85 もう一つの隣国
「リリアンヌ様。お探ししたのですよ。どうしてあのようなところにいらっしゃったのですか? そして、あの男性は一体……?」
2人であの中庭の裏から静かに抜け出し、食堂のテラス付近に来た。下校の時間になっている為テラスにはほぼ誰も居ない。
「ごめんなさい。貴女が飛んでいった紙を追いかけてくれた後、もう一枚の紙も飛ばされてしまったのよ……。それを追いかけたら、あの方達が会話をしているところに出くわしてしまったの」
私も本当に驚いたのですけれどね……。
「そうだったのですね。申し訳ございません。やはりもう1人お付きの者が必要ですね……。早急に陛下にご相談させていただきます」
「いえ、そんな……」
そう言いかけてから、私は先程の男性達の会話を思い出した。
「…ええ。場合によっては考えてもらっていいかしら? 私もこれからは充分に気を付けていくつもりだけれど……。
先程の男性達は、どうやら第2王子ルーカス様の前回の騒ぎに関わっていたようだったの。そして失敗した事から陛下の妃問題、更には先日陛下が学園に使いをやり王宮に呼び出した私に、目を付けたようだったわ……」
「…何ですって!?」
珍しく、ナタリーが動揺したようだった。
そうして私は、ナタリーに先程の男性達の話の内容を簡単に話した。
「…なんと、いう事……! リリアンヌ様に目をつけられてしまうとは……!!」
あ、そこなのね。
てっきり、ルーカス様の陰謀やら陛下の妃問題に他国が関わっていそうな事に関心を持つかと思ったんだけれど……。ナタリーは、それでも私を優先して思ってくれるのね。
私はそんなナタリーが嬉しくて、つい微笑んでしまった。
「……! リリアンヌ様! どうして微笑んでいられるのですか! お命を狙われる可能性もあるのですよ!」
しまった、不謹慎だったわね。でも……。
「ごめんなさい。…でも、ナタリーが私を1番に思って怒ってくれているのが嬉しくて……。ありがとう、ナタリー」
途端に、ナタリーが真っ赤になった。
「…ッリリアンヌ様……! 当然ですわ! 私は……ナタリーはずっとリリアンヌ様をお守りしますから……! 陛下の次位には、お味方でおりますからね!!」
力いっぱいに言われて少し驚いたけれども、とても嬉しいわ、ナタリー。
「ふふ。ありがとう、ナタリー。私も貴女の味方よ」
更に赤くなったナタリーは、少し目を逸らしながら言った。
「…それでです。先程私が参りました時には、そのもう1人の男性という方は後ろ姿をチラリとしか見えなかったのです。少し細身の、学園生としかわかりませんでした。あと倒れていた男性は……?」
「…私は2人の『声』しか聞こえなかったの。でも話の内容から倒れていた方はこの学園の教師の方のようだったわ。王宮からの使いの事を知ってらしたし。どの方かは、明日怪我をされている先生を探せば分かるでしょう。それより、もう1人はこの学園の生徒……? この学園で、学生で外国の方といえば……」
昨年から留学されて来ている、あの方しかいないわよね?
「まさか……。もう一つの隣国ガーネット王国の第3王子、という事ですか……」
――ガーネット王国。14年前戦争を仕掛けて来た隣国ジェダイト王国とも隣り合わすその国は、我が国と同じように隣国から攻撃を受けた事もあり、我が国と同盟も結ばれている。
海も山もあり、国民性も一般的に穏やかと言われるガーネット王国。近年も農作物はまあまあ豊作、海も特に荒れる事もなく豊かな国というイメージだわ。隣国のジェダイト王国からの戦争の脅威にいっときは晒され、軍備は強化されているはずだけれど……。
その国の王家が、我が国の王家に手を出そうとしている? ジェダイト王国の脅威が消えた訳でないのなら、あちらに目を向けるのが普通よね?
よく分からないけれど、たとえ同盟国でも何か揺らぎがありそうなら、すかさずその国に手を出したり自分達の属国などにしようとするものなのかしら?
「私は彼の国とは良好な関係だと思っていたけれど、実際の両国の関係性は国の主要な方々しか分からないのかもしれないわね……。どちらにしても、この事は陛下にご報告しなければならないわね」
ガーネット王国の第3王子は、学年は一つ下で接点もなく立場も違い過ぎるのでお話した事がない。他国の王室の方が留学してらっしゃるのね、としか思ってなかったもの。うん、我が国の王子がやらかすのを見て、なんと思ってらっしゃるかしら……と心配した事はあったけれど。
とにかく、この事は国の重鎮方にお任せしない事には仕方ないわよね。
「それが良いかと思われます。他国の王子ともなりますと外交問題ともなって参りますし……。こちら側の学園の教師は取り調べる必要があると思われますが」
こちら側の教師の方から調べていくしかないわよね。ああ、教師といえば……。
「そういえば、ナタリー。この間の学園で私が頬を叩かれた件。あれは学園ではどういう扱いになっているのかしら。実は先程の教師の方が『婚約者を奪われた女子生徒が奪った女狐を殴ってしまった暴力事件』と称されていたのだけれど……。私側の聞き取りは学園からされていないから、相手方の言い分だけが鵜呑みにされてしまっているという事かしら?」
「……!!」
「いえ、周りからみたらそんな評価なのかも知らないけれど、実際の所は向こうの思い違いでこちらには落ち度は無かったはずよね? それをこちらが婚約者を奪ったとか女狐だとか……。こちらはいきなり叩かれて思い当たることなど何もないのに、さもそれが事実であるかのように周りや学園側に言われるのは……。……? ナタリー? あ、ごめんなさい。こんな事を貴女に言っても困るわよね。明日にでも学園の先生方にお話をしてみるわ……」
「…大丈夫でございます」
ん? あれ、いつものナタリーよりも、声が一段低いような……。
私はナタリーの顔をちらと見た。
「!!」
般若っ!?
前世の般若の面を彷彿とさせる、ナタリーの怒りに満ちた姿がそこにあった。
「お任せください。そのような愚かな間違いを犯している学園側にはきっちりと間違いを訂正させ、真実を学園内に隈なく周知させますわ。
リリアンヌ様に、そのような愚かな見方をした事を泣くほど後悔させて見せてご覧にいれますわ!」
うよっ!?
ナタリーさん、まだお顔が般若ですよ……!
「あの……。私はとりあえず、正しい情報になってくれれば、それで……」
「何を仰いますか! 王立学園でこのような間違いをそのままにするような怠慢は許されません! きっちりと謝罪させなければ! たとえこれが普通の一般生徒でも許されない事ですわ。きちんと両方の言い分の聞き取りをせず、悪い事をしていない生徒が悪く言われるような状態を放置するとは、教育者たる者とは思えない怠慢ですわ!」
うん、まあ本当にそうなんですけどね。ナタリーの迫力がコワイのですわ……。
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