60 謝罪
王は、この広間全体を見渡した。…1人1人の顔を見るように。
「…まずは、皆に謝りたい。
この国の王である私クリストフ オブシディアンは、大きな、とても大きな間違いを犯した。
先代国王より叔母であるシュバリエ公爵家に嫁いだ王女の話は嫌と言うほど聞いていたというのに。
王族は何の為に存在するのか。王族は国の貴族や民の庇護者であるべき、と……。
そうであるのに、『元王女』以上の愚かで傲慢な罪を犯してしまった。その事を、どうか謝らせて欲しい……」
王は、絞り出すような、それでいて低く響く声で仰った。…が……。
「…何を、今更仰っているのか? 今回の王妃と第2王子の発言が、今の王家を表す全てではないのか⁉︎」
「そうだ! 都合が悪くなれば我々に罪を被せ、自分達の思い通りにしようと考えている事が、今回よおく分かったわ!」
「我らの言う事は、『ゴミと一緒』なのでありましょう? 王子の発言だが、最近の王の発言はこれに近いものがあった。結局王家の本音はそんなものなのだろう!」
「そして、どうしても都合が悪ければ、毒を盛られるのだ!」
王の発言に、たくさんの貴族から異論が溢れ出た。
確かに先程の王妃と第2王子の発言が酷すぎて、口先だけの謝罪では収まりがつきそうもないわ。
「我らは、もう王家を頼りにしない! 王家は我らを守るどころかゴミと一緒、都合よく使ったり切り捨てていい存在だと思っているのだからな!!」
「「「そうだ! 王家はもう信用ならない!」」」
先程までの王妃と第2王子への怒りと今までの王家への不満が、皆の中で爆発してしまったようだった。
今になって、王妃と第2王子はその彼等の様子を、捕らえられながらも怯えた表情で見ていた。側近達やマリー嬢も、彼等を捕らえる衛兵達も叫んでいるので、何かをされるかと恐怖に慄いているようだ。
怒りを爆発させる広間の貴族達。衛兵や女官達でも興奮している者達がいる。ナタリーは……。この興奮した人達に巻き込まれないよう、私を守るように前に立ってくれている。
…でも、このままではまずいわ。下手をしたら、クーデターや今の王も捕らえられてしまいそう……。そうなったら、もう収拾がつかないわ。
「皆の者、皆の怒りはもっともだ! だが、もう一度我らを信じて欲しい……! このような事はもう決して起こさないと約束する……!」
王は叫ぶけれど、人々の心に響かない。むしろ、人々はもっと興奮してきているようだった。
…そこに、ノーマン公爵が静かに王の前に進み出た。そして、その金の瞳でゆっくりと広間全体を見渡す。
人々はそれに気付き息を呑んだ。口を閉じ、ノーマン公爵をじっと見つめた。広間は、また静寂に包まれた。
「…皆の怒りは分かる。このような、国の成り立ちのなんたるか、貴族や王制というものの制度の根幹を揺るがす事態。皆には色んな意見や不満、そしてこれからに対する不安があるだろう」
皆、ノーマン公爵の話をじっと聞いている。
「今回、罰するべき者は厳しく罰すると誓おう。
…特に、ソドムス侯爵令嬢殺害の嫌疑がかかっている王妃。穏便な処置には決してしない。
そして、これからこのような事がないように、しっかりと体制を整える。そこに、色んな立場の者達を選出し、その者たちの意見も取り入れて議論していく。勿論、また緩みが出ないように監視体制も整えていこう」
ゆっくりと周りを、1人1人を見るように語りかけていくノーマン公爵。広間の人々は、その公爵の語りに引き込まれていく。
一部の人は頷きまた一部の人は涙ぐみ、皆がノーマン公爵に心酔するかのように見ていた。
…勿論、私も。やっぱりカリスマというか、そういうのを天性に持ってる方っていらっしゃるのよね……。勿論たくさんの御苦労をされて来た賜物ともいえるのだろうけれど。
その、なんだか感動に近い思いで皆がノーマン公爵を見ている中、誰かが呟いた。
「…アルフレッド国王、万歳……!」
それは、広間にいる皆に聞こえるか聞こえないか位の声だったのだけれど。
「万歳……。アルフレッド国王陛下、万歳!」
皆が口々に言い出す。そしてそれは、大きなうねりのように広間中に広がった。
「「「万歳!! アルフレッド国王陛下!! 」」」
「この時を、待ち侘びておりました!」
「そうだ! 14年前、戦争を勝利に導いてくださったあの時から、この時を待っていたのだ!」
「国の英雄! 我らがアルフレッド様! どうか今度こそ我らが王に!!」
この広間中、大人の貴族や大臣クラスの貴族達、戦後直後のノーマン公爵の英雄振りを知らない学生達さえも、そして衛兵や女官達も、皆が口々にノーマン公爵を王にと叫び出している。
私だって、そうだわ。ノーマン公爵の人となりを知った人は、彼を尊敬せずにはいられない。そして今までの彼の活動を知れば、誰もが彼こそが王になるべき者だと思うだろう。
私も、嬉しくなってつい周りと同じように彼を称えて声を出す。すると、ナタリーがそんな私を見てとても嬉しそうに笑顔になった。多分、ナタリーはノーマン公爵の配下の方よね。やはり自分の主が称えられるのは誇らしいのね。
「皆の者、待つのだ! …我らには、これからの王家にはエドワルドという頼もしい若者がいる。彼ならば、この国を良い方向に導いてくれるだろう」
ノーマン公爵はそう言って、エドワルド王太子を自分の前に立たせようとした。…けれども、エドワルド王太子はそれをはっきりと断り、そして言った。
「アルフレッド様。…私も、ずっと幼き頃からアルフレッド様こそが国王として相応しい、そう思って育ってきました。そして、今こそその時。
…アルフレッド兄様、どうか、王にお成りください」
エドワルド王太子は、とても清々しいお顔で仰っていた。迷いも何もなく、彼は真っ直ぐにノーマン公爵の瞳を見ていた。きっと本当に、ずっとノーマン公爵に王になって欲しいと思われていたのだろう。
ノーマン公爵が初めて動揺したお顔をされた。
「…私は、お前が王に相応しい者に育っている事を、ずっと誇りに思っていたよ。これからのこの王家に必要な者だと思っている」
ノーマン公爵にとっては寝耳に水で、そして公爵は本当にエドワルド王太子が導く王家を守っていくおつもりだったのだろう。
けれどもそれは、エドワルド王太子にとっても譲れない事のようだった。
「私はいつか、アルフレッド兄様に王位をお返ししようと思っておりました。…父王はご自分の系統に王位を継続させる事に拘っておられるようだったので、タイミングを見計らっておりましたが……。
そして、今こそその時! そして誰よりも貴方が王に相応しい! 皆も、そう思うであろう!!」
最後は、広間にいる全ての人に向けて仰った。
空気が、熱気が一気にあがったのが分かった。
「そうだ! 王はアルフレッド様だ!」
「誰よりもアルフレッド様が王に相応しい!!」
「今こそ、ご即位ください!」
「アルフレッド国王陛下!!」
そうこの時、広間中の人々の心が一つになり、先程までの王家への不信は払拭され、ノーマン公爵を王にとの声になったのだった。
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