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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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79 告白後

「ナタリー。あのパーティーでは本当にありがとう」


 王宮からの帰りの馬車で、私はナタリーにお礼を言った。

 あの時、私のやけ食いのスイーツを取ってくれるところから始まり、途中第2王子達の前に飛び出しそうになった私を止めてくれ、傍で私を守ってくれた。そして婚約解消後泣きじゃくる私の為に部屋を用意してくれて慰める為にスイーツまで用意してくれた。

 あれ? スイーツに始まりスイーツに終わってるわね……。まあそこは気にしたら負けよね。


 とにかくあの時色々お世話になったナタリーには本当に感謝しているのだ。


「勿体ないお言葉でございます。……リリアンヌ様は、あのパーティーで私の名前を訊いてくださいました。

女官の名前を聞いて、褒めてくださる方なんてなかなかいらっしゃいませんわ。そしてその後の貴女様の行動も……。私、感服致しました。今回お側に居られる事になり、本当に陛下に感謝しておりますの。私はリリアンヌ様に心よりの忠誠をお誓いいたします」


 ナタリーはそう言って、馬車の中で座りながらも美しい礼をしてくれた。

 私はそんなナタリーに少し慌てながら言った。


「私こそ、貴女の気遣いにとても助けられたの。

……だけど、ナタリー。私はまだ『未来の王妃』となるか分からない不安定な存在なのに、貴女に付いてもらって良いのかしら?」


 陛下はまるでほぼ決定事項のように言われていたけれど、私は寝耳に水で現実感がない。

 ……陛下のことを、好き……だとは思うけれど、その『好き』もどの『好き』か分からないし、王妃という立場にも怖気付いている。


「私共は、貴女様こそが王妃に相応しいと思っております。そして何よりも、陛下があれ程想いを寄せていらっしゃるのですから」


 ナタリーは安心させる為か、私に優しい笑顔で語りかける。


「あの、『私共』って……。ウォード伯爵よね……。私、あの方とはご挨拶くらいしかしていないのだけれど……。

それに私はまだ前の婚約を解消してひと月程なのよ? それなのにあと1ヶ月で新たな婚約を発表するのもどうかと思うわ。何より私は陛下の事を、あ、愛してる……かどうか、なんて……。分からないのよ。ご尊敬申し上げているし、好きかと聞かれたらそれは好きなんだけれど……」


 私は今の自分の正直な気持ちをナタリーに話した。


 ナタリーはそれを真剣な顔で聞いて、答えてくれた。


「『私共』とはウォード伯爵様だけではございませんわ、昔から陛下を慕う方々は皆リリアンヌ様を推していらっしゃいます。そして先程のお2人のご様子は、お互いに好き合った初々しいカップルのように見えました。人の心の内は他人には分からないものでしょうが、リリアンヌ様は陛下をとてもお好きなようにお見受け致しましたわ。そして惚れた腫れたよりも尊敬し合う関係の方が、末長く愛は続くのではないでしょうか?」


 尊敬し合う関係……。確かに私は陛下を尊敬しているし、すごく好感を持っている……。


 私はそれから暫く考え込んでしまった。そしてそれを、ナタリーは静かに見守ってくれていたのだった。



~~~~~



「お帰り、リリアンヌ。学園で事件に巻き込まれたと聞いて心配したよ。……あぁ、なんということだ。頬が少し腫れているね」


「ただいま戻りました。……今は少し腫れていますが、大丈夫ですわ。王宮で診察もしていただきましたし。

学園で、何か思い違いをされた令嬢に頬を打たれたのです。大した事はございませんわ」


 カールトン伯爵家に帰ると、両親が心配して待っていてくれた。


「それにしても、顔を叩くなんて……」


「どこぞやの子爵家の令嬢らしいね。厳重に抗議しなければ!」


 お父様もお母様も、大層なお怒りのご様子だった。


「お父様お母様……。学園内での事ですから。私は先生方の公平なご判断にお任せしますわ。私、それよりも大切なお話がございますの。

今日、陛下とお話致しました。……お2人も、何か私にお話がおありになるでしょう?」


 一瞬、固まられるお父様とお母様。

 ぜーんぶ、話していただきますわよ!


 そして私達は応接間に移動したのだった……。


