54 婚約破棄
「婚約破棄をお受けいたします」
カタリーナ様のお言葉は、静まり返った王宮の大広間に響いた。
やった……!! これで、カタリーナ様が自由になり、マティアス様と……一緒になれる……!
私は喜びと、少しの寂しさが溢れて、涙が出そうになった。
「な……、何を言っている!! 君は、罪を犯したんだぞ⁉︎ そして、婚約破棄だぞ⁉︎ 受け入れる、とは意地を張るにも程がある!! 大人しく罪を認めろ!!」
第2王子が焦って怒鳴り出せば、ピシュナー侯爵家次男も慌てて言った。
「そ、そうだ! あれだけの罪を犯しておきながら、婚約破棄にして済むと思うな!! それに、あれだけマリー嬢に嫉妬して嫌がらせをしておきながら、簡単に破棄に同意するなど、何を企んでいる!」
ドリス伯爵令息も続いて叫んだ。
「そうだ! お前は本当は、婚約破棄などしたくないはずだ! 破棄を受け入れるなどと言って、王子の気を引こうなどと、なんと陰湿な奴だ!!」
第2騎士団長令息も叫んだ。
「犯罪者のお前が、『婚約破棄を受け入れる』などと盗人猛々しい! 罪に裁かれるがいい!」
そして、マリー嬢が続いた。
「やめて! 彼女を責めないであげて! あの人はルーカス様に婚約破棄と言われて錯乱しているのよ! だって私にあんなに嫉妬していたのですもの!」
「「「「マリー、君はなんて優しいんだ……!」」」」
そして、マリー嬢を囲む4人……。
またしても盛り上がる5人だが、さっきも同じようなシーンを見た気がする……。デジャヴかしら?
「「「………」」」
皆が唖然として黙り込む。
イヤ、本当に、コレは……。
何の茶番を見せられているんだ? そう、広間にいるほぼ皆が思ったはずだ。
自分達から婚約破棄を告げて、相手もそれを了承したんだからそれでいいはずなのに、何故引き留める??
そして、マリー嬢、それは優しいのか……?
まだ盛り上がっている5人、ん? 5人……?
1人2人3人……、1人足りない……。
! ソドムス侯爵家レナルド様……⁉︎
よく見ると、レナルド様だけ彼らの2、3歩後ろで控えている。彼の表情は、全く読めないけれど……。
やはり、彼は何か考えがあるのだわ……。
「先ほども申しましたが、私は後ろ暗い事は一切しておりません。そしてルーカス様にほぼ関わっておりません。週に何度も王子妃教育で王宮に参りましてもお会いしておりませんし、ご存知の通り学園でもご一緒しておりません。
この婚約は王家よりの申込でされた政略結婚ですわ。私はただそれに従うだけです。嫉妬などというものはございません。
私が罪を犯した、と……。『犯罪者』と呼ぶのなら、何か証拠はございますの?」
埒があかないと思ったのか、カタリーナ様は彼らに事実を突きつけた。第2王子達が理解出来るかは分からないけれど……。
流石カタリーナ様。理路整然とされてますわね。
さあ、第2王子達はどうする?
「何を言っている! この私が言っているのだ!! 私が証言する!!」
第2王子が横柄に叫べば、ピシュナー侯爵家次男も
「そうだ! ルーカス様が証拠だ! 私も証言する!」
ドリス伯爵令息もそれに続く。
「この国の第2王子が仰るのだ! 正しいに決まっているだろう!!」
そして、第2騎士団長令息も叫んだ。
「ルーカス様が仰る事に間違いは無い!」
最後にマリー嬢が
「ルーカス様! そうですわ、ここにいる5人が証人ですわ! カタリーナ様には申し訳ないけど、私にはこの5人がついているのですわ!」
「「「「そうだ、マリーには我らがついている!」」」」
「「「………」」」
もう、この三文役者達の演技には広間の皆様、飽き飽きしてますわね…。
…それにしても。こんな証拠にならない事を証拠と言い張るなんて。
でも悔しいけれど、もしこのままこちらが証明できないまま、それが証拠だと身分を盾に言い張られたら、押し切られる可能性はある。
そして、一般の学生に、王族に対して反対の証明をする、というのはかなり難しい。その人だけでなくその家にまで影響が出るかもしれない。
だからこその、『影』の方の出番なんだけれど……。
もし。
もしこのまま、『影』の方の証明が期待出来ないのなら。
私はぐっと手を握る。
…私が、出る。
1人が出れば、他にも誰か続いてくれるかもしれない。
私は前を、カタリーナ様を見た。
本来、恋敵だったはずの私達。私が前世を思い出した事で、愛し合う2人の間に入る事をやめ、私が彼ら2人に協力する事になり、今の不思議な関係となった。
私は、カタリーナ様が好きよ? おかしな始まりだったけれど、とても可愛い女性。
そして、本当は私に悪い事をしていると、悩んでいる事も知っている。あまり私側から気にしないで、と言い過ぎても余計に気を使わせてしまうから、私も最近は言わないようにしているけれど。
彼女を守りたい。…幸せに、なって欲しいと、そう心から思っているの。
だから、このまま第2王子の思惑通りになりそうなら、私が……!
私が、一歩踏み出そうとした時、誰かが私の腕を掴んだ。
「!?」
振り返ると、それは先程から私に甲斐甲斐しくスイーツのお世話をしてくれた、ナタリーだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
リリアンヌは前世では二十代後半、カタリーナの事は妹のように可愛く感じています。この世界ではカタリーナの方が1つ年上なのですが…。




