73 再会
馬車の窓からそっと覗くと、そこには見慣れた美しいワーグナー侯爵邸が見えた。
…つい、この間までは毎週のようにお訪ねしていたところなのに……ね。
少し感傷に浸りつつも、馬車は侯爵邸に到着した。
馬車から降りると、そこにはマティアス様が待っていた。
「…久しぶりだね。リリアンヌ嬢。
…パーティーでは、本当にありがとう。何もかも、リリアンヌ嬢、君のおかげだよ。心から感謝している。
そして今日は母の為に来てもらってありがとう。…さぁ、こちらへ」
以前と変わらず優しげに笑うマティアス様。けれども、当然ながら距離感は以前とは違っているわ。
「ありがとうございます。…マーガレット様のご様子はいかがですか? 随分とお加減が良くないとお伺いしましたが……」
マティアス様は、悲しそうに目を伏せながら言った。
「…あの日の夜に、全てを母に話したんだ。
母は驚き、そして僕にとてもお怒りになり……最後には涙された。あのような母を見るのは初めてだったよ。
その後倒れられ、1週間程寝込まれてしまったんだ。今は大分回復されたのだけれどね。一応夜会などはお断りしている。
…とても、君に会いたがっているんだ」
マーガレット様……。
弱さなんてないかのような、そんな方が……。
「マティアス様。父からマーガレット様宛に書状を預かっておりますの。…必ず、お会いする前に読んでいただくように、と……」
マティアス様は頷き、書状を受け取られた。
「分かった。確かに預かったよ。…母と一緒に読ませていただいても?」
「はい。大丈夫かと思いますわ」
「それでは、この応接間で待っていて? 書状を読み次第、母を連れて来るからね。…スイーツを用意してあるから、寛いでいて」
そう笑顔でマティアス様は出て行かれた。
私は長椅子に座り、侍女から紅茶を入れてもらう。…うん、美味しい。久しぶりのワーグナー侯爵領の特産の紅茶。
そして、流石にこんな時にスイーツに食いついているのもアレよね……、と、フルーツタルトと睨めっこしていると、ノックされ、マーガレット様が入ってこられた。
「リリアンヌ……! ごめんなさいね……。貴女にはとても辛い思いをさせてしまったわ……。
本当に、ごめんなさい……!」
マーガレット様は部屋に入るなりそう言って、私を抱きしめた。
「マーガレット様。お身体は大丈夫なのですか? すぐに来られなくて申し訳ございません。私は昨日伯爵家に戻ったばかりで……。そうしたらマーガレット様がお倒れになられたとお聞きしたのです。
…そして……、あれほど良くしていただいたのに、色々、マーガレット様にお話し出来なかったこと……。本当に申し訳ございませんでした」
私も、マーガレット様を抱きしめるように背中に手を回した。…やっぱり、少しお痩せになったように感じるわ。
「マーガレット様。きちんとお食事は召し上がられていますか? 少しお痩せになったのでは?」
マーガレット様はクスっとお笑いになり、仰った。
「貴女もね、リリアンヌ。少し痩せたのではない? 今もスイーツを食べていなかったようだし……」
「…私も、いつも食べてばかりではありませんのよ? マーガレット様。」
私達はふふと笑い合った。
「…さあ、マティアス! 私達は女同士の話をするから、貴方は出ていってもらってよくてよ」
あら? いつものマーガレット様、よね?
