83 本当の、盗み聞き
「それで、こんな事になっているのね。よく見たら貴女の周りに護衛がいるので、何事かと思ったわ。そして本当に怪我はなんとも無いのね?」
私は、少し乾いた笑いで返した。
学園が始まって3日後、領地からの道も通れるようになりサリアが登校してきた。
実は私も今日があの暴力事件後、初の登校なのです……。あれから2日は頬の赤みが消えず、大事をとって休みを取ったのだ。
そして授業後学園の食堂のテラスで、サリアとナタリー。多分周りには違う警護の方がいてくれる。……サリアはすっかり私付きとなって自然と側にいるようになったナタリーと顔を合わす。…ナタリーは今は学園の生徒に扮しているけれど。
「そして、貴女は最初からリリアンヌを守る為に付いていてくれた、護衛の方だったのね。あの時は非常事態だったから深く考えなかったけれど、随分リリアンヌに肩入れしてるなーとは思ってたのよね」
「あの節は、ありがとうございました。これからはリリアンヌ様に誠心誠意仕えさせていただく所存ですので、よろしくお見知りおきの程を」
サリアはナタリーの私への完全なる忠誠心を見て、少し引き気味ながらも頷いた。
そしてちらと私の様子を伺う。
「ねえ、サリア……。貴女も知っていたのよね? だってモーガン領では誰もノーマン公爵が新国王になった話をしなかったもの。いつからそちらに緘口令が出ていたの?」
私に突っ込まれ、あちゃーという顔をするサリア。
「うん、そうね……。貴女がウチに来ると決まった時にカールトン伯爵からもお願いされたし、その後陛下からも書状が届いたのよね……。我が家は最初、未来の王妃をお預かりする事にテンパったのだけれど、とにかくいつものように過ごしてもらおうとお父様達を叱咤したわ」
「サリア、未来の王妃って……! でも皆様に、気を使わせてしまってたのね……。何も知らず呑気に過ごさせてもらっていて、申し訳ない事をしたわ」
サリアは笑顔になって言った。
「そうしてもらう事が私達の願いだったのだから。貴女に気付かれずゆっくりと過ごせてもらったなら良かったわ。…だけど、あの毎日のお花や周りの警備状況には皆驚いていたのよね。そしてコレは陛下は本気でいらっしゃるのだと皆が思ったわ」
そうなんだ……。あの時は自分が楽しむ事に夢中で全然気付いていなかったわ……。
サリアに色々とお世話になった私は、早速今回陛下に婚約を申し込まれた事などを報告しているのだ。
「カールトン伯爵夫妻はなんて仰っていたの?」
ピクッ!
「そう、それなの!! お父様達ったら、いくら陛下からのお達しとはいえ本当に! なぁーんにも! 教えてくださらなかったのよ! あれから屋敷に帰って問い詰めたら、『そうか、陛下より伺ったのかい』、って、へらッと言うのよ! ちょっと位匂わせてくれるとか、覚悟はいいかとか、何かあっても良かったと思うの!
お陰で私は本当に何も知らずに陛下に、す、好きかも…なんて言ってしまって……!」
私の言葉にサリアが反応する。
「えっ! 好きだって、ご本人にお伝えしたの⁉︎ それでどうなったの⁉︎」
「ち、違うの! 『好きかも』って……。まだどういう好きか分からないけど、好きだと思うって、そう言ったの……。
そうしたら、その後ノーマン公爵が国王となったお話と『王妃』の話になって……!」
「…あぁ、そういう事かぁ。それではまだお返事した訳ではないのね。」
ちょっとガッカリした様にいうサリア。イヤ、そんな簡単な話ではないでしょう?
「サリア? 『王妃』だからね? はーいやりまーす、なんて言って出来る事ではないからね?」
「でも、リリアンヌが陛下を好きなら何も問題はないんじゃない? 『王妃』だって、言い方は悪いけれど、前王のあの王妃にだって務まったのよ? 周りのサポートもあるだろうしね。そしてなんといっても貴女には4家もの高位貴族の後見が付いているんだから!」
「う〜。だけど私まだそれを知った所だから、その4家の方々に直接ご挨拶もしていないのよね……。それに、シュバリエ公爵とワーグナー侯爵のお2人以外はパーティーでチラッとお見かけしたくらいなのよ? どうして私の後見を買って出てくださったのか……。しかも、あの時は陛下の『王妃候補』の話になる前でしょう? マティアス様達のお祝いムードに流されておしまいになられたのかしら……?」
「お祝いムードになったら誰かの後見になるのだったら、皆が色んな方の後見になってるわよ。…純粋に、貴女のあの時の行動に心を打たれたのではない? 私もあの時リリアンヌに惚れ直したわよ?」
え? 惚れ直した……?
「えっ! サリア、私はそんな趣味はないのだけれど……
!」
「なっ……! ちょっと、そういう意味ではないわよ! もう、そういうところは王妃としてどうなのよ! リリアンヌ!」
えぇっ? 反対に叱られてしまいました……!
慌てて2人でわたわたしている姿を、ナタリーは笑顔で見ていたのだった……。
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「あっ……!」
授業が終わり、渡り廊下をナタリーと2人で歩いていると一筋の風が通り抜け、私が持っていた一枚の紙を持っていってしまった。
「リリアンヌ様。私が取って参りましょう」
すかさず、ナタリーが取りに行ってくれる。渡り廊下って結構風の吹き抜けがあるのよね……。気を付けなきゃ。後もう一枚の紙はしっかり持って……と、ッあ……っ!
うわ、もう一枚、また違う方向に飛ばされてしまったわ!
あれは明日提出の大事な紙なのに……!
私は慌ててその紙を追いかけた。
ナタリーが追いかけた紙は校舎の方に飛んだ様だったけれど、もう一枚は渡り廊下奥の中庭の方に飛んだ様だった。
中庭に抜ける道の脇の細い裏手の道なき道を紙を追いかけながら、あれ、ここは以前サリアに『人(マリー嬢)の話をコッソリ聞ける場所』を探していて教えてもらった『告白スポット』の場所ね、と思い出す。
今ここに行ったら、誰かが告白していたりなんかして……。なんてね。
紙……。よっと! 良かった、捕まえたわよ!
私はやっと追いついた大事な紙を手に取り、ほっとした。
「……どういう事ですか。どうしてこんな事になっているのですか?」
いきなり聞こえた男の人の声。
もしかして、告白の現場に遭遇!?
私は反射的に身を隠した。
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