94 謝罪
「こちらの大変な不手際であり、誠に申し訳ございませんでした。勿論、学園の職員や間違った話を信じている者達にはきちんと説明し、被害者である貴女に丁寧に接していくように徹底させる通達をしました。…幸いなことに、まだ一部の職員だけしか間違った話は伝わっていなかったようでございます。
また伯爵家には改めてお詫びに行かせていただきます」
王立学園の学園長の部屋。
私リリアンヌ カールトンは、先日の学園での事件の件で呼び出され、このように学園長から直々に丁寧な謝罪を受けている。
部屋の中には学園長、教頭先生、学生指導主任、私の担任の先生。そしてナタリーと私である。
先日は無理矢理? 学生のふりをしていたナタリーだったけれど、授業時間が済むまでは他の『影候補』の学生の方々が付いてくれる事となった。
今は学園長の呼び出しとあって一緒に来てくれている。
昨夜遅くにカールトン伯爵家に帰って来たナタリーは、陛下がこの学園長や今回の事件の相手の令嬢の父であるギブソン子爵の呼び出しを行い、話し合いがされた事を教えてくれたのだけれど……。
学園長の口調がすごく丁寧なのは、『王妃候補』の話を聞いたから……? うん、多分そういうことよね?
そして、他の先生方もそれをおかしく思ってなさそうなのも、そういうことなのよね……。
「私としてはこの事が学園として正当に判断されましたら、何も言うことはございません」
そう言うと、先生方全員に深く礼をされた。
陛下、学園長に一体何を仰ったんですか……。
「…それでは、学園で何か気になる事などありましたら、担任を通じてでも私共にお知らせください。勿論、直接尋ねて下さっても結構です。
本日はお呼び出しに応じていただき、ありがとうございました」
「…いえ。あの、学園長先生? 私は生徒ですから、そのような物言いは、ちょっと……」
「はい。分かっております。生徒の前では学園長と生徒として振る舞わせていただきます」
「あ……、はい。よろしくお願いいたします。それでは、失礼いたします」
そうして、私達は学園長室を退室した。
うーん、なんだか調子が狂うわ……。
「リリアンヌ様? 大丈夫でございますか?」
表情の冴えない私をナタリーが心配してくれる。
「ええ…。ありがとう、ナタリー。…これからずっと先生方はあの調子なのかしら。なんだか調子が狂ってしまって……」
ナタリーはニコリと笑って答える。
「まあリリアンヌ様。そのようなこと、慣れでございますわよ。すぐ当たり前にお感じになりますわ」
「…それもどうかと思うけれど……」
昨夜ナタリーから聞いた話では、学園長先生は何か秘密を握られていてギブソン子爵の脅しか泣き落としかで、あちらの肩を持つ事になっていたそうなのだ。
陛下に問い詰められ事を全て白状し、新たに忠誠を誓い今はその様子見、という状態らしい……。
あの卒業パーティー後1ヶ月たち、入学式があってそれから後に学園長の交代があるのも不自然だし、他に代わる程の方がいらっしゃる訳でもない。
人とは間違いを犯すもの。
私としては、その人がきちんと反省しやり直そうとしているなら、それでいいと思う。
その加害者が人の尊厳を傷付けたり、人を殺めたり……、といった被害者側がどうしても許せない、ということでは難しいかもしれないとは思うけれど。
そして、ギブソン子爵は取調べ中。ことがハッキリ分かるまでは対外的には重要な仕事で缶詰め状態、という事になっている。子爵令嬢は停学2週間と聞いている。
彼女が私に暴力を振るった事件は、学生の登校時間の人の多い中起こったので、実際見たり聞いたりして知っている人も多い。この処分の発表は遅すぎたくらいだっただろう。
学園は、これからの運営や行動で周りの信頼を取り戻すしかないわよね……。お父様もかなりお怒りだったし。ちょっと、学園長が訪ねてくださるという日がコワイわ……。
「それでは私は教室に戻るわ。ナタリーも付き合ってくださってありがとう」
「いえ。私は教室手前までお送りいたします。お一人の時間は僅かでも作るなと、陛下から厳命されております」
真剣な顔でそう言うナタリー。
本当は大丈夫と言いたいところだけれど、昨日の件(盗み聞きしてしまった話)でも思い知ったし、決して油断は禁物だと理解している。
その昨日のもう一つの話、隣国ガーネット王国。ナタリーには昨日聞いた話を陛下に伝えてもらった。
同盟国であり、現国王も王太子も信頼のおける人物、友好の為に留学してきている第3王子も幼い頃から我が国の王宮によく出入りしていたそうだ。
実際、6年前に隣国ジェダイト王国の不審な動きの第一報を最初に我が国に知らせてくれたのはガーネット王国だったそうだ。それを陛下が速やかに処理してしまわれた訳だけれど……。そこから我が国とガーネット王国は新たに同盟を結び更に固く信頼で結ばれている関係なのだそうだ。
しかし、我が国にも隣国ジェダイト王国派がいるように、ガーネット王国での内情も一枚岩でない場合もある。
ガーネット王国にも探りをいれ、学園の第3王子にも名目上護衛として『影』をつけてくれるそうだ。うん、『影』の皆様、大忙しですね!
「ありがとう。手間をかけるわね」
そう2人で微笑み合い歩いていたら、廊下の向こうから煌びやかな数人の方々がやって来た。
私は存じ上げない方々だったので軽く礼をして通り過ぎようとしたのだけれど、明らかにナタリーが警戒をしている。
「…?」
なんだろう? と思い、相手の方々のお顔を改めてチラ見してみる。すると中心を歩く少年に目がいった。
軽やかな青い髪。…前世の日本から考えたらあり得ない色なのだけれど、所謂青い銀髪とでもいうのかしら? とても品のある美しい髪をした美少年。…あら? この方ってまさか……。
その方はこちらを見ると、和やかに話しかけて来た。
「こんにちは。私はサミュエル ガーネットと申します。失礼ですが貴女は噂のカールトン伯爵令嬢では?」
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