マティアス様は少し苦笑しながら言った。
「分かりましたよ、母上。…ですが、先程の書状のことを……」
「分かっていてよ。さあ、2人でお話したいのよ。早く出て行ってちょうだいな」
あらあら……。いつもの少し強引なマーガレット様よね。
そして、少し心配そうにこちらを見ながらマティアス様は出て行かれた。
パタンッ……。
閉まってすぐに、マーガレット様が真剣なお顔で私を見られた。
「莉乃?」
「!!」
私は、息が止まったかと思った。
「莉乃……、よね? 私の事が分かっているんでしょう? だから、あのクッキーをくれたりパーティーの前に名前を呼んでくれたのよね……?」
少し、不安げに私に問うマーガレット様……。ううん、違うわ。
「『真奈』。……なのよね? 本当に……。そして、思い出して、くれたのね……。うん、私は、『莉乃』。前世の日本で、貴女の親友だった、莉乃なの……!」
マーガレット様……いえ、真奈は、ぶわっと涙が溢れた。そして……、私も、涙が溢れ出た。
そして、私達2人は暫く抱き合って再会を喜び合い、泣いていたのだった……。
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「だいたい! 貴女が階段から転げ落ちて死んでから、私がどんな思いでいたと思ってるの! しかも、私が勧めたゲームで徹夜してふらついてって……。あれ程辛くて情けなかった事はないわよ! 貴女の親御さんもそれは悲しんでいて……」
「はい……。スミマセン……」
あれからやっと落ち着いた私達は、とりあえず前世の話からし始めたのだけれど……。自分の死んだ後の話を聞かされるっていうのも、なかなかないわよね……。
「…私、あれからゲームはやめたの。貴女を奪ったゲームなんて、もう見たくもなかったから。…でも貴女が最後にしていた『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』……。ねえ、あのゲームって……」
真奈は眉間にシワを作って私を見た。……跡が残るわよって、後で注意しておかなきゃね。
「……そう。この世界の事だった。私も驚いたわ。学園でゲームの登場人物が全員揃っていたのだもの。
私は今から約3ヶ月前、失恋のショックから前世を思い出したの。私は真奈も知っての通り前世でも失恋してたし、1回失恋したくらいで人生終わりじゃないって気付いて、それは乗り越えられたのだけれど……。
同時にここって前世でのゲームの世界じゃない? て気付いたら、この先起こる断罪劇の事が分かってしまった……。そしてマティアス様のお好きな方は『悪役令嬢』のカタリーナ様だった。でも、彼女はこの世界ではヒロインを虐めてないのはあきらかだったし、このままだと冤罪で断罪されてしまう。だからなんとかしなきゃいけない、と思って……」
そう言うと、真奈は少し苦笑いした。
「そういうところ、やっぱり莉乃よね……。そういうの、分かったとしてもだいたいの人は黙ってスルーすると思うわ。自分の婚約者の好きな相手をわざわざ行動を起こして助けようなんて、普通しないわよ。しかも、その相手は王族なんだし……。そして結局、婚約者はその好きな人と一緒になってしまった……。
私が聞くのもおかしいけれど、……後悔は、ないの?」
後悔? 私はキョトンとした。
「? だって、2人は想い合っているのよ? 私も相手が彼を想っていないのなら、身を引くなんて事はしなかったと思う。でも想い合う2人の間にいたって、結局3人とも不幸になっちゃうわよ? それなら2人だけでも幸せになる方がいいじゃない? 後悔はないわ。
うふふ……、私はこの一月、思いっきり遊んで来たの! 周りに気を遣わせたのは申し訳なかったけれど、美味しいものもいっぱい食べて、フル充電、完全復活よ!」
私はどうだ! とばかりにドヤ顔で言いきった。まあ事実だしね。思いきり泣いて、そして思いきり笑って……。それが許される状況だった私は恵まれていると思う。
今度は真奈がキョトンとして私を見て、そして笑った。
「…そうね。それでこそ莉乃。それでこそ、私がこの世でも惚れ込んだリリアンヌだわ!」
私達は2人で笑った。
そして、私はずっと気になっていた事を話す。
「この世界は、『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』の世界。…でも、おかしいの。登場人物や学園や国の設定……。合っているハズなのに、何かが違う。悪役令嬢はヒロインを虐めないし、王子は傲慢で自分勝手なの。色んな違いがあったけど、決定的だったのは第2王子の瞳の色」
「瞳の……色?」
真奈が、その印象的な緑の瞳で私を見る。
「そう、瞳の色。卒業パーティーで王子に贈られる王子の瞳の色のドレス。それが、この世界では第2王子の瞳は青色で真っ青なドレスだったこと。
『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』の1番の見せ場のヒロインのドレスよ?
それが、第2王子ルートで本来のエメラルドグリーンからブルーに変わっていることに、本当に驚いたの」
お読みいただき、ありがとうございます。
マーガレット様の前世の記憶も戻り、気兼ねなく色んな話も出来て嬉しいリリアンヌです。