~~~~~


 応接間に着き私はまず、ナタリーを両親に紹介した。お父様は、陛下より『いずれ正式な警護のための侍女を付ける』と聞いていた、との事でお互い挨拶を済ませこれから屋敷や学園でも私付きとなる事になった。

 そして私達親子3人と私の後ろにナタリーが付いた状態で話が始まった。


「あの卒業パーティーの翌日、緊急に御前会議が開かれて国の主だった貴族達が参加した。……私は今回特別に参加の要請があり出席したのだが……。その会議でパーティーでの出来事の発表があり、罪人となった方々の処遇が決められた。

……そこまでは、話したね?」


 お父様が慎重なお顔で話される。でも、『お父様が特別に要請された』のくだりは聞いてないと思いますわ。そこ、端折ってましたよね? でも話を途中で止めるのもなんなので、頷きそのまま話していただく。


「そしてその後、兄王のご指名によりノーマン公爵改めアルフレッド オブシディアン陛下が国王に決まったのだ」


「その重要なお話を、お聞きしていなかったのですわ……」


 お父様はそこで困ったお顔をされて、「まあ最後まで聞いて欲しい」と話を続けられた。


「会議の後、私はアルフレッド新国王陛下に別室に呼ばれたのだよ。そして、今回リリアンヌに降りかかった不幸を、そもそもが王家の不始末からなった事で申し訳なかったとの謝罪を受けたのだ。まさか陛下からの直接の謝罪を受けるとは思わず、恐れ多い事でとても恐縮したよ」


 陛下からの謝罪……。公式のものでないにしても、普通はなかなかない事だわよね。


「そしてそこで言われたのだ。陛下がリリアンヌ、君を妻にしたいということを。パーティーでの行動だけではなく、この2ヶ月のリリアンヌを見て心惹かれた、と……。

勿論、今マティアス殿との婚約をこのような形で解消したばかりであるし、リリアンヌの気持ちも聞いていない。そして、リリアンヌの意思も尊重してから話を進めたい、と仰せられて……。

私は感動したよ。陛下こそがリリアンヌを幸せにしてくださる方だと、そう確信した。

しかし今これから陛下は、国の立て直しや即位の為多忙となられる事、そして何よりリリアンヌの気持ちがもう少し落ち着くまでの時間が欲しい、とも仰られた。それまで他の縁談を君に進めないで欲しい、ともね」


 あの時点で、陛下はお父様にそこまで仰っていたのね! あの時、もう私の事を……好いてくださっていた、のね……。本当に……。私は少し頬が熱くなるのを感じた。


「そして、リリアンヌが友人のモーガン領に行くつもりのようだと話をしたら、モーガン伯爵と我が家に陛下が即位される事を暫く話さないように言われたのだよ……。きっと『王妃』と聞けば君が辞退するだろうから、と……。まあ私もそう思ったからね、了承し、モーガン伯爵にもお願いしたのだよ」


 そこ! それですよ! ……まあ確かに、その時点で知っていたら問答無用でお断りしていたと思いますけれども! でも、選ぶ権利というか、考える余地というか、与えられてもよかったと思うのですけれど!

 けれどひと月ゆっくり休養し、余計な事を何も考えずに過ごさせてもらったからこそ、今こうして落ち着いてものを考えられるようになっているのよね……。


「そこでお父様は、高位貴族の方の後見のお話をお聞きになられたのですか?」


 お父様はまた少し困った顔をされた。


「……そうだ。本当に驚いたよ。前代未聞の事だからね。リリアンヌは聞いてはいなかったのだね?」


「……はい。私はマティアス様とカタリーナ様が皆様に祝福されるのを見届けた後、広間を出て行きましたので……」


 そこで、サリアとナタリーに見守られてギャン泣きしたことは絶対秘密だわ。




お読みいただき、ありがとうございます。

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