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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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96 隣国の少年

「お帰りなさい。リリアンヌ」


 あら、私はいつの間にかワーグナー侯爵家に来てしまったのかしら……?

 そう思ってしまうくらいに自然に、我が家の玄関にワーグナー侯爵夫人マーガレット様がいらっしゃり、学園から戻った私を出迎えてくれた。


「ただいま、帰りました……。て、え? マーガレット様? どうされたのですか?」


 驚く私を見て、満足そうにマーガレット様は微笑む。


「今日は今までのお詫びと、先日の私へのお見舞いの御礼に伺ったのよ。そして、そろそろ貴女が帰る頃だからと伯爵夫人にお声掛けいただいたの」


 うふふと笑うマーガレット様。まあこの時間にいらしたらもう私が帰る時間なのだからお母様も一応お声掛けするわよね。横のお母様を見ると少し苦笑されてはいたけれど、元々お二人の仲は良好だったから和やかな雰囲気で少しホッとする。


「リリアンヌ。良かったら貴女のお部屋でお話してきたらどうかしら。色々ゆっくりとお伺いしたい事もあるでしょう?」


 お母様、分かってらっしゃるわ……。

 昨夜遅くにナタリーから聞いた話は多岐に渡っていたのだけれど、話せない内容もあるらしく少しもどかしい部分もあったのだ。


「ありがとうございます、お母様。マーガレット様、よろしければ私の部屋へいらっしゃいませんか?」


 マーガレット様はぱぁっと表情を綻ばせた。


「まあ、よろしいの? 是非お邪魔いたしますわ」



~~~~~



「莉乃。もう、頬は大丈夫なの? 先程も伯爵夫人にお詫び申し上げていたのだけれど、我が家のダニエルとの関係を勘違いされて()()子爵令嬢に打たれたとか……! 本当に、なんて事なの……! 我が家からも全力で抗議したいところだったのだけれど、陛下が動いてくださったとか……? ハロルドからは、この件に関しては陛下に一任するようにと言われたの。…貴女はそれで大丈夫なの?」


 2人きりになった私達は、前世の名前で呼び合った。


 そして真奈ことマーガレット様も、ワーグナー侯爵から昨夜の王宮での話合いの件を聞かれたようだった。


「ええ。大丈夫よ、真奈。私は元々、学園内での事だったし大ごとにするつもりは無かったのよ。だけど、子爵側がこちらを『人の婚約者を奪った悪女』で、『子爵令嬢の暴力はそれを思い詰めての事だった』という設定にしようとしていたの。それを学園側も採用しようとして……。

それが分かったのが、隣国が絡んだ密談を聞いてしまったからだったの。それでこちらの手に負えない可能性があるから陛下に全て報告して、昨夜の大物を揃えての話合いとなってしまったのよ……」


 真奈が驚きで目を見開いた。


「ナニ、それ……! ギブソン子爵がそのような事を!? 許せない!! そして学園は子爵如きのそんな馬鹿げた言い分を採用しようとしていたの!? …ッああ……、それが例の学園長が秘密を握られて仕方なくって話だったのね。

…全く、ハロルドったら! 肝心な話の部分を端折はしょってるんだから!」


 あぁ、多分ワーグナー侯爵は真奈がその部分に激昂するのが分かったからわざとサラッと流して説明したのね。


「…そして、隣国が絡んだ密談を聞くなんて、どうして貴女がそんな危うい状況になってしまったの?」


 私は学園の告白の名所? での、密談を聞いてしまった経緯と彼らの話の内容、そして今日そのご本人だと思われるサミュエル王子に会った事を真奈に話した。


