95 隣国の王子
ガーネット王国の第3王子!!
その彼が、なんだか嬉しそうに話しかけて来たのだ。
えっと、『噂の』??
王子のお耳に入る程、噂になっておりますか? 私……(泣)
いえむしろ、こちらが貴方の噂をしていたのですがね……。
「はい。リリアンヌ カールトンと申します。お会い出来まして光栄でございます」
私は王子殿下である彼に礼をする。
サミュエル王子はにこやかに続けた。
「こちらこそ、お会い出来てとても嬉しいです! 先日のパーティーでのお話を聞いて……。僕、貴女の大ファンなんです! 僕はまだ1年だったのでパーティーには行けなかったのが、すごく悔しかったです……!」
は……っ!?
「ファ…ファン!? …ですか?」
ええっ!? コレは、どう返せばいいのかしら……?
サミュエル王子はまだどこか少年のような可愛らしさで私に言った。
「はい! 王家の方々や国の重鎮が居並ぶ中、堂々と皆の前に進み出てシュバリエ公爵令嬢の窮地を救った……と。そして自らの婚約者との婚約解消を申し出て、彼らの祝福をした……。そう聞きました。僕は感動のあまり話を聞いてから暫く涙が止まりませんでした! ですから、是非お会いしたいと思っていたのです!」
彼はそう言って、手を伸ばし私に近付いて来た。
…彼の左手には、包帯が巻かれていた。
私はそれを見て、スッと一瞬血の気が引き冷静になった。
「…それは、ありがとうございます。そのように言っていただけて光栄でございます。それよりも、手をお怪我なされたのですか? 包帯が……。おいたわしいですわ」
彼はハッと自分の手を見る。
「…コレは、うっかり躓き手をついたときに怪我を……。
やはり、お優しいのですね。私のこのような怪我にもすぐ気付き心配してくださるとは……!」
私は心配そうに彼の手を見ながらも、コレはアレよね、昨日先生を殴り飛ばした時の怪我よね、と考えていた。やはり、彼が昨日の密談者の1人だったのだわ。そして相手の先生は今日お休みだった昨年度1年の担任主任だった先生だと思う。…思いきり殴られてらっしゃったから、お顔も腫れているだろうし暫くはお休みされるかもしれない。
「お大事に、なさってくださいませね。痕など残ってはせっかくの我が国での学生生活での嫌な思い出になってしまいますわ」
「嫌な思い出など! この国は本当に素晴らしいです。我が国が学ばねばならない事がたくさんあるのです……! そして、アルフ……陛下は、この国の至宝ですしね。彼がいる限りこの国の繁栄は約束されている。幼い頃からの僕の憧れの方なのです」
…あの時は『アルフレッド』と、呼び捨てにされていたのですけれど、流石に今は『陛下』ですのね。
そして陛下をベタ褒めなのですけれど……どちらが本音でしょうか?
「殿下、そろそろ……」
サミュエル様のお付きの方が声をかけられた。後ろに3人いらっしゃる中に、『影』の方もいらっしゃるのかしらね。
「ああ、分かった。…すみません。学園長のお部屋に呼ばれていてもう行かなくてはなりません。リリアンヌ嬢……と、お呼びしても? 僕の事はサミュエルとお呼びください」
殿下にそう言われては断れるはずもない。
「はい……。お話出来て光栄でございました。サミュエル様」
すると王子は、ぱぁっと花が咲くように笑顔になられた。
「僕もです! リリアンヌ様! では、また是非お話させてください。ああ、名残惜しいですが、今日はこれにて失礼します」
そして美しい礼をされ、去っていかれた。
最後まで、後ろに花が見えるようだったわ……。
そして私達は再び歩き出し、彼らが完全に去ったのを確認してから話し出す。
「…ねぇ。やはりあのお怪我って……」
「そうでございますわね。相手が立ち上がれない程に殴ったのでしたら、殴った本人も手に傷も出来るでしょう。…そもそも、何故そこまであの方が激昂されたのですか?」
あの時私は少し興奮していて、あの2人が話の途中で仲違いして相手が殴られた、としかナタリーには説明してなかったわね。
「あの時のもう1人の教職員の方の説明で、パーティーで私が婚約解消したのは皆に良く見られて美談にする為だとか、私がそれを今頃後悔して他の婚約者のいる男性にコナをかけているのだろう、とか言いたい放題だったのを、お怒りになって……。…? あら変ね、どうしてお怒りに? 私を庇ってくださった、という事なのかしら?」
ナタリーもキョトンとした顔をしている。
「…それは、本当に王子殿下がリリアンヌ様のファンだったから、という事なのでしょうか?」
イヤイヤ、それはないでしょう!
「でも、お話したのは今日が初めてだったのよ? パーティーでの出来事も実際その場にいらっしゃった訳ではなかったようだし、人の噂話だけでそこまで感情移入してしまえるものかしら?」
うーん、と考えながらナタリーが言う。
「その場におられず話だけで聞く方が、想像が増してより素晴らしく感じる、ということもあり得るかと……」
えええ? それは恐るべき想像力ですね!?
「うーん……どうなのかしら……。あ、でも……。ねえ、ナタリー。サミュエル王子はシュバリエ公爵家と何か関わりがあるのかしら?」
「シュバリエ公爵家と、でございますか……。まあガーネット王国と我が国は昔から交流があり、王子殿下も小さな頃より我が国に遊びに来られていたようですので、最高位貴族であるシュバリエ公爵とも交流があったかとは思いますが……」
どうしてですか? と訊ねるように私の顔を見るナタリー。
「実はね、今日も王子殿下は『シュバリエ公爵令嬢の窮地を救った』と仰ったけど、昨日も話の中で私のことを『シュバリエ公爵令嬢の恋を取り持った』と仰っていたの。王子殿下とシュバリエ公爵……、もしくはカタリーナ様は何か関わりがおありになるのではないかしら?」
目を見開くナタリー。
「なるほど、少なくとも王子殿下はシュバリエ公爵令嬢が基準で物事を考えて見ておられた、という事ですわね。流石でございます、リリアンヌ様! 教室までお送りしました後、早速調査して参ります。帰りは他の者に任せますのでご安心くださいませ」
こういう調査ってワクワクするのかしらね? 少なくともナタリーはするべき事が出来て急にウズウズしているようだった。
「ありがとう。お願いするわね、ナタリー。周りの方ときちんと帰るから安心してね」
するとばぁっと嬉しそうにしたナタリーだった。
うん、本当に頼もしい味方だわ。
それにしても、一見天使のような王子様だったサミュエル様。昨日の辛辣な言葉と言動が一致しないわ。
王家に生まれるってそういう事なのかしらね……。
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