82 自慢の娘
「そんな風に、隣国との繋がりを持つ貴族がこの国にいるなんて……。戦後、友好を温めるという意味ではないということですわね? 隣国にはとても酷い目にあわされ、確か一族が滅ぼされた貴族もあったとお聞きしています。それなのにそのような利権に走る貴族もいるだなんて! そしてそれが今、陛下の治世を脅かす何かに繋がってしまうのかもしれないのですよね? 陛下が戦争を収めなければ自分の家も滅ぼされていたかもしれないのに、そのようなこと……」
驚き、悲しくなって少し感情的になってしまった……。
「初めは『友好の為に』と近寄って来られたのかもしれないね。我が国は隣国に対して戦争の恨みもあるが、『元王女』の件では罪悪感もある。その辺りを突いてこられたのかもしれない……。そしてその内その甘い汁を吸うのに慣れ相手の言うがままになった、という事かもしれないと閣下は仰せだったが……」
『閣下』?
「お父様。その『閣下』とはどなたのことですの?」
「ん? ああ、フォートナム公爵閣下だよ。あのお方は陛下支持派の急先鋒、生粋のアルフレッド陛下派だね。なんでも陛下が第2王子としてお産まれになった時から惚れ込んでいる、と噂される程の方だよ。あのお方の熱の入りようには全く敵わないよ……」
フォートナム公爵……。マーガレット様のお兄様ね。私と一切関わりがなかったのに、今回私の後見に名乗り出てくださったのよね。確かマーガレット様が前王との婚約を断る際にも協力してくれたと仰ってたわ。どんな方なのかしら……。話を聞くに、ものすごく陛下の事がお好きよね。
「そして今、隣国と関わりを持つ貴族達を炙り出している最中なのだ。この機会に関係を持つ貴族の割り出しだけでもしておかなければ、という事でね。まあ純粋に隣国の王室との関係強化の為にと婚姻を勧める貴族もいるようだが、いわばその貴族は情勢を読めない者と判断されているようだがね。
そして陛下のお気持ちはもう決まっている訳だけれど、それを今知っているのはごく身近な貴族達だけ。諸々の縁談を断るのに強い理由付けがなく、とりあえず今来ている縁談をなんとか躱している状態なのだよ。
早く即位やその他の事を決めて準備していきたいのに、縁談や問題が湧き出てくる。陛下が内心穏やかでいらっしゃれないことは、拝見していて私でも分かるよ……」
こういう変革時には皆の思惑が絡み合って、まとめるのは大変でしょうね……。
「陛下は、リリアンヌが王都に戻ったと聞いてすぐにでもこちらに来ようとされていたが、また新たな問題が分かり時間が取れなくなってしまわれた。そうこうしていたら、また違う国からも縁談が来てね……。もうこれは、早く陛下の婚約を発表しない事には一向に収拾がつかない、縁談は増えるばかりだ、という話になって……」
そこでナタリーも言葉を発する。
「陛下のお気持ちは、リリアンヌ様にあります。陛下に心健やかに国を治めていただくには、リリアンヌ様が必要なのです。そしてこの事態を収めるには……」
あぁ、そうなのね。そこで私の返事が必要となるのだわ。
「隣国や他の貴族との縁談を断るにも、その理由、私の存在を出さなければいけないけれど、陛下と私はまだそのような話にはなっていないので名前を出せない。相手は名前を出さないのならと向こうの縁談を押そうとする……。で、余計に話が紛糾していた、という事ですのね……」
お父様は静かに頷く。
ナタリーは申し訳なさそうに答えた。
「……そうでございます。陛下は本当は貴女様の心が癒え、貴女様と心を通わせてからこの婚約をまとめたかったご様子なのですが……。議会が紛糾し即位までの準備も思ったように進まない忙しさの中、リリアンヌ様の学園の登校日が来てしまい大層慌てておいででした。そして起こった学園での事件。それで陛下は学園側に至急リリアンヌ様を王宮に連れてくるようにと申し付けられたのです」
そう、そういう事だったのね……。
私がのんびりしている間、国はそんなに大変な状態だったのね。そしてそんな中でも陛下は私の為にお花を贈ってくださり、私を気にかけ今日も会いに来てくださった……。
……私は、どうしたいのだろう?
多分周りに危惧されたように、初めに『王妃』にという話だったなら即、断っていたわ。
そして今は、この状況と陛下のここまでの想いや皆の思いも聞かせていただいて、お受けする方が良いのだと思う。
何より私の心は……。多分、陛下の事を……。
でも、私に本当に『王妃』が務まるの? この世界でも普通の伯爵令嬢。王家に嫁げる程の家柄でもないわ。そしてそんな教育も受けていない。いくら高位貴族の方々の後見があっても、私自身に『王妃としての品格』がなければ難しいのではないかしら? そして前世はもっと普通の、ただの20代後半会社員。特別何か優れていた訳でもない。マーガレット様は前世でもかなり出来るお方だったけれどね。
所謂『前世チート』? なんてものも全くないしね……。
「私は……。王妃となる自信がないのです……。
陛下の事は心よりご尊敬申し上げております。でも……。王妃次第で国は揺れてしまう事もあると、今回前王妃の件でよく分かりました。私はそれが恐ろしくて……」
私は今の自分の気持ちを話した。
「……リリアンヌはどこに出しても恥ずかしくない、私達の自慢の娘ですよ。貴女がその時自分が思う最善の事を一生懸命にしていたら、王妃としても大丈夫なのではないかしら? そしてリリアンヌ、貴女は1人ではないのですから。陛下も、後見をしてくださる貴族の方々も、きっとそこにいるナタリーも、……そして、貴女の親である私達も、貴女の味方なのですからね」
「……お母様……」
お母様は、そう優しく微笑みながら仰った。
そしてその横でお父様も、そして私の後方ではナタリーも笑顔で頷いてくれたのだった。
そして私は今日は結論を出せなかったけれど、近いうちに心を決める様にとの事になった。
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