97 執着
「確かにそうね。あの王子なら周りのことなど気にせず、会いたければ学園でもカタリーナ嬢のところへ行きそうなものなのに、どうしたのかしら」
真奈ことマーガレット様のガーネット王国第3王子サミュエル様に対する印象もやっぱりそうなのね。
「そして、莉乃が聞いた第3王子の学園の先生に対する言動……。それをそのまま考えたなら王子は『誰かに命令され我が国の失墜を狙いその隙に国を奪おうとしている』という事になるのよね」
昨日の王子のセリフでいうとそういうことになる。今日お話ししてみてそういう陰謀めいた気配はよく分からないけれど……。そもそも『誰か』の言う事なんて聞かなさそうなお方よね。我が道を行くとでもいうか。
私はナタリーから聞いた陛下のお言葉を真奈に伝える。
「陛下は、ガーネット王国は今のところ信頼できる国。それでも国は一枚岩ではない可能性もあるから調べる、と。第3王子には名目上は警護で『影』を付ける、と言われているそうなの。
…そして今日私が実際王子と会って話した印象は、無邪気で好奇心旺盛な少年、だわね……。でも昨日は冷酷な様子の声も聞いているし、話の内容の事もあるから油断は出来ない、というのが本当かも。人間なんだからある程度二面性を持っていてもおかしくはないし」
真奈もそれに頷いた。
「そうね。私の王子の印象もそんな感じよ。数ヶ月前のパーティーでお会いした時もそんな様子だったわね。ああいう場所では天真爛漫な王子だわ。…でも裏ではわからない」
それから真奈は少し考えて、そして言った。
「…莉乃。ガーネット王国の今の王妃は、ジェダイト王国の元王女なの。前王妃は自国の貴族の令嬢だったのだけれど、第2王子をご出産後暫くしてお亡くなりになった。その後ジェダイト王国が王女を妃にねじ込んだ、と言われているわ。今の我が国のように、かなり強引に縁談を進めてきたらしいわ。そして第3王子は今の王妃の子、唯一ジェダイト王国の血を引く王子なの。…それが、6年前のジェダイト王国の怪しい動きに繋がるのだけれど」
!! サミュエル様がジェダイト王国の血を引く王子!
「…ああ、それで……。王子の髪色は綺麗な青なのね。ガーネット王国の方は赤髪の方が多いと聞くから、珍しいなとは思っていたの」
「ふふ……。今のこの話を聞いてそういう感想を持つのが、やはり莉乃よね。この話の流れでいくと普通は王子の祖国ジェダイト王国の陰謀説を考えそうなものだけれど」
「私の王子への印象はさっき話したのが全てよ。彼が母親の祖国の味方をしてるかはよく分からないわ。可能性はあるだろうけど、可能性だけで言えば誰にでもその可能性は無いとは言えないわよね?」
真奈は、そうねと少し嬉しそうに笑った。
「その先入観を持たないところが私は好きよ。
…とにかく6年前、ガーネット王国の後継に自国の血を引く第3王子をつけたいジェダイト王国は武力の準備をしていた。それに気付き父である王に報告し我が国にも助けを求めたのが当の第3王子なのよ」
陛下があっさり鎮圧したという、怪しげな動きをしていた隣国ジェダイト王国の6年前の事件。そこにはガーネット王国の次代の王にサミュエル王子を擁立したいジェダイト王国の企みがあったのね……。
「…それではジェダイト王国は随分と肩透かしを食らったのね。肝心の第3王子に裏切られる? だなんて。それにガーネット王国の現王妃もそれに加担しなかったという事ね? それと…どうして第3王子は我が国に助けを求めたのかしら……?」
自分を武力で王位につけようとする母の国。そこから自国を守る為、何故第3国である我が国に助けを求めたのかしら……?
「我が国に助けを求めたのは、第3王子が我が国の『黒の英雄』、つまり陛下に憧れていたからと聞いているわ」
陛下に憧れを……?
