69 慟哭
「リリアンヌ嬢は、自分はマティアスの婚約者であり、彼らは自分の知る限り2人で会ってはいないし、自分は裏切られてもいない。…そう証言してくれた」
ハロルドが話す言葉に、感動し嬉しくなる。
「あぁ……、やはり、リリアンヌね! あの娘はそんな王族がいる様な場でも臆さず、正義を貫ける、…そんな心の真っ直ぐな子なのよ! やはり、私のリリアンヌだわ!」
私はリリアンヌが誇らしく、喜びの声を上げた。
――しかし、2人の表情は冴えない。
「そしてリリアンヌ嬢は……。マティアスとカタリーナ嬢は、婚約寸前の恋人だったと。王家に2人の婚約を届ける直前に、王家から第2王子殿下との婚約の正式な使者が来た為に、引き裂かれた恋人だったと……。そう証言し、広間中の人々の気持ちを一気に我等に持って来てくれたのだ。そこから、広間中の者から陛下は批判され、最早陛下の力はなくなり……」
「…待って。どういう事? …リリアンヌは、マティアスとカタリーナ嬢の事を、知っていたの? そして、彼らの婚約出来なかった経緯までを、どうして知っているの……⁉︎」
私は、混乱していた。…どうしてリリアンヌは知っていたの? もしも誰かから聞いたとしても、何故私にはそんな素振りを見せなかったの? そして……。
「母上。彼女は、リリアンヌは知ってしまったのです。私がカタリーナを愛している事を。
…私は、カタリーナと別れ何年経っても彼女を忘れられなかった。リリアンヌと共に出席した夜会で、…私がカタリーナを見つめている事に、彼女は気付いてしまったのです。
2ヶ月程前、リリアンヌは私に問うてきました。他に好きな方がいるのか、と……。私は……。私は彼女に隠しているのも申し訳なく、長年の想い人がいる事を告げたのです……。そこで、彼女は倒れてしまいました……」
! 私は思い出す。
「あの時……、あの時なの!! あの時から……、あの子は苦しんでいたというの……! マティアス、貴方! 貴方どうして……!
そんな事は、一生黙っているべきなのよ! 隠しているのが申し訳ない? それは、貴方が苦しいからだけでしょう! そんなものは、ただの貴方の自己満足なのよ!」
…私は……。今、生まれて初めてこんなに理性を失っているのかもしれない。こんなに感情が爆発するなんて、初めてかもしれない。あの王妃に色々な事をされた時だって、「馬鹿らしい」位にしか思わなかった!!
それが、我が息子にこれほどの怒りを感じるなんて!!
「マーガレット。落ち着きなさい。…嘘をつくのも彼女に悪いと思ったのだろう。そして、嘘をつかれた方が悲しい場合もある。…どちらが正しいのかは、分からないものだよ」
ハロルドが怒り狂う私を宥めてくる。
でも、ダメだわ。こんな悲しみは知らない!
「母上。申し訳ございません……!
…リリアンヌはそれから暫く寝込んだ後、私の元を訪ねて来てくれました。その時……彼女から言ってくれたのです。
『学園で、第2王子殿下と恋仲と噂されている子爵令嬢の話を聞いてしまった。彼女はカタリーナ嬢に冤罪を仕掛け、卒業パーティーで第2王子殿下に婚約破棄の宣言をさせようとしている』と……。『このままではカタリーナ嬢が不幸になってしまう。そして結局は自分達3人は不幸になる。ならば、王子のする婚約破棄を利用して、彼女を王家から解放させよう』…そう言ってくれたのです。
私は目から鱗でした。彼らがしようとしている事に怒りはありましたが、まさかそのような方法で彼女を解放させる術があったとは……!」
私は、自分とカタリーナの未来ばかりを見ている我が息子に、怒りを覚えた。
「ほらご覧なさい! 貴方は、自分達の事ばかり! その時、リリアンヌがどんな気持ちだったかきちんと考えたの⁉︎ 彼女がどんな思いで、貴方に協力を申し出たのか……!」
リリアンヌは、あの子は婚約者の裏切りと、そしてその相手の婚約者である第2王子殿下の裏切りの情報を知った事で、更に悩んだに違いない。
そして、婚約者の恋が叶う可能性があると、その事実を自分が知っているのにそれを隠す事が出来なかったのだわ。
「本当に、本当になんて子なの……。リリアンヌ……」
私は、涙を流していた。こんな、感情で泣くなんていつぶりだろう? …思い出せない位、遠い昔だわ。
そんな私の涙を見て、2人は驚いていた。そしてハロルドは、私の肩を引き寄せ、抱きしめながら言った。
「…話はまだあるのだ。卒業パーティーでマティアス達の浮気の事実はないと証明し、彼らが婚約寸前に王家に邪魔された事も明かした彼女はその後、皆の前でマティアスに婚約の解消を申し出たのだ。…そして、カタリーナ嬢の手を取り、マティアスの元まで連れて行った。お幸せになってください、と、広間中の皆に彼らの祝福をする様にお願いまでして」
私は、もう涙を止める事ができなかった……。息子の母としては『感謝』であるけれど、リリアンヌを本当に娘と思っていた自分にとっては、立派な娘を誇りに思いつつ、余りに哀れで悲し過ぎた。
「母上。…今朝、パーティー前にここに寄ったのは、リリアンヌのたっての願いでした。貴女に、最後に娘として会いたかったから、と……。ドレスも、貴女からだと分かっていましたよ。御礼も言いたいから、と……。
そして母上。リリアンヌがよく持ってきたあのクッキー。何か、覚えはありませんか?」
「私に会いに……? …リリアンヌも私のことを、本当の母のように、思ってくれていたのかしら……?」
私は涙が止まらない状態で答える。マティアスは頷く。
「それと……。リリアンヌのよくくれたクッキー? そうよ、私は昔からあの味が好きで……。特にあの、隠し味の効いたリノ特製の………? 」
『リノ』?
私は、自分でよくわからない言葉が出て来たことに驚く。…いえ、私は昔から何か不思議なことを思い付く事があった。
そして……。
『ありがとう、真奈』
あの時の、パーティーに行く時の別れ際のリリアンヌの言葉。
そうだわ、あの時から何か引っかかっていた。
そう、何かが――。
「!! マーガレット⁉︎ どうしたんだい? マーガレット! 」
私は、意識が暗転したのだった……。
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