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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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78 告白2

 部屋に入って私達2人を見たウォード伯爵は、一瞬目を見開いた。


 ……それはそうだろう。だって、陛下は未だ私を軽くとはいえ腕の中に閉じ込めている状態なのだから! 多分向こうから見たら抱きしめているように見えるに違いない。


「……陛下。プロポーズは了承していただけたのですか?」


 低い声で聞かれるウォード伯爵。

 あ、若干温度が下がった気がします。


「いや、一月以内に気持ちを決めてもらう事になっている」


「え。可能なのでしたら、是非ご遠慮させていただきたいのですが……」


 ピクッ。しまった、目の前の陛下からも冷気を感じます!


「リリアンヌ嬢? 逃がさないと言っただろう?」


 そう言って陛下はその金の瞳に恐ろしい冷気をのせて私を見据えた。

 ちょっと、コレは蛇に睨まれたカエル状態です……。


「リリアンヌ様。私としてもその『遠慮』はお勧め致しません。

……そして、陛下。想い人をそのように脅かしてどうするのですか。それから、まだ婚約もしていないのですからその体勢はよろしくありません。手を離して差し上げてください」


 陛下は、渋々といった様子で手を離してくださった。


 私は陛下の腕の中からやっと出る事が出来た……けれどそれはそれで寂しいような……、って何て事を思ってるの、私!

 私は火照る顔を両手で押さえた。


「リリアンヌ嬢。……約1ヶ月後に私の王位継承を祝う国内向けのパーティーがある。戴冠式は国内外に案内を出しているので2ヶ月後になるが。そのパーティーの前に心を決めてくれないか。出来ればそのパーティーで婚約を発表したい」


 1ヶ月後のパーティーで発表!!

 

「陛下。それは……。もう決定事項になってませんか? 私の返事を待ってくださるのでは?」


 あまりの展開の早さに、目の回る思いで聞いてみる。


「私も貴女が私のことを何とも思っていないというのなら、無理強いをするつもりはない。だが……、貴女は私を好きだと思うと、そう言ってくれただろう? 両想いなのに、私の立場だけで断られるのは不本意だからね」


 あぁー! さっきの私の発言ですか!

 それは、好きは好きなんだと思うんですけれど!

 それが『愛』で王妃として支えていけるほどの『好き』なのか、それともただの友人などに対するような『好き』なのか、よく分からないんですけどー!


「私、王妃としての、自信なんて全くありません……」


 私がへにょりと眉を下げ頼りなさげにそう言うと、陛下は全く心配なさげに仰った。


「貴女は流行病の時、感染対策をする為に自分の領地を駆け回った。その民を想う気持ちが1番大事なのだ。あとはこれからの王妃教育と周りのサポートで充分やっていけるだろう」

 

 イヤ、簡単に仰いますね!


「ただの伯爵令嬢が自分の思うように動くのと、立場のある王妃とでは全く違うと思います……。何より、私には王妃となる高位貴族の基本がなっていないと思うのです」


「王妃教育は後からでも出来るが、1番大切な国や民を想う気持ちはあとからではなかなか難しいものだよ。 

……そして何より私が貴女に、……リリアンヌ嬢に、隣にいて欲しいのだ。これは他の誰でもダメなのだよ……」


 陛下は最後に、少し困ったように言われた。


「リリアンヌ様。私共臣下も、貴女様をお支えして参ります。どうか、陛下との事を前向きにお考えください」


 何故かお2人に説得されているのですが、本当にどうしたものでしょうか……。

 陛下よりももっと困った顔をした私に、陛下は優しく言われた。


「リリアンヌ嬢。……返事は1ヶ月待つが、申し訳ないが護衛はつけさせてもらう。

……今、我が国は揺れている。そしてその揺れを、隣国は虎視眈々と見ている。彼らが最後に表立った動きを見せてから6年……。隙あれば彼らは見逃すはずがない。……そして貴女が狙われる可能性もある」


 隣国……!


 14年前と6年前に我が国に牙を向けた隣国……。そして、今もまた?

 そうだとしたら、今立場があやふやな私が狙われる可能性があるという事……!


