51 兄王の執務室
リリアンヌ嬢に髪飾りを贈った意味……。
兄王の執務室に向かいながら、ノーマン公爵は先程副官フィリップに聞かれた言葉を自分に問い質していた。
私はたくさんの若者を見てきた。彼らと共に成長してきたつもりだ。若者達は真っ直ぐでひたむきで……そして考えなしで、自分の欲求にも正直過ぎて間違いを犯す事も多々ある。
そんな彼らを私の力の及ぶ限りで導き、時には叱り時には褒め称え、より良い人になって欲しいと願ってきた。
その中でリリアンヌ嬢は特異な存在だった。
ある意味、達観している。それでいて、正しいと思う事は周りが驚こうが自分を傷つけようが必死でやり通そうとする。一つの確かなものを心に持っていて、それに対して誠実に行動しようとする。
…そんな彼女を放って置けないのだ。側にいて、守りたい。
時々無茶をしようとする彼女の側で、彼女を守り彼女のやりたいようにさせてあげたい。
リリアンヌ嬢と、お互いを幸せにし合いたい。
そして彼女を着飾り甘えさせてもあげたい。
…だから、髪飾りを贈ったのだ。
今は、婚約者のいる今は……。ドレスや宝石は贈れないから、せめて彼女の身に着ける物を渡したかったのだ……。
そう私は……。
もう、私にも答えは分かっていた。
気付けばもう王の執務室の前。
リリアンヌ嬢への気持ちに気付きはしたが、今はその時ではない。
今は、やり遂げねばならない事がある。
大切な家族同然のマティアス達の為、王家の誇りを守る為、そして……。…リリアンヌ嬢の為に。
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「ノーマン公爵閣下、陛下がお待ちです。お入りください」
執務室の前の衛兵に促され、足を踏み入れる。
奥の豪華な執務机の椅子にかけて兄王はいた。
「アルフレッド ノーマン。只今参りました」
臣下の礼をとる。
兄王はそれを見て少し満足気な顔をした。
「アルフレッド、来たか。座るがいい」
そう少し横柄に告げた。
「いえ、結構です。それよりももうこれから『卒業パーティー』が始まります。今年はルーカスもいよいよ卒業です。祝いに行かれないのですか?」
着席を断り、パーティーへの出席を促す。
リリアンヌの話だと、例の『断罪』とやらは案外パーティーの早めの時間に始まるとの事だった。
『影』やアルフレッドの側近も潜り込ませてはいるので、危ない事にはならないと思うが……。
しかしここで油を売っている時間はない。
「まあそう言うな。弟よ。
…お前は、このパーティーで一体何を企んでいるのだ?」
兄王が、目を眇め口調も鋭く問うてきた。
「…『企む』? 私は何も企んではおりませんよ。…ただ、不測の事態には動けるようにしているだけです。何せ将来有望な次代の貴族達の集まりですからね。何かあっては困りますので」
「ふん、ふてぶてしくなりおって!
お前が何事か企んでいるという事はちゃんと聞いているのだぞ!」
怒りに任せて兄王は机を叩きながら怒鳴った。
「ほう、どなたからですか?」
ノーマン公爵は間髪置かずに問う。
「誰でも良いではないか!」
「良くはありません。私の有る事無い事を兄上に吹き込む……。これは讒言。その様な証拠もない事で私を責める事は、後々に禍根を残しますよ。勿論、兄上に嘘を告げた者、…そして兄上」
ここで一旦言葉を切り、ノーマン公爵は兄王を戦時敵を震え上がらせた冷酷な瞳で見据えた。
戦争など行った事もない兄王は背筋が凍った。
「私を糾弾するのなら確固たる証拠をお持ちなのでしょうね? 無いのでしたら、ただでは済ませませんが。
誰が、私が悪事を企んでいると言ったのです?
…兄上。お答えください」
更にノーマン公爵は兄王を睨みつけた。
兄王は、蛇に睨まれた蛙の状態だった。
「お、王妃だ! 王妃が……ッ。
お前が普段からルーカスを虐げている、可愛くないと、そう言って、この祝いの卒業パーティーでルーカスを酷い目に合わすつもりの様だと……。だから助けてやってくれと、そう頼まれたのだ!」
「…王妃様、ですか」
やはり。
王家が不始末を起こす度に裏で動いていた王妃。
いつからか、兄王も最近はなんだかんだで王妃の意のままに動いているふしがある。
正論を説いたところで今の兄王が納得されるかどうか。
「兄上。私は一切悪意の企みなどしてはおりません。むしろ、最悪の事が起きそうな時にはルーカスを退避させ守るつもりでもありました。
…兄上は、一度現実を実際に見る必要があるかと思います。私と共にいらしてください。
本当は何が起きようとしているのかを」
ノーマン公爵はそう言って兄王の手を取る。
兄王は震えながらも頷いた。
お読みいただき、ありがとうございます!
とうとう、ノーマン公爵がリリアンヌへの自分の気持ちに気付きました。




