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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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92 横暴の結末

 …取調べを、受けていただく――。


 ギブソン子爵はそれを聞き、クワッと目を見開きそして大声で言った。


「このような…ッ! このような横暴が許されてよいのですか!? 高位貴族のお気に入りと揉めただけの我が子爵家を、このような方法で潰そうとなさるなど……! そして、その相手の令嬢の心根のなんたる汚いことか! 学園での学生同士の揉め事を、自分の後見に言いつけ、このような大事にするなどと……!!」


 自分達が事を起こし、そしてそれを親が出て手を回し大事にしたにも関わらず、全ての責任転嫁をしてそう言い放った。


「黙らぬか! だいたい被害者の令嬢は学園での事件を我らに何も言っておらぬわ。この事態がここまでになったのは、ギブソン子爵、貴殿が裏で色々と画策したからであろう? …そもそもは貴殿の娘が起こした事件。本来ならば貴殿は相手の令嬢の家にすぐに謝罪に行くべきだったのではないのかね?」


 余りに理不尽な言いがかりを付けるギブソン子爵に、フォートナム公爵が正論で諭す。


「全く、その通りですな。我が子が起こした事件を謝罪するどころか揉み消そうとし、更には相手を悪者にしようなどと、どちらの心根が汚いのやら」


 普段温厚なシュバリエ公爵が、先程の子爵令嬢がマティアスに迫ろうとした件もあるのか、かなりきつめに言い放った。


「『横暴』というのも、そっくりそのままお返しするよ。貴殿は王宮で身分の低い者や後継でない者には、相当な横暴振りだと一部では有名だったからね。そして、前王妃側にも良い顔をして近づいていたのも知っているよ」


 ソドムス侯爵は、今まで心ならずも王妃派の中でいて苦労してきただけあって、周囲の様子を読むのが上手いのだ。目立たぬよう動いてきたつもりのギブソン子爵の事も、何やら違和感があり知っていた。


「そして…。我が家にいる間者。他にも関わりのあるあちらこちらの貴族にも潜り込ませているのだろう? どうしてそれだけの間者を雇えるのか? 失礼ながら子爵家は主が王宮で働くとはいえ、通常の子爵よりも少し裕福な位のはずだろう? それが、それだけの間者を抱えて、何事かを企んでいた……。恐らくは手始めに我が家に侯爵夫人として入り込み、またそれ以上の何かを考えていたのでは? 調べたら、他にも色々と出てきそうですな」


 4貴族にそれぞれ痛いところを突かれ、ギブソン子爵は何も言い返せなかった。

 特に、最後のワーグナー侯爵の言葉は、彼を震撼させた。


 そしてそこに、アルフレッド国王が声をかける。


「ギブソン子爵。学園で此度の事件が起こったあの日、始め私は子爵令嬢を厳重に処分させようとしたのだ。そんな私にリリアンヌ嬢は、『今回の事は学園内で起こった学生同士での事件。学園内のルールで裁かれるべき』と言ってそれを止めたのだ。…今回、少なくとも子爵が卑怯な手を使い被害者の令嬢を貶めようとさえしなければ、子爵令嬢の学園内の処分だけで収まっていたのだ」


「陛下! …まさか! そんなはずはない……! どうして被害者である令嬢が加害者である我が家にそのような庇い立てをするというのですか……? 全く利点がない……! ダニエル殿とも何の関係もないのであれば、その令嬢は全くなんの事かもわからぬまま今回の件に巻き込まれたのでしょうに……!」


 自分の理解の範疇を超える話に、ギブソン子爵は相手が陛下だということさえも忘れて叫んだ。

 ウォード伯爵に「無礼であるぞ」と嗜められる。


「…それが、リリアンヌ嬢なのだ。彼女は『相手の令嬢は今の自分の置かれた立場を分かってやった訳ではないから、その立場からの厳しい罪にするのは意味が違う』と、そう言って私を止めてきたのだよ。事件を知り学園に乗り込もうとした伯爵夫妻をも止めたと聞いている。伯爵家と子爵家では格が違う、学園にもし伯爵家が乗り込んできたのなら、今回のケースは『通常なら』間違いなく子爵令嬢に厳しいお咎めとなっただろうね。リリアンヌ嬢は学園に学生同士だけの、身分に関係のない公正な判断をさせる為に行動をしていたのだ」


 王のその言葉に、同じ部屋にいるドナルド学園長もバツが悪そうに下を向き、拳を握りしめた。


「…! そんな、まさか……!」


 色んな衝撃を受けた今日の中でも、ある意味1番の衝撃を受けた子爵は、全身から力が抜け崩れるように膝をついた。彼の今までの人生の信念ともいうべき、『人とは自分の利益が1番大事』という事が覆されたのである。


「それをギブソン子爵、貴殿が自分で台無しにしてしまった。貴殿は、人の弱みを握り人を脅し人を陥れ人を思い通りに操ろうとした。そしてそんな貴殿は周りも自分と同じような考えて動くと思っているのだろう。

対してリリアンヌ嬢は、人を想い人の為に動き人に感謝し人の心に寄り添おうとしている。

…2人は、とても対照的だね。

貴殿がこれから罪を償っていく中で、彼女の行動を少しでも理解できるようになれる事を望むよ」


 そうアルフレッドは言い、崩れ落ちるように膝をついたままの子爵を見た。

 子爵は、最初感じた剣呑さ狡猾さは抜けてしまっていた。そして呆然としながらも呟くように問う。


「…陛下。ひとつだけお教えください……。何故、最初から相手の令嬢を事件後すぐに保護され、加害者を厳しい処分にと言われていたのですか? まさか陛下も彼女の『後見』を……?」


 ギブソン子爵が膝をついた状態であまり焦点の合わない目でアルフレッドの方を見ながら言った。


「…あのパーティーで、最初に彼女の保護を、『後見』を言い出したのは私だよ。そして、彼女は今は私の『王妃候補』でもある。…まだ色良い返事は貰えていないがね」


 これには、呆然としていたギブソン子爵も目を見開いて驚く。

 そして部屋にいたドナルド学園長も驚愕し、王の顔を見た。


「は……、はは……。それは、我が娘の婚約者など奪う訳はないと、最初から分かっておられたはずだ……。

私は……、我が家は、彼女に手を出した時点で、もう勝負に負けてしまっていたのだ……。

それなのに、彼女は我らに公明正大な処置をと望んでくれていた……。だが私は更に愚かな行動をして、身を滅ぼす事となったという事か……。ははは……。なんと……、なんと愚かな話だ……」


 ギブソン子爵は自嘲する様に呟きながら泣き伏した。


 そこに、またしても自分の思惑の外れた者が王に訊ねた。


「陛下。…今の話は誠でございますか? まさか、伯爵令嬢を王妃にと、そう仰るのですか!?」




お読みいただき、ありがとうございます!

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