「…そんな訳で、ガーネット王国のサミュエル様は私の事で先生側に怒りを感じてくれて、殴ってしまったようなのよね……。その先生のことを『クソですね』なんて言ったりして……。そして彼の手には先生を殴った時に出来た傷の手当てと思われる包帯があったし、密談者の1人はサミュエル王子で間違いないと思うわ」


「そんな事が……。貴女のファンねえ……。ガーネット王国の第3王子には私も王宮主催のパーティーでお話したことがあるわ。かなりの美少年だったけど……、変わった子よね。周りからワーグナーシステムの話を聞いた、感銘したのでお話を聞かせて欲しいって、かなり突っ込んでシステムの話を聞いてきたわよ? あの時で12歳くらいの時よ、前世なら小学校6年生、あんな歳で凄いと思ったわ」


「ワーグナーシステムの話を? 彼はガーネット王国に導入を考えていたのかしら……。でもまだそんな歳で国の治水システムに関われないわよね……。今だって学園ではそんな専門分野はないし。!ッ! それにその頃ってまだ流行病の前でそれ程ワーグナーシステムが注目されてない頃よね? そんな頃にどうしてまだ少年だった他国の王子がその事に興味を持ったのかしら?」


「そうなのよ。私も一応その時、どうしてこのシステムをお知りになられたのかと聞いたのよ。そうしたら、たまたまだって……。たまたまこの国の事を調べて何故か私に興味を持ちシステムの事も知ったんだ、と……。これで相手が大人なら何かを企んでいるのかとこちらももっと警戒したのだろうけど、相手は12歳の少年だし私もそれ以上は突っ込めなかったのよ。何故か私の結婚の経緯まで聞かれたりしたしね。子供相手にハロルドの事を惚気ちゃったわよ」


「そうなんだ……。その惚気話は私も今度じっくり聞きたいわ。

…王子は、何にでも凄く興味を持つ天才肌の少年、って事なのかしらね?」

 

 確かにいるわよね、子供の頃から興味を持ったらとことん突き詰める、天才タイプの子供って。


「うーん…、そうかもしれないけれど、彼なりの何か興味を持っている関連の事にのみ食い付いている感じだったわね……。興味がない人には恐ろしい程アッサリと切り捨てている感じだったしね。ああ、あとカタリーナ嬢にも随分と興味を持ってたわよ。カタリーナ嬢も困るくらい色々質問責めにしていたようで、王子のお兄様に叱られてらっしゃったわ」


 その時の事を思い出したのか、クスッと笑いながら話す真奈。


 その時から、サミュエル様はカタリーナ様と仲が良かったのね。というか、『その時からサミュエル様がカタリーナ様に関心を持っていた』というのが正しいのかしら。恋愛感情かどういう基準かわからないけれど、カタリーナ様は彼の興味の対象となった、という事よね。


「ねぇ真奈。王子は私の事を昨日は『シュバリエ公爵令嬢の恋の手助けをした』、今日は『シュバリエ公爵令嬢の窮地を救った』と表現されたの。マティアス様や他の方のお名前は出て来なかったわ。王子の中ではカタリーナ様がこの国での基準で結構特別な存在のようなのよね。恋愛感情なのかは分からないけれど……」


 それを聞いた真奈は少し考える。


「あの位の年頃なら恋愛感情が生まれてもおかしくはないけれど、あの時の王子のカタリーナ嬢への態度も好きな子相手にという感じではなかったわね。研究対象を質問責めにしている状態にしか見えなかったわ。だからカタリーナ嬢がそれに困った様子を見せても何とも思ってなさそうだった」


 それを聞き、私も頷く。


「やはりそうよね。そしてこの1年学園で私はお2人が仲が良かった印象は全くないの。この国の第2王子の婚約者だったカタリーナ様に誤解を招かないよう気を使ったのもあるかもしれないけれど、今日お話しした様子からあまりそういう事を気になさる方ではないように思うし、不思議なのよね……」


 







お読みいただき、ありがとうございます。


マーガレットがサミュエル王子にしたというワーグナー侯爵との馴れ初めや惚気話……。本当はすぐに色々聞きたかったリリアンヌでした。


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