93 養女
ドナルド学園長の、リリアンヌを下に見たその言い方にその場にいた王やウォード伯爵、4家の高位貴族達全員がカチンときた。
「…リリアンヌ嬢は我ら4家の後見を受ける者。それで足りぬと言うのなら、我がフォートナム公爵家の養女としても良いが?」
フォートナム公爵がドナルド学園長を睨みながら言った。
「…養女になるのなら、是非我がシュバリエ公爵家に。リリアンヌ嬢が姉妹となるとなればカタリーナが喜びます。仲の良い姉妹となることでしょう」
シュバリエ公爵は、リリアンヌと仲良く過ごすカタリーナを想像したのか、後半はほわりと微笑みながら言った。
「我が家は娘を亡くしましたから、我がソドムス侯爵家に養女に来てくれたならとても嬉しく思います。本当の娘と思い、大切にいたします」
亡き娘ラウラを思い出したのか、少し涙ぐむように言うソドムス侯爵。
「リリアンヌ嬢は我が妻マーガレットのお気に入りの娘。我がワーグナー侯爵家に養女に来てくれたなら、マーガレットがとても喜びますし、仲の良い母娘となる事でしょう。我が家には娘がおりませんし、ずっと欲しいと願っておりました。ですから是非我が家へ。大切に大切にお預かりすることをお約束します」
ワーグナー侯爵がマーガレットの喜ぶ姿を思うのか、嬉しそうに笑顔で言った。
「皆の者。…その気持ちは有り難いが、それではリリアンヌ嬢もカールトン伯爵家の者も離れる事を悲しむだろう。
それに、そこまでしなくともリリアンヌ嬢はその存在自体が大変稀有であり素晴らしい女性なのだ。更に公ら4家の後見があれば『王妃』となるのに文句のある者などおるまい。
…そうであろう?」
アルフレッドは初め4家の高位貴族達を見、そしてそのあとドナルド学園長を見た。
「「御意にございます」」
一斉に礼をする4家の貴族達。
その、少し離れた場所でドナルド学園長もこう言うしかなかった。
「…御意にございます」
リリアンヌ嬢の人柄は卒業パーティーや今回の事でも証明されている。そこに4家の高位貴族達にここまで言われて否と言えばこの高位4家と敵対すると明言しているのと同じこと。そして他の貴族達も反対する者は……、ある一部の貴族を除けばいないだろう。
そしてギブソン子爵に肩入れし、学園の長としての責任を放棄した如き行いをしてしまった自分に、何をも言う資格はない。あの瞬間に自分の娘を王妃にする夢は潰えたのだ。ドナルドはさすがにそう理解した。
「ただひとつ申し上げるとしましたら、今の私のように年頃の娘を持つ貴族と隣国の肩をもつ貴族、その者達を納得させる必要があるかと思われます。恥ずかしながら私もそうでございましたが、彼らは自分の推す娘を王妃にあげる為なら、ある程度の愚かな事もしてしまうかと、そう思います」
ひとつだけ、助言をしたドナルドだった。つい先程まで、自分も娘を王妃にあげたかったから分かる。以前の王太子には早くから公爵令嬢という申し分のない婚約者がいたが、今の王には表向きは婚約者候補すらいない。皆必死でこのチャンスに賭け権力闘争に走っているのだ。自分の推す娘が王妃になればその派閥に入り大臣も夢ではない。
それがまさか、中堅の伯爵家の娘か……。しかも、カールトン伯爵家といえばどこの派閥にも属さない中立。王家とすれば権力闘争の種が一つ消えて却って都合が良いくらいなのだろう。
そして勿論、4家もの高位貴族が後見なのだから充分過ぎるくらいなのだが、今まで思いもしなかったまさかのダークホースにドナルドは息を吐いた。
「あの者達は誰に決まりそうでも何かしら文句を言うのだ。…ただ、国内の貴族を推す者はともかく、隣国の姫を推す者は一筋縄ではいかないだろうがね」
少しため息を吐きながら言うアルフレッド。
「それはそうでございますな……。頭の痛いことです。隣国も我が国の王妃の空位という絶好の機会を逃すまいと息巻いておるのでしょうな。さて、どうやって始末をつけてやりましょうか……」
フォートナム公爵が顎を撫で、剣呑な顔つきで話す。
「ごく少数派ではあるのでしょうが、どのような動きをしてくるかが気になるところです。こちらの数でも身分でも勝てぬと分かればどう出るか……?」
ふむ、と考え込むシュバリエ公爵。
「確かに、隣国派の貴族達も正攻法では通せぬと分かるはず。何か変わった方法でくるやもしれませんな。『隣国との友好』論で足りなければ、他に我が国の弱いところか弱点を探して突いてくる、などですかな……」
眉間にシワをよせ、熟考しながら言うソドムス侯爵。
「この4家の推す令嬢と言えば反対する者など実際はいないのでは……? …正攻法でこないとなれば、次は武力かもしれぬが……。隣国派も一時そんな事を言っておったが、実際今の戦力は我が国の方が上。そして戦後からは隣国には監視もついておりますからな」
頭に勢力図を展開させながら語る軍務大臣であるワーグナー侯爵。
そう話し合う4家の貴族達。
そこに、ある声が聞こえた。
「…恐れながら……。その隣国派の貴族達を、今まで取り仕切っていたのは、この私でございます……。私が失脚すれば、また他の者が取り仕切るのでしょうが……。私を、どうか私をご利用ください……! 今までの償いには、足りぬのでしょうが……。少しでも、償いをさせていただきたいのです……! 今ならば、私はお役に立てます!」
先程まで泣き崩れていたギブソン子爵の思いもよらぬ言葉に、その場にいた7人が顔を見合わせた。
「隣国派の取り仕切り…!? それは誠か……!?」
騒つくフォートナム公爵、シュバリエ公爵、ソドムス侯爵、ワーグナー侯爵、そしてマルクス侯爵家のドナルド学園長。
その横で、冷静にギブソン子爵を見る、ウォード伯爵と王アルフレッド。
暫く子爵を見入ったあと、2人は目を合わせて軽く頷き合った。
そしてその後、高位貴族達5人とも目を合わせて頷き合った。
そして、ウォード伯爵はギブソン子爵に言った。
「…詳しく、話を聞かせてもらおうか?」
そして、8人の男達の話し合いが始まったのである。
お読みいただき、ありがとうございます。
割と本気でリリアンヌを養女にしたかった、4家の貴族の方々なのでした……。