「14年前の戦争の時、第3王子は3歳……。まず、覚えていらっしゃらないわよね。しかも他国で起こっている戦争などは。そして6年前は11歳……。自国の戦争の危機に、過去に圧倒的な力でジェダイト王国を押さえ込んだ我が国の英雄ならばと思い助けを求めたということ? その時我が国と第3王子は何か関わりがあったの?」
少し、真奈は考え込む。
「…手紙が、届いたそうよ。『僕の憧れの『黒の英雄』さま、どうか我が国を助けてください』……そんな切実な子供からの手紙に、陛下が調べて事実と分かり動かれた、と……。
そこから更に我が国とガーネット王国の仲が深まったのよ。第3王子が我が国に頻繁に出入りされるようになったのはそれからのはずよ」
「それって……。先程のカタリーナ様の話のように、サミュエル様が我が国や陛下に興味を持たれていたから、という事になるのかしら……」
そして、自ら我が国に近づく為に? 動かれた。
「興味……。そういう事に、なるのかしらね……。今までそれを深く考えてはいなかったけれど、そう思うとなんだか第3王子の我が国への執着? みたいなものを感じるわね……」
我が国に執着している、ジェダイト王国の血を引くガーネット王国の第3王子、か……。
「第3王子は、ガーネット王国では自国を隣国ジェダイトから守った勇気ある王子、我が国からは権力を望まずに自国を守りその後こちらにまで及ぶはずだった隣国の脅威から守ってくれた勇者と、非常に好意的に見られているわ。だからこそ、我が国の王宮をほぼ自由に出入り出来たり、留学出来たりするのだから」
「我が国では破格の扱いになっているのね」
王宮に、自由に出入り出来るのね……。
「そうね。そしてジェダイト王国出身の王妃は温厚な方でガーネット王や先妻の子達とも仲が良く、祖国とは関わらず生活しているそうよ。兄弟仲も良く、第3王子もあの通り飄々とご自分の思った好きな事をする方。
だから、今のところ彼に脅威はないのではないか、…というのがハロルドの見解だったのだけれど……。だけど、私も今貴女と話していて、彼の我が国に対する執着に少し違和感を覚えるわ。今までずっと『子供だから』と、敢えて考えもしなかったけれど、彼の動向に充分に気を配る必要があるわね。
でもハロルドも貴女のいう事を疑っていた訳ではないのよ。今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫という保証はないしね。監視は付けて注意はしていくと言っていたから、更にこの事も伝えておくわ」
真奈はそう言い、お茶に口を付けた。
今日お出ししたお茶は少し前までお邪魔していたモーガン伯爵領の港で東の国から輸入された緑茶。珍しく懐かしくもあったので分けて貰ったのだ。
「あら、美味しい。緑茶なんて久しぶりだわ。前世では紅茶派で今まで何とも思わなかったけれど、こうして久々に飲むといいものね」
真奈の驚きに満足する私。
「うふふ、そうでしょう? モーガン領で輸入されたものを見つけてゲットしたの。少し分けましょうか?」
「いいの? ありがとう。なんだかとても美味しく感じるわ。気持ちはやはり日本人なのかしらね。一度ハロルド達にも飲ませてみたいわね」
「そして緑茶といえば、やはり甘いものよね! 流石にお饅頭はないのだけれど、ガトーショコラがあるから食べてね」
「……」
いきなり黙り込む真奈。あれ? やはり緑茶にガトーショコラは違うのかしら?
「…真奈? お菓子ももう少し日本っぽいもの方がいいかしら?」
真奈がハッとこちらを見る。
「…ああ、ごめんなさい。違うのよ。第3王子の事を考えていたの」
「第3王子?」
「ええ……。約5年前に初めてサミュエル王子と色々話した時の事を思い出したの。その時の私は前世を思い出していなかったから何のことか分からなかったのだけれど……。
彼は『やはりニホン人はコレなんですよ』とか、『確かそれはニホンにもあったな…』とか言っていたの。子供だし、ガーネット王国のそういう遊びなのかしらと思っていたけれど、ねえ、これってもしかして……」
!!
「『前世』持ち……。しかも、元日本人、という事なの……? 第3王子が……?」
私達2人は顔を見合わせた。
お読みいただき、ありがとうございます!




