70 判決
「――それでは、皆様、それでよろしいかな?」
「「「――はい。そのように」」」
王宮の会議の間。…国王の席が上座にある、壮麗な部屋。
だが、国王の席のその主人は目に力は無く、ただ座しているだけのように見えた。
そしてその隣には王妃の席。…今の王妃になってから、権力を失っていた彼女が座る事のなかった席。そして、とうとう永遠に彼女が座る事はなくなった。
上座の一角にはエドワルド王太子、その次にはノーマン公爵、フォートナム公爵、シュバリエ公爵が座していた。
そして宰相の席には一応、ピシュナー侯爵が座っている。彼がそこにまだ座っていられるのは、今回一応彼自身が犯罪などに直接関わっては居ない、と認められたからだった。
いつもなら彼が会議の司会をするのだが、当事者がするのはどうかという事で、本日の司会はフォートナム公爵がしている。…それだけ重要な内容、ということでもある。
今回は、昨日行われた学園の卒業パーティーで明らかになった罪の裁定をするのである。
通常、犯罪は裁判で裁かれるものだが、本人達が認めていること、周囲もそれを事実と分かっていること、そして何より、王族達の犯罪という国の威信を揺るがす事態である為、一刻も早く事を収束させる必要がある。国内外に国の不安定要素を少しでも見せない為に、急遽国の重鎮と主要な貴族達が召集されて早急に裁定されることとなったのだった。
そしてこの会議で、王妃は侯爵令嬢殺害、国の秩序を乱し、国王を唆し国を危機に陥れた罪で、毒杯を飲む事が決まった。
第2王子ルーカスは横領罪、公爵家乗っ取り未遂、権力を振りかざし王家の権威を失墜させた罪で、王位継承権剥奪、犯罪労働者として横領した分を返していく事を義務付けられた。勿論、王家の血筋を狙われ利用されては困るので、然るべき領地での監視付きの労働となる。
これはある意味温情で、これから働いてお金を稼ぐ事を覚え、色んな人々と関わる事で若い青年がいつか更生して欲しい、という願いでもあった。
そして第2王子の側近達は、諌めて止めるべき主人を止めず、更に一緒になって愚かな行動を取り増長させ、周りにも多大な迷惑をかけたという事で、多額の賠償金の支払いを命じられた。
まず、ピシュナー侯爵家次男は、侯爵家を勘当となり、分家で下働きをして侯爵家に賠償金を返却する事になった。勿論、分家で偉そうな態度やおかしな行動をすれば、すぐさま侯爵家に連絡が行き厳しく処罰される事となっている。
…そして、ピシュナー侯爵は王妃の弟、犯罪等には直接関与はしていないとしても、あらゆる場面であの王妃の横暴の協力者となっていた、とされた。ピシュナー侯爵は家督を嫡男に譲り、一部領地を国へ返納する事を命じられた。
ドリス伯爵家嫡男は廃嫡となり、弟が後継となった。伯爵家で今まで馬鹿にしていた弟の下に付き、伯爵家に賠償金の返済をしていくという。ドリス伯爵自身も要職を解かれ、ピシュナー侯爵の庇護もなくなり、今までのような派手な生活は出来ない。
第2騎士団長嫡男も廃嫡となった。そして、父は今回の事を恥じ、団長職を辞任した。賠償金も払った事から家の衰退は免れないだろう。しかし、嫡男の1歳下の弟が騎士団で修行中の為、もしかしたら盛り返す日も来るかもしれない。
側近3人も、主である第2王子の罪が軽いのでこの程度で済んだのだ。家としても王妃の味方をしていた3家は、取り潰しもあり得ると戦々恐々としていた為、この判決には涙を流して安堵した。
しかし、いずれの家も次に何かあれば議会を召集し、更に厳しい処罰をする、と定められた。
そして最後、第2王子や側近達をたぶらかし、シュバリエ公爵令嬢に冤罪をかけようとしたマリー嬢。
公爵令嬢にわざと冤罪をかけようとした事が明らかだった為、他の側近達よりも罪は重く、子爵家の爵位返上が決まった。
王子への温情から全体的に皆軽い罪となる中、悪意を持って冤罪を仕掛けた事からの決定だった。
パーティーの最後にはかなりおかしな事を口走っていたものの、牢に入って両親と話をしてからは驚く程大人しくなったのだそうだ。
ソドムス侯爵家はお咎めなし。そして、ラウラ嬢の死に関して王家より謝罪と賠償を受ける事となった。
一通り罪人の処罰が決まり、安堵からいったん騒つく会議の間。
そしてそんな中、フォートナム公爵は1つ息を吐いてから、会議の間に集まる重鎮達を見回した。
分かる者には、いよいよか、と緊張が走った。
「――それでは、次の議題に移る。
今回罪人を出したあのパーティーで、王妃殿下と第2王子殿下の大きな失言、犯罪行為などにより、王家の権威は大いに失墜する事となった。彼らを諌められなかったクリストフ陛下の責任は大きい。そして、あのパーティーでは、陛下自身の信用も大きく損なわれた。最早、クリストフ陛下にこの国を纏め、皆を率いていく求心力は皆無だと考える!
