その小さな両手でローズマリーの両手を強く掴む。
「ガレディア……。ありがとう、君が信じてるくれるだけで私は充分よ」
ガレディアの励ましにローズマリーは目を丸くしながら一瞬言葉を失ったが、彼女の健気な様子を見て次第に心が温まり、自然と笑みが溢れた。
(人間が魔族に味方するだと?そんな訳があるか。あの女の企みを暴いて、あの澄ました顔を崩してやる。覚えていろローズマリー。必ず尻尾を掴んでやる)
アルバートは力強い握り拳を作り、ローズマリーをこの手で裁く事に執念を燃やして魔王城の広い廊下を前屈みになりながら、駆け足で歩き通した。




