68 胸騒ぎ
「マーガレット様。どうやら王宮で騒ぎがあったようでございますわ」
私がワーグナーシステムの講演を終え、お茶をいただき和やかに歓談していると、この屋敷の伯爵夫人が先程来た早馬の知らせを教えてくれた。
「王宮で騒ぎ……? それはどのような? 今日は王宮にて王立学園の卒業パーティーがあるはずなのだけれど」
「…それが、そのパーティーで事が起こったらしいのです。詳細は分かりませんが、何やら第2王子殿下と王妃殿下が騒ぎを起こし、結果2人は罪を犯したとして捕らえられ、陛下も失脚した、との事でございます」
「!!」
何ですって⁉︎ そのような国を揺るがすような事態が何故学生のパーティーで起こっているの⁉︎
そして、あの子達は……。リリアンヌは大丈夫なの⁉︎
「…それは、国を揺るがす一大事ですわね。私も、夫である侯爵に確認をとりましょう。そして人の口とは怖いもの、すぐに広がってしまうのでしょうけれど、出来る限り皆に緘口令を。おかしな方向に話が流れては困りますからね」
私は努めて冷静に、この伯爵家夫人に言った。
「はい。畏まりましてございます。ワーグナー侯爵夫人」
…そうは言っても、噂はすぐに広まるだろう。情報を整理し出すべき情報を早く世間に発表しなければならない。我が家もすぐに対策を打たねば……。そして、早急にあの子達の安全を確かめなければならないわ!
マーガレットはパーティーに行った、リリアンヌとマティアス、ダニエルの事を思った。
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「貴方……!! 遅いではありませんか! 此度の事、キチンと説明してくださいませ! マティアスもダニエルも、貴方が帰らないとまだ話せないと申して、話にならないのですよ!!」
その日の夜遅くに帰った夫ハロルドに私は詰め寄った。
「そうか、遅くなって済まない。何せ国の一大事であったのだ。他の大臣達との話が長引いてね……」
外では軍人らしい物言いをする夫は、私にはとても紳士的に話す。そのギャップに萌えたのもあるのだけれど……。
「貴方。…どうせ、兄上でしょう? 陛下が失脚されたと聞きました。どうせあの『アルフレッド会』を開催して飲み明かしてこられたのでしょう? この一大事に!」
愛する妻からの鋭い指摘に、当たっているだけに戸惑うハロルドだった。
「とりあえず、ここでは……。私の、執務室に行こう。…マティアスを呼んでくれるかい?」
後半は執事に向かって言う。執事は「畏まりました」、と礼をして行った。
私達は執務室に行き、ハロルドから事の詳細を聞き始めていた。
「本当に、なんて事……。王子殿下ともあろう方がパーティーで婚約破棄を宣言し、王妃殿下もそれに同調するだなんて……」
事の始まりのあらましをハロルドから聞いた私は、本当に呆れの声しか出なかった。
気を落ち着ける為に用意された紅茶をいただいていると、ノックの音が聞こえ、マティアスが入室して来た。
「マティアス。…そこに、座りなさい。今陛下が入ってくるまでの話を説明したところだ」
マティアスは固い表情を見せた。…何故、この子がここでこんな顔をするのかしら?
「…マティアス。もしや、貴方この愚かな企みに、何か関与しているのではないでしょうね⁉︎」
「…そのような……! 第2王子殿下達の企みには関与しておりません!」
マティアスは表情を、更に固くし緊張した様子で答えた。
私が不審に思っていると、ハロルドが間に入ってきた。
「この件にマティアスは関係ないよ。そして、ここからだが……」
そして、王妃殿下のソドムス侯爵令嬢殺害容疑、第2王子殿下の公爵家乗っ取り未遂と横領、側近達が恐らく全てを知りながら一緒に罪を行なっていた件、子爵令嬢が悪意を持って公爵令嬢に冤罪を仕掛けた件を聞かされる。
「…もう、言葉もありませんわね。しかもそれは、学生達の卒業パーティーで起こったのですよね? 子供達が大人の世界を嫌にならないかしら……」
私は呆れのため息混じりに言った。
「まあ、彼らはもう学園を卒業しようという年齢だからね。ある意味ここで大人の汚さを知って、そうならないようにと気持ちを新たにするんじゃないかな?」
気楽なハロルドの言葉に、少し呆れつつ「まあそう思ってくれるといいわね……」と返しておく。
「そして陛下が失脚し、王家への不信から陛下の息子エドワルド王太子よりも国の英雄アルフレッド様を次の王に、という流れとなったという訳ね。
…それを、どうして貴方は私に話せなかったの? マティアス」
そう、こんな話なら、いい大人のマティアスならそのまま私に話せばいい事だわ。…まだ、何か続きがあるのね?
すると、ハロルドとマティアスは顔を見合わせた。マティアスは、かなり困り顔をしながら。
ハロルドがマティアスに頷き、話し出した。
「…私から話そう。その際、王妃殿下がマティアスを見て、マティアスとカタリーナ嬢は昔恋人同士だった、2人は浮気をしている。だから自暴自棄になって第2王子が婚約破棄などをしてしまったのだ、と言い出してね」
私は、あの女狐の様な青い瞳栗色の髪の王妃を思い出した。本当に、振り払っても振り払っても、どこまでも粘着質に私にこだわり何かを仕掛けてくる。
またしても、あの女なの! 罪に問われても、最後まで何か仕掛けないと気が済まないのね。
私の顔色が変わったのを見ながら、ハロルドは遠慮がちに話を続ける。
「その場は、一気に第2王子殿下に同情的になり、周りの者はマティアスとカタリーナ嬢に疑惑の目を向けた。アルフレッド様が諌めても、皆の疑惑の心までは拭えない。
…そんな時、彼女が声をあげたのだ。…リリアンヌ嬢が」
「…リリアンヌ、が?」
確かに、あの正義感が強く権力に屈しない心を持ったリリアンヌなら、その場で出てもおかしくはない。けれど、マティアスの昔の恋人の話を聞いて、リリアンヌは一体どう思っただろう……?
…でも、なに? この、胸騒ぎは……。何か……、何か嫌な予感がする……。
私はこの不安を落ち着かせようと、自分の腕を強く掴んで話の続きを待った。
お読みいただき、ありがとうございます!
侯爵家でマティアスとダニエルの無事を確かめると、すぐリリアンヌの心配をし出すマーガレットを見て、コレは絶対自分達だけで今日の話をするのは危険(?)だ! と察した2人は、父ハロルドの帰りを待つ事に決めました…。




