52 卒業パーティーの始まり
天井高く煌めくシャンデリア、美しい大理石の床に華麗に装飾された壁や柱、磨き上げられた室内に飾られた国宝級の花瓶に匂い立つ美しい花々……。
「やはり、王宮の広間は豪華ですわね……」
私はほぅっとため息を吐いた。マティアス様は少し笑って言った。
「そうだね。まあ、慣れてくるとそれ程緊張もしなくなるよ。あぁ、少し人が増えてきているね」
あら本当。やはり皆さん早めにいらっしゃるわよね。こんな豪華な空間に滅多に入れるものではないものね。
私達は今来られている方々に挨拶しながらも様子等をチェックして、今のところは問題なしと判断した。
「ところでマティアス様。『影』の方々はどの辺りにいらっしゃいますの? 今までその方達とは打ち合わせは出来てませんけれど、証言を入れて下さるタイミングとかはお分かりになっていただけているのでしょうか?」
そう。私は今回の重要な役目を果たしてくださる予定の『影』の方々を見た事がない。いえ本当は見ているのでしょうけれど、どの方か分からないので半信半疑なところがあるのだ。
マティアス様も若干心配そうなお顔をされながら仰った。
「いや、実は……。私も『影』の方を直接認識したことが無い」
おっと! それは不安が一気に広がる情報ですね……。というか、そこまで存在を秘匿されている方が、表立って証言などしていただけるものなのかしら?
急に心配になってきてしまったわ……。
「その点は、ノーマン公爵は大丈夫だと仰っていたのですよね? お側付きの方か騎士の方、ですよね。きっと……」
「大丈夫だよ。『あの事』が始まる頃には公爵もいらしているはずだから、コトが始まれば上手く証言していだだけるハズだ」
2人共、自分を納得させるように話す。
アレ? どうしてこんな肝心なことが今頃怪しくなってきたのかしら……。
そして気付けば、いつの間にか会場は結構な人数が集まって来ていた。
ザワッ。
入口で少し騒めきがあった。
カタリーナ様だわ。
イエローグリーンの素敵で華麗なドレス。この前お会いした時はドレスの色やデザインの事はお聞きしなかったのだ。聞いてしまったら、私のドレスが『ザ・マティアス様の色のドレス!』である事まで言わなければならなくなりますものね……。
実は『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』では、カタリーナ様は悪役令嬢らしい? 少し毒々しい程の黄色のドレスだった。ここでも少しズレが出ているのね。
そして、予定通り? カタリーナ様はお一人で入って来られた。敢えての他の方にエスコートを頼む事なく、だ。コレはゲームでもそうだったから大丈夫だろう。…ただ、カタリーナ様にはお辛いだろうけれど。
そして、だから会場は騒ついたのね。天下の公爵令嬢が婚約者のエスコートなしで入って来られたのだから。
「マティアス様」
私はマティアス様を促す。
ここからは、彼とは別行動なのだ。一緒にいてもいいような気もするけれど、彼としては何かあればカタリーナ様だけに集中してしまうと思うので、それならば初めから安全な後方にでもいて欲しい、との事だった。
うん、いいですよ……。私も、もう一つの目的が果たせますからね……。
「…済まない。リリアンヌ。必ず安全なところにいておいて。私は、必ず彼女を守る」
真剣な、お顔のマティアス様。
「…はい。カタリーナ様を、宜しくお願いいたします。私は、大丈夫ですから。…いってらっしゃいませ」
…そう、コレで。私と、マティアス様との婚約者としての関係の全ては……、お終い。
彼は、マティアス様は、私に一つ頷くと……、もう完全に意識はカタリーナ様に向いていた。もう、振り向きもせずに、…行って、しまわれた。
分かっていた、はずなのに。そうしてくださいと、私が言ったのに。
私の目から、一筋の涙が流れた。
………きゅっ!
私は涙を拭く。
ここでギャン泣きは出来ない。
ここで私がするべき事は。
私はゆっくりと、歩き出す。目的を、持って歩き出す。
そして、辿り着いた場所は……。
『王宮特製スイーツコーナー』よ!!
もう、コレは食べるしかないでしょう!!
私に今、他に出来る事がある⁉︎
今、泣く事が許されないのなら……、
もう食べるしかないわ!!
私がその場に来ると、1人の女性が近付いて来て言った。
「お嬢様、ご希望の品がございましたらおとりしましょうか?」
あら? 流石王宮ね。こんなサービスもあるのね。
「ありがとう。ええと……、貴女は?」
「申し遅れました。私は王宮で女官見習いをしております、ナタリーと申します」
「まあ、ナタリー。いいお名前ね。まだパーティーは始まっていないのだけれど、早くに来すぎて少しお腹が空いてしまったの。何か甘いものをいただいていいかしら?」
ナタリーは少し嬉しそうに笑い答えた。
「勿論でございます。特に、卒業パーティーではそういったお方は意外に多いのですよ。皆様余り経験のない王宮でのパーティーに緊張していらっしゃいますから」
ナタリーは20代前半くらいかしら? 優しげだけど背筋がピンとして出来る女官って感じね。
そして、美しく盛り付けたお皿を私に渡してくれた。
うん! 美味しそう!
これはテンション上がっちゃうわ!
「ありがとう、ナタリー。とても美味しそうだわ」
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
2人でふふと笑いながら、一口いただく。
ふぁーっ! やっぱり美味しい! いい材料使ってるわー!
ざわぁっ!!
会場の入口が、先程よりも大きく騒ついた。
これは、もしかして……。
会場の入口付近を見ると、そこには第2王子ルーカス様とマリー嬢、そして宰相ピシュナー侯爵家次男、ソドムス侯爵家レナルド様、ドリス伯爵家嫡男、第2騎士団長嫡男が入場するところだった。
そんな騒めきの中、それは起ころうとしていた。
お読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ、パーティーが始まります!




