88 王と学園長
「陛下。この度はご即位誠におめでとうございます。お呼びと伺いまして急ぎ馳せ参じましてございます」
王宮の小広間。小広間とはいっても収容人数の違いだけで豪華さは変わらない。
大広間の5分の1程の大きさの部屋に、玉座にアルフレッド国王陛下が座りその前に1人の壮年の男性がいた。
――ドナルド マルクス。
彼の父は王弟でマルクス侯爵家に婿入りした。アルフレッドの従兄弟にあたる人物。今はマルクス侯爵家の爵位を長男に譲り、オブシディアン王立学園の学園長をしている。
「従兄弟殿。よく来られた。…今日は、学園での話を聞こうと呼んだのだ。
…あのパーティーがあってから、新学期の学生達の様子を聞いておきたくてね」
ドナルドはなるほどと頷いた。
「左様でございましたか……。学園内はやはり始まって2、3日はあのパーティの話で持ちきりだったようでございます。学園側といたしましては、入学式や新学期の式等で教師から王宮より示された公式な見解を説明するなどの対策を取っております。最初は学生達が騒つくのは仕方がない事かと。そしてそろそろ学生達の関心はパーティの件から離れつつあるようで、こちらも一安心といったところでございました」
「そうであったか……。貴殿にも迷惑をかけたね。…他に、学園内で気になる事はあるかい?」
アルフレッドは、ドナルド学園長の様子を一つたりとも見逃すまいとじっと見据えた。
「気になる事……でごさいますか。時に、陛下。陛下はお妃の事をどのようにお考えでしょうか? 私共臣下は陛下に良き伴侶を得ていただき、心健やかなる状態で国の運営にあたって頂ければと願っております。隣国よりの縁談もあるようですが、今他国の者を最深部に入れるのは良い手とは申せません。…我が侯爵家にも年頃の娘がおります。まだ婚約者もおりませんので、是非候補にお加えいただき陛下とのご縁が出来れば、私も大変嬉しく思います」
そう来たか。
マルクス侯爵家からの縁談が来ているのは分かっていた。ミレーヌ嬢17歳。リリアンヌ嬢と同い年。これよりずっと前から私との縁談を進めたいが為婚約者を作っていないのも分かっていた。こちらはそんな気は全くないのだが。
「…それはマルクス侯爵家の話であって、学園での話ではないであろう? …では、学園内での問題は他には何もないと?」
鋭く学園長を見据えて問うてくる王に、少し怯えながらもそれを見せぬよう学園長は答えた。
「…そうでございますね。特に大きな問題はございません。陛下におかれましては、学生達を気にかけていただき、誠に有難く感謝申し上げます」
…大きな問題はない、か……。
アルフレッドは手を顎に持っていき、少し考える素振りを見せてから言った。
「先日、学園で何やら揉め事があったと聞いたのだが。被害者の生徒が怪我をしたと聞いたので、王宮から使いをやってこちらの医師に診てもらったのだ。…それは大きな問題ではないと?」
一瞬、ドナルドの顔が強張るのをアルフレッドは見逃さなかった。
「その件は……。ある深い事情がございまして……。学園といたしましては、公にはしていないのでございます」
少し慌てて誤魔化そうとするドナルドをアルフレッドは追い詰める。
「『深い事情』? それはどのような?」
「とある生徒の今後に差し障る事でございますので、ご容赦いただきたく……」
『とある生徒』。
ナタリーはリリアンヌに学園側は何も接触してこなかったと言っていたから、加害者側のみの事情を聞いて動いているということか。
「学園長。『とある生徒』とは、加害者側の生徒の事かい? 貴殿は加害者を保護する為に被害者を蔑ろにするというのか?」
「そうではございません。決してそのような事ではありませんが……。それによって1人の生徒の未来が潰えてしまっても良いと仰るのですか?」
えらく肩を持つのだな。しかもそれはまるで脅しではないか。半分呆れながらアルフレッドは答えた。
「では、悪事を働いても事情さえあれば無罪放免になり、そして被害者は打ち捨てられると、貴殿はそう申すのか?」
「! …それは……」
自分の言い分の雲行きが怪しくなり、下を向き黙り込むドナルド。
それで済まさせるつもりはないが。
「揉め事という事はどこでも起こり得ることではあるが、こと学園に於いてはこれからの若者の為にも特に慎重な扱いが必要となる訳だが……。貴殿の言う『加害者側』の理由もだが、きちんと『被害者側』の事情も聞いたのだろうね?」
「それは……。先程陛下が仰ったようにその後すぐに王宮へ行き、怪我の経過を見る為暫く休みを取っていたようで聞けておらぬようでございます」
「…これは、おかしな話だね、学園長。貴殿は被害者側の話を聞いていないのに、加害者側の話だけを聞いて加害者を気の毒だと庇っているのかい? それは、世間一般の常識からも随分と外れた話だね。学園ではそのような非常識を教えているのかい?」
「! …そ、それは……! そのような事は決してッ!」
そう言い、また黙り込むドナルド。痺れを切らしたアルフレッドは、静かに、それでいて逆らう事の出来ない低い声で問うた。
「その加害者とは? そして、どのような事情があると考え学園はこのような怠慢を起こしているのだ?」
静かに響く声。先程までなんとか耐えていたドナルドだったが、限界だった。
「…ひッ……。お、お許しをッ! 加害者は、『エルマ ギブソン子爵令嬢』にございます……! 大変な事情とはッ、ギブソン子爵令嬢の婚約者を、相手の令嬢が奪ったとか……!
あまりに、酷い話でございましょう? ですから彼女は怒りの余り我を忘れて、そのような暴挙に出てしまったようなのでございます……ッ! 我ら学園側は貴族としても、そのような不義理を行うような相手の令嬢を許しがたく、このような対応をしている訳でありまして……ッ」
言い訳を続けるドナルドに簡潔に問うアルフレッド。
「…して、そのような事実はあったのか?」
「…はッ? 勿論ですッ。子爵令嬢とその父の子爵もそのように申しておりまして……」
「貴殿はその加害者側の話ばかりを鵜呑みにしているようだが、その婚約の事実、そしてその被害者の令嬢がその相手を奪ったという事実を確認したのか、と問うている」
「…は、いや、ですから、子爵が、そのように……」
これは、完全にギブソン子爵側だけの話を聞いて、鵜呑みにしてしまっているようだ……。しかし、彼は元々は公明正大な男だったはず。だからこそ、王立学園の学園長を任されていたのだから。
…それとも、他に何か子爵のいう事を聞かねばならない、理由があるのか?
アルフレッドはドナルドの態度を不審に思った。
お読みいただき、ありがとうございます。
ナタリーは王宮に行き速攻で王に報告。アルフレッドも超特急で学園長を呼び出しました。従兄弟と2人で話をするのもすごく久しぶりのようでした。