 サッと顔色が変わった私を見て、陛下が頷く。


「状況を分かってもらえたようだね。隣国ではまた密かに軍備が増強されているとの報告もある。決して油断はできない。今、不安定な我が国を狙われてはならないからね。その為にも貴女の身辺は固く守らせてもらう。

……実は今回の事で君も気付いたとは思うが、既に貴女に警護は付いていた。にも関わらず、今回貴女に怪我を負わせてしまったのはこちらの落ち度だ。本当に済まなかった」


 あの時の学生たち!

 イヤに動きがスマートだと思ったら、警護の方々でしたか! 


「あの方達ですか……。私、その内授業であの素晴らしい技を習えるのかと期待しておりましたのに……。

あ、それから私が怪我をしたのはあの方々のせいではありませんわ。私が話に夢中になってしまって周りに気を配れなかったからです。あんな近くにまで来られていたのに気が付かないなんて、危機管理の意識が低かったですわ……」


 私の最初の台詞で陛下はくすりと笑い、その後は笑顔になって頷かれた。


「リリアンヌ嬢さえ良ければ簡単な護身術等を教えよう。

そして貴女がそう言っていたと知ったら、彼らも少しは安堵するだろう。今回のことをかなり悔やんでいたからね。だが今回はこれで済んだが、失敗は死に繋がる。次の失敗は許されない。だから学生達だけでなく、プロの『影』も付けることとなった。……ナタリー、入ってよい」


 部屋にスッと音もなく入ってきたのは、卒業パーティーで私にスイーツのお世話をしてくれた、女官見習いのナタリーだった。


「リリアンヌ様。お久しぶりでございます。この度、陛下よりお側に仕える栄誉をいただきました。何卒なにとぞ宜しくお願い致します」


 ナタリーは美しいカーテシーをした。


「! ナタリー! 貴女が私に付いてくださるの? 嬉しいわ! ……あら、でもナタリーは宮廷女官よね? 私に付いてしまって大丈夫なの?」


 急に心配になる私に、ナタリーは笑顔で言った。


「勿論、大丈夫でございますわ。リリアンヌ様にお側でお仕えする事が出来るのは望外の悦びでございます」


「ナタリーは普段は宮廷女官として働いているが、かなりの技の使い手でもある。普段は貴女も知っての通り、とても気の利く出来る女官であるしね」


 まあ、ナタリーも今日の令嬢達のような技が使えるのね! 凄いわ……! 私もコッソリ教えてもらおう……!

 そして、私はもう一つ気になった事を陛下にお話しする。


「……陛下。一つよろしいでしょうか。今日の学園での件なのですけれど……。相手の令嬢には通常の学生同士の揉め事の場合の罰にしていただきたいのです。今回、相手の方はいきなりの暴力というしてはならない事をされましたが、これはあくまで学生同士での揉め事です。恐らく普通は何日かの停学かと思いますので、そのような事でお願いいたします」


 陛下もウォード伯爵も、一瞬目を見張られた。


「……その令嬢は、未来の王妃に手を出したのだよ?」


 私は陛下の目を見ながら言った。


「……いいえ。今回彼女は何も知らず、ただの学生同士としての揉め事でした。彼女は『未来の王妃』に対して事を起こした訳ではありません」


 陛下は私の目を見て少し考えられた後、頷かれた。


「……分かった。しかし取調べは厳重に執り行わせる。裏に何かあってはいけないからね。その上で何もないと判れば、通常の学園のルールで裁かせよう」


 私は胸を撫で下ろした。……別に相手の令嬢に情がある訳じゃない。ただ、あくまで彼女は学生である私に手を出したのだ。それが『未来の王妃』に対する反逆の罪が付くのは違うと思うから。

 

「では……、リリアンヌ嬢。名残惜しいが私はそろそろ行かなければならない。カールトン伯爵には話は通しておくので、ナタリーと共に馬車で屋敷まで送らせよう。

……そして、よい返事を待っているよ」


 陛下は最後に私の手を取り手の甲に優しく口付けをして、私の顔を見られた。

 私は、陛下の唇が手に触れた瞬間に顔がボンッと音がする程熱くなり、……きっと真っ赤になっていたのだと思う。それを陛下は満足そうに、嬉しそうにご覧になり笑顔になった。


 ……はい、可愛いです……。キュン、とするのは……、きっと、気のせいではない、と思います……。


 そして陛下は名残惜しそうにしながらもウォード伯爵に連れて行かれ、私は火照る頬を手で冷やしつつ、ナタリーと共にカールトン伯爵家に帰ったのだった。






お読みいただき、ありがとうございます。

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