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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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91 衝撃

 衝撃から立ち直れず呆然と立ち尽くすギブソン子爵に、フォートナム公爵は言った。


「あり得ぬも何も、あのパーティーで起こった様々な大きな事件……。前王夫妻と第2王子の失脚という国を揺るがす事件だったにも関わらず、それら全てがのまれて霞んでしまう程に、最後にかの令嬢は皆を涙させて清々しい気持ちにさせてしまったのだ。まさに、あり得ない話であった。お陰でせっかくの卒業パーティーが台無しになる事なく、恙無く終える事が出来たのだからね」


「!!」


「かの令嬢は我が家の恩人だ。あのパーティーで前王妃は第2王子殿下が婚約破棄騒動を起こしたのは婚約者であった我が娘カタリーナがワーグナー侯爵家嫡男と恋人で殿下を裏切っていたからだ、と言い出した。

…その時かの令嬢が皆の前に出てくれたのだ。自分は彼の婚約者だが2人は会ってもいない。実は元々2人は婚約寸前で王家によって引き裂かれていた。そのあと彼らは今の婚約者にそれぞれ誠実でいる、と。そして2人の手を取り『お幸せになってください』と、そう言って身を引いてくれたのだよ。その瞬間、会場内は感動に包まれた……」


 シュバリエ公爵はその時を思い出したのか、涙ぐみながら言った。


「そのあと、会場を出た令嬢の泣き声が聞こえたのですよ……。彼女は自分の気持ちを抑え、彼らに幸せを譲ったのです。その時までの会場は、自分の欲の為に行動していた者達の断罪の場。なんともいえない重い雰囲気でした。それが、彼女の行動で感動に包まれたのです。人とは、捨てたものではない。人とは、こんな事も出来るものなのだ、と私も思いましたよ」


 ソドムス侯爵も、あの時を思いながら言った。


 (くっ……! あの卒業パーティー……。あのパーティーでの事をもっときちんと調べていれば……! ちょうどあの時期から次期侯爵となるはずのダニエルが急にエルマから離れたから、我が家はそれどころでは無くなってしまったのだ! それさえなければもっと周りの状況に気を配れたものを! そして、子供の学園での揉め事などに口出しさえしなければ……!)


 ギブソン子爵は、口惜しさに手が震えた。


「そう、今回子爵令嬢が手を出してしまったのは、あのパーティー後にこの4家を後見とした令嬢。勿論、令嬢は我が家の二男ダニエルとは全くそのような関係ではない。本当にそちらの思い違いだったのだよ。そして、ダニエルとご息女とも、婚約などしていないがね」


 ワーグナー侯爵のこの言葉にギブソン子爵が噛み付いた。


「しかし…っ! しかしダニエル殿は我が娘エルマにずっと、結婚して欲しいとそう言ってきていたではありませぬか!」


 ワーグナー侯爵がスッと目を細めて答えた。


「そう、そしてそれをずっと断り続けてきたのはそちらだ。こちらもお互いが本当に想い合っていて2人で結婚したいと、そう言ってきていたのなら婚約の話を考えただろう。しかしのらりくらりとそちらは躱していた。そして、極め付けは約3年前シュバリエ公爵家との婚約話が流れた後のマティアスへのエルマ嬢の行動だ。…貴殿も知っているのだろう? エルマ嬢が何をしようとしたか」


 サッと顔色の悪くなった子爵は、目を逸らして言った。


「…なんの事やら、サッパリ分りませんな」


「…では、教えて差し上げよう。エルマ嬢は約3年前、シュバリエ公爵家の令嬢との婚約が直前でダメになったばかりの傷心のマティアスに、『私が慰めて差し上げます』とそう迫ってきたそうだよ。さすがに我が息子は弟の想い人に手を出す程に無節操ではなく、計画は失敗したようだがね。自分に結婚を申込む男性の兄にそのような申し出をするような娘と、結婚など許す訳がないだろう」


「…なんと…! それはまことですか、ワーグナー侯爵…!」


 そこに反応したのはシュバリエ公爵だった。過去のこととはいえ、自分の娘の婚約者になる者に手を出そうとされたとあっては動揺しても仕方のないことではあった。


「何もございませんでしたので、ご安心ください。シュバリエ公爵」


 しかしながら、ギブソン子爵は新たに子爵家に敵意を持つ者を増やしてしまったのであった。


「…! それは、ただ本当に失意の義理の兄をお慰めしようとしただけではないかと……!」


「わざわざマティアスの部屋を1人で訪ねて行ってかい? 普通の令嬢は婚約者でもない男性と部屋で2人きりになったりはしない。ダニエルを訪ねてきたはずの令嬢がマティアスの部屋に入るなどあり得ないのだよ」


 ワーグナー侯爵は冷たく言い放った。

 そしてそれには、ギブソン子爵はもう何も言えなかった。


 フォートナム公爵、シュバリエ公爵、ワーグナー侯爵、ソドムス侯爵は皆で頷き合った。


 「此度、我らの保護するリリアンヌ嬢にギブソン子爵の令嬢が暴力を振るったこと、そして子爵がその事を揉み消そうと画策し、更にリリアンヌ嬢の経歴に傷を付けようとしていた事から、厳重なる処分を求めます」


 4家の高位貴族が一斉に礼をし、フォートナム公爵が代表してアルフレッド国王に進言した。


 その様子を見、更に王を見て頷きあい、ウォード伯爵は言った。


「ギブソン子爵。ご息女の暴力事件も然り、そして子爵自身が学園でのこの事件を揉み消さんと暗躍した事が明らかとなった。そして今回貴殿が学園へ下手に手を回した事から、数々の貴族の屋敷に間者を入れ、そこから得た情報を元に貴族に脅しをかけた疑惑が出てきている。

…取調べを、受けていただく事になる。覚悟めされよ」



お読みいただき、ありがとうございます!


4家の愉快な?おじさま達の頑張る回でした。

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