47 ワーグナー侯爵2
「到着しましたら、私はいったん王宮の私の執務室におります。何かあれば私のところに連絡が来る事になっておりますので、すぐに駆けつけさせていただきます。
パーティーの参加者はそのまま案内に従って、会場までお進みください。マティアス、きちんとエスコートを頼むよ」
「はい、父上」
もうすぐ王宮に到着、というところでワーグナー侯爵はこの後の段取りを話される。
ん? 何か違和感が……。
「あの……。ワーグナー侯爵? 私に対してその様なお言葉使いは……」
ワーグナー侯爵は、あぁ、と頷き、
「そうですね。馬車より降りましたら婚約者の父として振る舞わせていただきます」
イヤイヤ、ここでも私に対してする言葉使いではないですよね⁉︎
「リリアンヌ」
そこでマティアス様が真剣な声を出された。
「はい!」
私も本気モードになる。
「…これから、いよいよ始まる。笑っても泣いても、やり直しの利かない、勝負が始まる」
マティアス様の、本気が伝わってくる。勿論、私も今日の為に嘆き悲しみながらも、皆と力を合わせて来た。全て、今からのこの時の為に。
私も頷きながら答える。
「…カタリーナ様の為に、私も力を尽くします!
…まず確認として、カタリーナ様にはパーティー開始の少し前に入場していただく事になっています。その頃には参加者は殆どお集まりになっている筈ですので、カタリーナ様が婚約者である第2王子のエスコート無しで入場するところを周囲に確認していただきます」
この辺りの流れはマティアス様にお話ししてあるのだけれど、やはりお辛そうな顔をされた。私もカタリーナ様が嫌な思いをされるのは辛いけれど、ゲームの強制力を考えて、一通りゲーム通りの流れで婚約破棄までさせる必要がある。
だけど、そこからだ。そこから、このゲームの流れ、『運命』とやらを覆すのだ!
私は昔したゲームの流れを思い出しながら話す。
「…恐らく、第2王子達がカタリーナ様に冤罪を仕掛け貶めてくるのは、パーティーが始まる少し前です。
彼らが婚約破棄を言い渡し、一通り主張し終わったところでカタリーナ様が婚約破棄を受諾。
そのあとは『影』の方々にカタリーナ様の無実を証言していただく、という事でよろしいですわよね」
マティアス様は頷く。そこでワーグナー侯爵が仰った。
「あとはそれぞれの場所で、不測の事態が起こらないかに目を光らせる必要がありますね。以前ノーマン公爵様が国王に約束させた件、『第2王子が次に何か不手際を起こせば婚約を破棄させる』という事の意味が分かっている王妃派の動きは、私が王宮側で見ております」
ワーグナー侯爵がニヤリと不敵な笑いを浮かべた。…そうか、この方は戦争経験者で、普段は温厚な方に見えるのに、意外に好戦的なところがおありになるのですね……。そうだ、やり手の軍務大臣でした……。
「ありがとうございます、父上。
私達はパーティー会場で、彼らが短気な事を起こさぬ様に目を光らせるつもりです。
リリアンヌ、君の役目はここでは無いから、くれぐれも無理をせず、ある程度の距離をとって安全な位置にいるようにね」
…カタリーナ様のお側にいて差し上げるのですね。
私は、少し切ない気分になりながらも頷いた。
…でも、勿論私は、このままただ安全な場所にいるだけのつもりはないわ。
こういう事は、遠くから眺めて全体の異変を察知する、という高度なテクニックでこちら側が不意打ちを受けないよう、きっちりチェックするつもりですわよ!
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マティアスは、話しながらリリアンヌと会話した後の父の様子を見ていた。
父は、14年前の戦争でノーマン公爵と奇襲以外の殆どの行動を共にし、ノーマン公爵に心酔する者たちの1人だ。
父もきっとウォード伯爵から話は聞いていたのだろう。今日は勿論リリアンヌへの謝罪の為に一緒の馬車に乗ったのだろうが……。
チラリと父を見る。
父は、リリアンヌを眩しいものを見るかのように見ている。先程の、リリアンヌの物事に関する答えがお気に召したのだろう……。まあ、かくいう私もまた感心したのだが。
そしてノーマン公爵を主君と仰ぐこの父も、リリアンヌをその主君の隣に並び立つ者、と認めた様だった。
マティアスは、深く、息を吐いた。
ここから、カタリーナの人生、イコール私の人生も決まる。後戻りは出来ない、するつもりも毛頭ない。
…必ず、彼女を。王家に縛られたカタリーナを救い出す。あの時、叶わなかった事を、今やり遂げるのだ。
そして、このチャンスをくれたリリアンヌ。
彼女の人生も、これから恐らく大きく変わっていくだろう。きっと周りが放っておいてはくれない。
その時私は、私とカタリーナは彼女を支えていく役目にまわる。
リリアンヌがこれからどのような道を選ぶかは分からないけれど、彼女が望む未来となるように私の力の及ぶ限り助力していくつもりだ。
しかし願わくば、彼女が望む未来がノーマン公爵と歩む未来でありますように……。
そして、馬車は王宮に到着した。