我ら忠臣は、この国の将来を案じ、新たな国王をたてる事を進言する!! 異論のある者は申し出よ!!」
フォートナム公爵の威厳ある声は会議の間に良く響いた。
「異論はございませぬ!」
「私もあのパーティーに参加しましたが、…あれではもう……! 皆の心は既に陛下から離れている!」
「完全に王妃殿下にいいように操られ、そして陛下自身も王家と貴族のありようを間違われておられた。あれでは国が成り立ちません!」
「パーティーに参加していた学生達も、愚かな王家に呆れた様子であった。これからの若い貴族達に見限られた陛下に未来はありませぬ!」
賛成意見ばかりが上がっていた。
フォートナム公爵は、会議の間を見渡し頷いた。
「それでは、特に反対意見等はないようですな。
…陛下、何か仰りたい事があれば、ご発言願います」
「…何も。何も申すことはない」
これだけたくさんの自分の退位を願う意見を目の前で出され、そして自分でも今までの愚かな行いを恥じている王は、今更言い訳することも愚かなことだと、やっと理解することができていた。
「…分かりました。
それでは、内容が内容だけに、皆の採決を取る事とする!
クリストフ陛下にご退位を願う事に、賛成の者は挙手を願おう!」
ザッ!
まるで音が聞こえるかのように、一斉に皆が手を挙げた。全会一致。気持ち良い程の結果であった。
「…それでは、全会一致でクリストフ陛下には退位を進言する事と決まった!!
…陛下、よろしいですか」
クリストフ王は、…静かに頷いた。
会議に出席した者は、王のいつに無い殊勝な態度に、少ししんみりとするのだった。
そして、気を取り直すようにフォートナム公爵が言った。
「…そして次は、新しい国王にどなたにたっていただくか、という事だ」
シンッ……。一瞬静まった会議の間であるが、次の瞬間次々と声があがる。
「! それはもう、お1人しか思い付きません!」
「勿論、エドワルド王太子も素晴らしい方であるのだが……、今のこの状況を払拭できるのは、もうあの方しかいらっしゃらない!」
「此度、再び王家の信頼は落ちてしまった。皆の信頼を取り戻し、この苦難を乗り越える為には……!」
皆が公爵の席に座る、ノーマン公爵を見ている。…ノーマン公爵は腕を組み目を閉じ、少し難しい表情をしていた。
「アルフレッド ノーマン公爵閣下! 私共は次の国王に貴方様が成られることを望んでおります!」
大臣の1人が、そう呼びかけた。
皆がノーマン公爵に注目する中、静かに彼は目を開き片手を挙げた。
「フォートナム公爵。発言の許可を」
フォートナム公爵は少し緊張しながらも「許可いたします」と答える。
「…まず、此度のこと、王家の一員として皆に謝罪する。
そして、皆が望む国王であるが……。私は王太子エドワルドを推したい。彼は立派に国王としてやり遂げると信じている。私はその彼を支えていければ、と思う」
会議の間に、あぁ、これは14年前の流れだ……! との嘆きの雰囲気が流れる。
「私も発言の許可を」
王太子エドワルドがフォートナム公爵を見、公爵は素早く許可する。
「私エドワルド オブシディアンは、王太子の座を降り、アルフレッド ノーマン公爵を国王に推したいと思います」
おぉっ……!
会議の間が少し期待したように騒めく。
「…それでは、現在の国王であられる、クリストフ陛下にご指名いただきましょう」
ノーマン公爵がそう発言すると、会議の間の殆どの者は「やられた!」と思った。
お読みいただき、ありがとうございます。
この世界での処罰は、犯した罪がそのまま返ってくるようです。
そしてノーマン公爵は兄王に次代の王の決定権を渡せば、そのまま王位はエドワルド王太子にいく、と分かっていてあのように言いました。




