87 有名
「リディアさんとは確か1年の時同じクラスでしたわよね。あの時はグループが違ったので必要な事しかお話しなかったですけれども……」
「ええ。そうでございましたわね。…ふふ。でもリリアンヌ様は『影』候補の生徒達の中では有名でしたわ。私は叔父の影響で幼い頃から『影』の訓練施設に行っていたので、顔見知りがたくさんおりますの」
有名?
「リディアさんは『影』候補ではないのね? そして、私が有名……? 今回の『王妃候補』の件ではなく?」
リディアさんは、驚く私を嬉しそうに見ながら話してくれた。
「ええ、私は半分趣味で通っておりましたの。そして『影』のメンバーは元々の生家は余り身分の高い貴族ではなく、しかもだいたいの方が3番目以降の子で後継でもない存在。学園では下に見られる事が多いのですわ。そしてそんな彼らに意地悪をされる方も、中にはいらっしゃるのです」
うーん、悪しき風習だけど、貴族の中にはいらっしゃるのよね、そういう事をされる方が……。
「そんな中、リリアンヌ様はそんな場面に出くわしたなら、お声かけなどして助けてくださる『救世主』として有名だったのです。今回、リリアンヌ様の『王妃候補』の話をお聞きして、『影』候補達は皆狂喜乱舞いたしましたわ。流石はアルフレッド陛下、人を見る目がおありになると大騒ぎでしたのよ」
え? 『影』の皆さんが大騒ぎ?
「私が『王妃候補』となっている事を、喜んでくださっているの? 私は……、今回高位貴族の方々に後見についていただきはしたけれど、育ちは普通の伯爵家。普通なら王家に嫁げる程の家柄でもないし、そのような教育も受けてはいないわ。それでも……。喜んでくださる方達が、いてくださるの……?」
きっと、私はとても不安げな顔をしてしまっていたのだと思う。私の顔を見たリディアさんは、安心させるように微笑んで、そして私の手にそっと自分の手を乗せた。
「…勿論ですわ。私達は『王妃』に、これほど相応しいお方は他にはいらっしゃらないと、そう思っております。偉大なるアルフレッド陛下に並び立つ、リリアンヌ王妃殿下。このお二人を国に戴いた時、きっとこの国は大きく繁栄する事でしょう」
…私は、本当に陛下と共にいても、いいのかしら……?
こんな風に、言ってくださる方々がいてくれる事に、私は嬉しさと、少しの怖さを感じてしまうのだった。
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「お帰り、リリアンヌ。学園はどうだった? サリアとも話せたかい?」
あの後馬車で思ったよりもリディアとは話が弾んで、学園内でもリディアと他の『影』の方が常時側についてくれる事になった。『影』の方々が自主的に申し出てくださっているそうで、有難い限りで皆様に本当に感謝だわ。
今私付きの護衛となっているナタリーに話を通したら、という事でお願いしている。
「ええ、お父様。…少しお話があるのですけれど、よろしいでしょうか?」
お父様は頷き応接間に行き、お母様も合流された。
「実はこの間の学園での事件、学園側の解釈がおかしな事になっておりました。今日は学園側から何も連絡等は無く、夕方偶然知ったのですが……。どうやら、『婚約者を奪われた令嬢が怒りの余り奪った相手の令嬢を叩いてしまった』と学園側は思っているようだったのです」
お父様もお母様も大変驚かれた様子だった。
「どういう事なのだ? 何故そのような見解になったのだ……! やはり学園に抗議しに行くべきなのでは!?」
「学園側はどういう訳か向こうの聞き取りだけをして、それを鵜呑みにされているようでした。何故か叩いた令嬢に同情的で、私の事はそのような行いをした非常識な令嬢、と思っているようでしたわ。勿論、目撃された方や事情を知っている方も居ましたので、それほどそれが本当の事だとは学園全体では思われていないとは思いますが……。他の学生達の様子を見ましても、今のところ一部の教師の方でそう思われているようです」
お二人共、怒りを露わにされた。
「なんと、いう……! 何という恥知らずな!! 何か揉め事があれば、両方の言い分を聞くのが筋だろう……! 被害者の話を聞かず加害者の話を鵜呑みにするとは!! まさか、王立学園がそのような対応をとるとは……! 信用して任せた我らが愚かだという事か!! セバスを呼んでくれ! 今から学園に抗議しに行く!」
立ち上がるお父様。お母様まで準備をしようとされていた。
「待ってください! その話を聞いた後ナタリーが急ぎ王宮に行き対応をしてくれる事になっております! とりあえず、今はナタリーが王宮の対応を教えてくれるまでお待ちください!」
怒りの収まらない様子のお2人。
うん、私も何もしていないのに叩かれて、しかもこちらが悪く言われるのでは納得はいかないわ。
「陛下が対応してくださるという事ならば……」
お2人共、渋々といった様子で怒りを収められた。
本来なら我が家で対応すべき事柄だと思うけれど、今回は子爵家が何か特別なツテで都合良く話を収めようとしている節がある。そして、おそらく学園側の上位の方が絡んでいる可能性もあると思う。
そして、『ガーネット王国』の第3王子……。戦争があったジェダイト王国でなく、同盟国であるはずのガーネット王国の動きもよく分からないし、今回はとりあえずは一度陛下にお任せした方が良いと思う。
「ああ、しかしもしも陛下がそのような話を信じてしまわれたら……」
お2人が頭を抱える。
随分と疑心暗鬼になってしまってるわね……。
信用していた学園のそんなお粗末な対応を知ったから、仕方ないのかもしれないけれど……。
「陛下は、きっと分かってくださるわ」
そう、私は陛下を信じている。
マティアス様と初めてお屋敷をお訪ねした時も、陛下は不義理な事だと家族同然のマティアス様をお叱りになっておられたわ。
陛下は、きっと真実を分かってくださる。
そして、私達家族はとりあえず王宮からの連絡を待つ事となったのだった。
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