71 決定
この時フォートナム公爵は、先程までの勝算が大きく崩れてしまった事に焦りを感じていた。
『アルフレッド様……。そこまで、王とお成りになるのがお嫌なのか……! 誰よりも、国王に相応しい貴方様が……!』
フォートナム公爵は、ノーマン公爵を見て思う。そして、それを見たノーマン公爵はその心の内を分かったかのように思った。
『…悪いね、フォートナム公爵。貴方にはいつも感謝はしているけれど、コレは譲れない。私の『今世での仕事』は、もう終わっているのだから……』
ノーマン公爵は、彼に感謝しつつも、勝利を確信した。
「…ッ。…では、クリストフ国王陛下。貴方様が次の王に相応しいと思われる方をお示しください」
フォートナム公爵は悔しさを押し殺しながら、クリストフ国王に問うた。
…もう、答えは分かっているではないか!!
騒つく会議の間。
慌てるアルフレッド派の重鎮達。
『…どうにか、陛下のお言葉をひっくり返せる、何か手はないのか……!」
彼らはどうにかしてクリストフ国王を邪魔する為の何かを、ひたすら考えていた。
「陛下。…兄上。どうぞお示しください」
『いいのですよ、兄上。貴方の大事な息子エドワルドは国の事をよく考える、良き王となる事でしょう』
そう、慈愛を込めた目でノーマン公爵は兄を見た。
『エドワルド』。そう言われると誰もが思った。
「――では、余の思う次代の王に相応しい者の名を告げよう。
――アルフレッド ノーマン」
えっっっーーー⁉︎
一瞬、会議の間が静まり返った。
今、陛下は『アルフレッド ノーマン』。そう、言ったのか?
この部屋中の者が聞き間違えたかと、そう思った。それ程までに、今までのクリストフ王はノーマン公爵を恐れ憎んでいたのだから――。
「お前こそが、この国の王に相応しい。この国の英雄であり、この愚かな兄を支え続けてくれた、お前こそが。
――エドワルド、済まぬな。愚かな父の所為でお前には苦労をかける」
クリストフ国王は、今まで決して弟に対して使わなかった『国の英雄』という言葉を使った。弟を称える二つ名を、目の前で使われることも厭うていた、あの王が。
皆は、驚きを隠せなかった。
そして、そんな中エドワルドは父王に対して頷き、父王も申し訳なさげに頷き返した。
「ッそれでは! 国王陛下の仰せにより、次の国王は『アルフレッド ノーマン』改め、『アルフレッド オブシディアン』とする!!
異議のある者は挙手を!!」
つい、クリストフ国王の言葉に茫然自失となってしまったが、このチャンスを逃してはならぬ! と、いち早く立ち直ったフォートナム公爵が素早く採決を取った。
当然、反対の者など居ない。
ただ、アルフレッド ノーマン公爵だけが、兄王を信じられないという顔で見ていた。
そして、兄王と弟は目が合う。
『…それで、本当によろしかったのですか? 兄上』
『…よいのだ。初めから、こうなる運命。お前が王になるべきだったのだ』
何故か、兄弟にはお互いの気持ちが分かった。…初めて、彼ら兄弟は通じ合えたのかもしれない。
…そして、お互い頷いた。
「それでは! 異議なしと見て、次代の国王は『アルフレッド オブシディアン国王陛下』と相成った!!
戴冠の儀など、詳しくは各大臣で協議することとする!
…アルフレッド新国王陛下。どうぞ、皆にお言葉をおかけください」
最後は感動と喜びで、少し声が震えるフォートナム公爵だった。
『…本当は、私の役目は終わっていたのだがな……。
しかし兄上に託され、皆にここまで望んでもらったとなれば……。まだまだ、私の果たすべきことは終わらない、という事か……』
アルフレッドは目を瞑り、深く、長く息を吐き……、そして目を開きその金の瞳で会議の間、全体を見渡した。
「兄上より、大役を仰せつかった。
私アルフレッド ノーマン改め、アルフレッド オブシディアンは、この国の王となり、国の為、そして未来の為に、私の身命を賭して尽くしていくことを誓おう!!
勿論、私1人の力で出来ることではない。皆の力が必要だ! 皆の力を私に貸してくれ! 力を合わせ、素晴らしき国を作っていこう!!」
「「「御意!!」」」
この部屋にいる全ての者の心が、一つになった瞬間だった。
~~~~~
会議後、大臣や貴族達に祝いの飲み物が出され、新国王の誕生を祝う中――。
その喜ばしい賑やかな雰囲気のその部屋を、主要メンバーの1人であるワーグナー侯爵が抜け出した。
「…まさか帰るのか? どうしたのだ? このよき日にアルフレッド様至上主義のお前が?」
後ろから、少しほろ酔い気味のフォートナム公爵に声を掛けられた。
「…はい。今日はお暇させていただきます。…義兄上。昨夜、妻が……マーガレットが倒れたのです!」
「マーガレットが……⁉︎ 彼女は体調を崩していたのか? 昨日もどこかで『ワーグナーシステム』の講演をしていたように聞いていたが……」
マーガレットの兄であるフォートナム公爵は驚き、顔色を変えた。
「マーガレットは、昨日の……リリアンヌ嬢の話を聞いて倒れたのです。
彼女があのように、冷静さを失い泣き崩れるところを私は初めて見ました……。私は、彼女とリリアンヌ嬢との関係を軽く見ていたのかもしれない……。
今日はお暇させていただきます。少しでもマーガレットの側にいたいので……」
いつも勇ましいワーグナー侯爵が、今は迷子の子供のように感じられた。
それ程に妹を愛してくれている侯爵に感謝するとともに、あの妹をそこまでさせたリリアンヌ嬢に更に感心するフォートナム公爵であった。
「そうか……。あとは上手くやっておくから、マーガレットの側にいてやってくれ」
ワーグナー侯爵は礼をとり、足早に去っていった。
フォートナム公爵は、ワーグナー侯爵の後ろ姿を見ながら妹マーガレットの心配をしつつ、王となったアルフレッドのこれからの歩みを思うのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
まさかの、国王のノーマン公爵への指名でした。




