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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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84 密談


「どういう事かと申されても……。ルーカス様は失敗されたのです。やはり、あの方では荷の重い話だったのです」


 『告白スポット』から聞こえる声……。私は反射的に身を隠した。

 もう一つの声も男性の声……。男性同士の告白、などではないわよね……。この、ルーカス様って、第2王子ルーカス様のこと?

 そう思った瞬間、さっと血の気がひく。


「貴方が、彼は単純だから思い通りに動かせる、と言ったのですよ。私達はそれに乗せられていい笑い種です。…しかも、あの扱い易い王が退位したばかりか、次の王があのアルフレッドだとは! 事は悪い方向に向かったではないですか! これでは、あのまま放置してジワジワと王家の権威を失墜させ、民や貴族が蜂起するという筋書きの方が余程現実的でしたよ」


 !! なん、何ですって!!

 第2王子は、操られていた……? 確かにあんな愚かな行動をされたのは、誰かが唆した、若しくは誘導した、とも思えるわよね……。そして、王家の権威を失墜させて民や貴族の蜂起ですって!?

 はっ! 待って。今この噂を流してまた国を乱す、という事も考えられるから、話を信じて飛びつくのはダメよね。


「しかしながら、アルフレッド様は未だ独身。この機会に妃に貴殿の国の姫を送り込めば、操り易くなります……! 国同士の縁談となれば、断り辛いはず……!」


 ドクンッ。

 …驚いた。やはり、そう企む方々はいる、という事なのね。…どうしよう。ドキドキして手が震えている。変な冷や汗が出てきたわ。


()()アルフレッドが簡単に縁談にイエスと言う訳がないでしょう。あの歳まで独身だったのですよ? 彼は女性がダメなのではないですか?」


 ちょっと! それは聞き捨てならないわね!! 陛下は好きではない方と結婚されなかっただけなのよ! …って……。イヤだわ。私ったらちょっといい気になっているのかしら。


「…とにかく、我が主は大変お怒りであられます。失敗した者の始末を私に申し付けられています……」


 1人の冷静な方の男性の冷酷な声が中庭に低く響く。

 私は、その男性がこちらまで見透かしているのではないかとヒヤヒヤしながら、気配を消すようにじっと身を隠す。


「待てッ! 待ってくれ……! …そ、そうだ、いい情報があるッ! 入学式の前日、陛下が学園に1人の女生徒を王宮に連れてくる様にとのお達しがあったのだ! その女生徒はかなりの美少女だったし、陛下のお気に召したのかもしれんぞ? そうでなくとも、何か、国に関わりがある事に違いない……!」


 え? それってまさか私……?

 イヤ、『かなりの美少女』? あ、そうか、リリアンヌはそこそこ美少女よね? でもこの国の方の顔面偏差値は結構高いし、『かなりの美少女』説には照れが入るけれど……。

 イヤイヤ、照れてる場合ではないわね。コレは、私という『王妃候補の存在』が、この友好的でない彼に知られそうになっているのだから……!


「――アルフレッドが? 確かにそれは、興味深い情報ですね。どういう訳で呼び出されたか聞いているのですか?」


 うわぁ……。あの人、興味を持ってしまったわよ……!


「女生徒同士の喧嘩があったようなのです。なんでも婚約者を奪われたとかなんとか……。1人の男を巡っての争いですね。盗られた女生徒がその悪どい女狐の顔を殴ったようでして……まあ、気持ちは分かりますがね。とりあえず、暴力を振るった方が悪いという事です。その殴られた女生徒は医務室に行ったのですが、どうも脳震盪を起こしたとかで王宮の医師に診てもらう事になり王宮へ……」


 はあ? 


 ちょっと、コレは学園側はあの事件を一体どう解釈をしているの⁉︎ そういえば、私側の取調べはなかったから、向こうの言い分がそのまま採用されているという事⁉︎ 

 そして、私は『悪どい女狐』ですか!! 『美少女』とか言ってあげておいて、随分派手に落としましたね!!


「貴方は馬鹿ですか。それのどこにアルフレッドが関係しているというのですか。女同士の争いなどくだらない。…始末をされたくないからと、随分と私を舐めた、馬鹿な話をしてくるのですね。本当に死にたいのですか?」


 その相手の男性から、本当に殺気のようなものを感じた。いや、でもこんなところでそんな事、する訳ないわよね……!


「まっ…待ってくれ!! 本当だ、本当にアルフレッド様からのお達しがあったのだ……! 『怪我をしたリリアンヌ カールトン伯爵令嬢を王宮にお連れし診察するように』と……! あの側近ウォード伯爵からの使いだったのだ。あの者達はアルフレッド様からの指示でのみ動く方々だろう⁉︎ 絶対に確かな話なのだ!」


 あっちゃー……。コレは……。コレは本当に、冗談で済まない事態になるのかもしれないわ。

 よりによってフルネームを……。というか、この話をしている学園側の方って、先生なのね? 王宮からの使いの事も詳しく知っているなんて……。

 あぁそして、先生方の認識は、あの事件は『生徒同士の1人の男性を巡る女の醜い争い(そして私は奪った女狐)』だって事ね!! コレは本当に正しく訂正を希望します!


「リリアンヌ カールトン伯爵令嬢……。その令嬢は、例のパーティーでシュバリエ公爵令嬢の恋の手助けをした、あの令嬢なのでは?」


 …その事も、この方は知ってらっしゃるのね? この方は、一体……?


「あぁ、確か、そうでしたな! それがこんなにすぐに違う男にコナをかけているとは……。本当に女というのは恐ろしい生き物ですな! 婚約者を皆の前で譲って見せて美談にでもしたかったのでしょうが、女性には婚約破棄というものは一生つく傷ですからな。今頃後悔してこのような恥ずべき行為をしているとは、嘆かわしいことです!」


 もう本当に、言いたい放題ね! …私だって、傷物令嬢になる事くらい、分かっていたわよ? それでも、…それでも愛する2人に割って入っているなんて、私は嫌だったのですもの……! そして、私は恥ずべき行為など、何もしていないわ! 


 ッガツッ……!!


「ッグフ……ッ!! 」


 へ? 何? なんの音?


「本当に、貴方はクソですね。反吐が出ます。

ああ、もう我が国からの援助はないものと思ってください。そして何かおかしな動きをしたらその時は……、分かっていますね?」


 …どうやら、学園の先生がもう1人の男性に殴られたみたいね。すごい音がしたわよ? 


 もう1人の男性は学園の先生に脅しをかけた後、去って行ったようだった。


 後に残る学園の先生は、まだ動けないでいるようだった。コレは、相当手加減なしで殴られたわね。


「…リリアンヌ様」


 ナタリーが小声で後ろから声をかけてきた。彼女は何かを察してくれていたようで、私達は静かに頷き合いそっとその場を離れたのだった。





お読みいただき、ありがとうございます!



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