64 パーティーの終わり
「…どうしてだ?」
感動の嵐が吹きあれる広間に、不釣り合いな怒りの声が響く。
皆、何事かと声のする方を見ると、罪に問われ衛兵に拘束された王妃だった。
「…自分が婚約者だと、他の女になど渡さないと、そう主張すれば良いではないか……! 何故、あの者は……、あのように、恋敵にまでご親切にもお膳立てなどしてやっているのだ……? あのまま放っておけば、あの2人は婚約など出来なかった。…出来たとしても、周りの悪評に苦しみ続ける事になったであろう。自分を選ばなかった、裏切った婚約者など地獄の苦しみに合わせてやれば良いのに! 何故……、あの者は……」
王妃は、自分ではあり得ない、信じられない事をしたリリアンヌを見て、呆然としているようだった。
「…そうですね。誰にでも出来る事ではありません。それでも彼女はそうした。自分の思いよりも他人の思いを優先した」
息子であるエドワルドが答える。
「…彼女は2人の不幸など、望んではいなかったのであろう。
…彼女は、自分に与えられた場所や条件で輝ける人だ。そしてそれを、周りにも分け与える事が出来る。
彼女は周りも自分も幸せになる道を探して、もがいているのだと……、そう思う」
ノーマン公爵は、リリアンヌの事を思いながら、そう答えた。
エドワルドはそんなノーマン公爵の様子に、おや、と思う。
「与えられた条件⁉︎ 伯爵令嬢如きが、輝けるはずなどないではないか! そしてせっかく侯爵家嫡男を婚約者に出来ていたのに、それを自ら解消するなど……!」
それでも納得出来ない、そんな事はあり得ない、そう言う王妃にエドワルドが言った。
「それでも、確かに彼女は自らの意志で、我らの目の前でそうしたのですよ。…我ら王家にもそれだけの他を思いやれる心があれば……。元王女や陛下やルーカス、そして王妃殿下…貴女も、このような事にはなっていなかったのでしょうね……」
本当に残念な事です、とエドワルドは王妃を見てそう言った。
王妃はそれを聞き……、そして涙を流した。
「あの時の私に、あのような考えが出来ていたら……」
そう呟きながら。
そしてそれを、国王や第2王子も呆然と見ていたのだった……。
そうして罪を犯した者達は連れて行かれ、その後卒業パーティーは無事開催された。
ノーマン公爵は、王家の犯した罪と、卒業パーティーで事件が起こり騒ぎになったことを謝罪し、そして改めて彼らの卒業を祝った。
そのまま大臣クラスの貴族達も一部残り、マティアスとカタリーナを祝いながら、和やかに、そして少し微妙な雰囲気も残しつつも、無事パーティーは終了したのだった。
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広間を出た廊下の端で、数分経っても。
リリアンヌは幼馴染の私サリアに抱きつき、泣き続けていた。
「…失礼いたします。もしよろしければ、お部屋をご用意致しましたので、そちらをご利用になられてはいかがでしょうか……?」
この人は、さっきからリリアンヌに甲斐甲斐しくお菓子のお世話をしてた女官よね。正義感が強くて王族がいるような場面でも前に出ていこうとするリリアンヌを、引き留めてくれてたのよね……。
信用に足る、人だわ。
「…ありがとう。ここは人目に付きやすいし、そのお部屋でお世話になるわ。…リリアンヌ、ちょっと移動しよう?」
「うぅ…っ。うん…っ。うぇ……っ」
私はリリアンヌの肩をそっと撫でる。…大丈夫、大丈夫だからね。
…ここまで弱っているリリアンヌを見るのは初めてかもしれない。どんな事があってもいつも気丈に立ち向かっていたから……。あぁ、泣くのを見るのは私の婚約者が流行病で亡くなって、一緒に泣いてくれた、あの時以来かしら。
幼い時から一緒で知らない事はない位だったけれど、リリアンヌに婚約者が出来て暫くしたら、なんだか私に秘密が出来たようだった。
そりゃ、婚約者が出来たら女友達なんてそんなものなのね……、と分かったフリをしていたけれど、やはり少し寂しかった。
『他の方の人生に関わる事だからサリアでも言えない』、余りに色々怪しくて、聞いてみた私にリリアンヌが言った言葉。
そりゃ、言えないわね……。
事実を知った今なら思うわ。
でもそういう事を、親友の私にもちゃんと秘密にしておけるところが、リリアンヌよね……。親友としては少し寂しくもあるけれど、私の事も絶対他で話さないと信用できるわ。
そして、貴族の休憩用だろう部屋に案内される。
部屋の応接セットの長椅子に2人で座り、泣き続けるリリアンヌの背中を撫でていると、ノックされる。
「サリア様、今、よろしいでしょうか?」
入って来たのは先程部屋に案内してくれた女官。そしてその手に押されたカートには……、『スイーツ』。
はぁ……。よく分かってるわね……。
「リリアンヌ様。先程ご覧になられていた『スイーツ』をお持ちしました。なんでもウォード領産のオレンジのデザートだとか……。他にも色々ございますよ」
ピクッ。
リリアンヌが反応したのが分かった。
「リリアンヌ? 大丈夫? …無理なら下げてもらおうか?」
少し、意地悪をしてみる。
「…ぅうーっ。…た、食べる……っ」
ほら、これでこそリリアンヌよね。
そして、リリアンヌの顔を温めたおしぼりで軽く拭いてから、2人で美味しくスイーツをいただいたのだった……。本当に良く気のつく女官だわ。
あら、本当に美味しいわね?
それから何とか元に戻ったリリアンヌと私はモーガン家の馬車に乗り、彼女の家まで送って行った。伯爵への説明の時に一緒に居ようか? と言ったけれど、大丈夫! と返された。そして……ありがとう、と……。
そうして、長かった1日は終わった。
長期休みは私のモーガン領に遊びに来る約束をして。
…早く、リリアンヌが心から元気になれますように。そう本当に心から願った。
そうして、屋敷に帰ってから不意に思い出す。
………そういえば、今日エスコートを頼んだ従兄弟は、あれからどうしたかしら……?
すっかり、忘れてたわ!
お読みいただき、ありがとうございます!
サリアの従兄弟はサリア達2人の様子を見て理解していたので、パーティーを楽しんで帰りました。
後日サリアが謝りに行くと、「あんな歴史的な場面に立ち会えて良かったよ!」と、反対に御礼を言われてしまいました。




