63 傷物令嬢の誇り
「リリアンヌ様……」
カタリーナ様のその大きな瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。
「…リリアンヌ……。貴女は、貴女という方は……」
マティアス様も、そのエメラルドグリーンの瞳は潤んでいるように見えた。
「お2人とも、ご覧になるべきは私の顔ではありませんわ。どうか、お互いをご覧になってくださいませ。…久しぶりの邂逅なのですから」
お2人は、ゆっくりと視線をお互いに移された。…そして、見つめ合う。
この数年間の、言葉にならないたくさんの想いが、溢れていらっしゃるようだった。…これは、独り者には目に毒だわね。
私は、ゆっくりと2人から離れた。
「皆様、本当に愛し合う者同士が一緒にいられる事のこの幸せを、どうか祝ってあげてくださいませ……!」
私は、手を叩く。
周りも段々と手を叩き始め、王宮の大広間中に響く大きな拍手となったのだった。
「マティアス殿、カタリーナ様、おめでとうございます!」
「本当に良かった……! 愛し合うお2人が一緒になられて……!」
「やはり、愛とは偉大ですな!」
広間中の方々が、お2人を祝福した。感動して泣かれている方もたくさんいらっしゃった。
マティアス様とカタリーナ様も、少しはにかみながらも微笑まれ、そして涙されていた。
広間中が盛り上がる中……。
私は1人、広間を出た。
…1人、広間を出た廊下を歩いていると。
「リリアンヌ」
後ろから声をかけられる。
「サリア……」
私の幼馴染、サリアだった。
「リリアンヌが言っていた『隠し事』は、この事だったのね……。…リリアンヌ?」
私は振り向かない。…振り向けない。だって……。
「リリアンヌ……? !!」
私の横に来て、私の顔を見たサリアは一瞬押し黙った。
「…馬鹿ね、リリアンヌ。…貴女、マティアス様の事を好きだったのでしょう? …本当に、馬鹿、なんだから……」
私は、涙が溢れて溢れて、止まらなくなっていたのだ。
「ふぇ……っ。…だから、サリアは馬鹿だって思うって……、そう言ったでしょう? うぅ……」
サリアは私を抱きしめて言った。
「うん……。本当に、馬鹿……。でも私は……、そんな馬鹿なリリアンヌが、大好きだからね……」
サリアの馬鹿。そんな事、言われたら……。
「う……、うぅ……っ! ふぇー……っ」
私はまさかの、ギャン泣きをしてしまったのだった。
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王宮の大広間、本来は王立学園の卒業パーティーの会場だったはずのこの場所は、今や王家に引き裂かれた恋人達の恋の成就と、…その元婚約者の健気な行動に、皆、涙していた。
元々第2王子ルーカスが仕掛けた婚約破棄から始まったこの騒動は、王妃と第2王子、その側近と子爵令嬢が罪に問われ、そして国王までもが失脚確定な異常事態となった。
この私、アルフレッド ノーマンを国王にとの声が上がっているのは頭が痛いが……。
だが何より、リリアンヌ カールトン伯爵令嬢。
彼女の行動により、あのような事があったというのに、この場はある意味大団円となった。勿論罪を犯した者達は別だが。
あの場面で彼女、リリアンヌが出てくるとは思わなかった。カタリーナ嬢が責められる場面では、彼女の正義感からしてもしやと思っていたので、腹心の部下であるナタリーを付けてはいたのだが。
そして彼女は見事にこの広間にいる者全てを、こちら側の味方につけたのだ。あのままでは、皆の心にマティアスとカタリーナ嬢に対する不信が残ったであろう。
皆が、苦難を乗り越えて手を取り合えた恋人達を祝う中、広間の外に出て行ったリリアンヌ。
その後、聞こえてきた彼女の泣き声。恐らく、この会場にいる殆どの者が気付いただろう。
そして、殆どの者が、その健気さに涙しているのだ……。
…私は本当は、彼女リリアンヌを追いかけて抱きしめたかった。この騒動後彼女の気持ちを保っていた線が切れ、一気に悲しみが押し寄せるだろうことは分かっていたのに。…しかし今、捕らえられた王族と力を無くした国王を置いて、この場を離れる訳にはいかない。
幸い、彼女の友人が追いかけたようなので、部下に目配せをし彼女を陰から守る様指示をした。
そして……。
「皆の者! このアルフレッド ノーマンからの頼みを聞いてくれ! この度のあの健気な令嬢、リリアンヌ カールトン。彼女を決して傷付けないでやって欲しいのだ……! 婚約破棄というものは、理由はともかく女性側に不利に言われるものだ……。だが、私はリリアンヌ嬢の事を、誇り高く心の美しい女性だと尊敬する!!
これより、私アルフレッド ノーマンは公爵として、彼女を守り、保護していくことを宣言する!」
私は、リリアンヌ嬢をこれ以上傷付けたくない、傷付けさせない! そう強く思い、その一心で宣言した。
広間の者達は少し驚きを見せた。だが、そこには私に同調してくれる者もいた。
「恐れながら、我がシュバリエ公爵家も、受けた恩義をお返しする為にも、心優しきリリアンヌ カールトン伯爵令嬢を共に守っていくと誓います!」
シュバリエ公爵を見ると、彼は大きく私に頷いた。私も彼に頷き返す。
「私も誓いますぞ! 我がワーグナー侯爵家も、当然リリアンヌ カールトン伯爵令嬢を守り抜くと誓います! 今回我が家は彼女に大変な重荷を背負わせてしまった……。ですがこれからは誰にも彼女を傷付けさせませぬ!」
ワーグナー侯爵も力強く申し出てくれた。彼とも感謝の気持ちで頷き合う。
「恐れながら、私も此度の事、大変感動いたしました。我がフォートナム公爵家もリリアンヌ嬢を守ると誓います!」
「当然、我がソドムス侯爵家もです。リリアンヌ嬢をお守りするとお誓いします!」
そして、他の貴族達も次々に彼女を守ると誓い、称えるのだった。
この国の、3大公爵家、そして侯爵家の筆頭とも言えるワーグナー侯爵家、そしてソドムス侯爵家が1人の伯爵令嬢の保護をすると公言した。ある意味、彼女に敵う女性はこの国には居ない事になるだろう。
それは、心強い事ではあるのだが、反対に危険も秘めている。力を持つからこそ反対勢力から狙われたり、そして多方面から結婚相手として狙いをつけられる可能性もある。
これは、心してかからねば……。
私は、もう決めている。…この騒ぎがひと段落ついたなら、彼女に愛を告げる事を。
それまで彼女を守る為に、今以上に警護をつけねば……。そして、カールトン伯爵にも話を通しておかねばならない。
本当はそちらを最優先したいのだが、いかんせん国の一大事だ。国王陛下は力も信用も無くした。王妃と第2王子も罪を犯し、その罪は白日の元に晒されている。少しでも早くそれぞれの刑を確定して、貴族達の気持ちを収め改めて心を一つにしなければならない。このまま放置すれば皆の気持ちが離れ国が乱れるだろう。一刻も早く、体制を立て直さなければならない。
私は深く、息を吐いた。
少しでも早く国を安定させる! 彼女に愛を告げる為に!!
今までになく真剣に、私はやる気を漲らせるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
リリアンヌを、本当は一緒に居て慰めたかった、ノーマン公爵でした…。




