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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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46 ワーグナー侯爵 1

 馬車の中はマティアス様と私が並び、その前にワーグナー侯爵が座られた。

 馬車はゆったりとした作りで、大人が3人乗っても狭(せま)さは感じない。車内は椅子(いす)も柔(やわ)らかで暫(しばら)く座って揺(ゆ)られても大丈夫そうだ。雰囲気(ふんいき)は……昭和の純喫茶(じゅんきっさ)、かしら?


 「リリアンヌ嬢」


 ワーグナー侯爵がその青い瞳で真っ直ぐに私を見られていた。


「…こうして、きちんと話をするのは初めてだね。…今まで謝罪を出来なかった事を許して欲しい。

この度は、マティアスとの婚約の件、誠(まこと)に申し訳なかった」


 そう言って、頭を下げられた。


「侯爵様⁉︎ …頭をお上げください」


 私はそう言っだけれど、侯爵は頭を下げられたままだった。


「私は……、マティアス達の、2人の気持ちが分かっていながら、我が侯爵家の後継問題(こうけいもんだい)から思いきれず、結果彼らを苦しめる事になってしまった……。

そして、今度はもう次に進まねば、と貴女(あなた)をマティアスの婚約者とし、また傷を広げることとなってしまった……。

それなのに、リリアンヌ嬢、貴女は自分の婚約者とその恋人の為にと動いてくれている。自分が受ける傷も厭(いと)わずに……。

しかも戦う相手は王家だというのに……」


 侯爵は、少し涙ぐんでいる様に見えた。私も驚(おどろ)いたが、マティアス様も相当驚かれた様子だった。

 確かに、父親が謝るシーンを見るなんて事は滅多(めった)にある事ではないわよね。しかも、『侯爵』というお立場でもあるのだし……。

 自分達に悪い事をしたとここまで思ってくれていたとも、今まで分からなかったのかもしれないわね。


「…私は自分が情けなくてね……。どうしてあの時、シュバリエ公爵と一緒に王家に抗議(こうぎ)しなかったのかと。

どうして、王家からの正式な通達(つうたつ)はもう決定事項(けっていじこう)だからと、そう諦(あきら)めてしまったのかと。

あの時、諦めなければ息子達を苦しめずに済み、そして貴女も新たに犠牲(ぎせい)にする事もなかったのに……」


 私はワーグナー侯爵がここまでご自分を責めているとは思わず、驚いていた。だけれど……。

 この世界は、何故(なぜ)か乙女(おとめ)ゲーム『薔薇(ばら)の誓い〜5人の騎士達〜』の初期設定(しょきせってい)に無理矢理(むりやり)合わせる様な強制力(きょうせいりょく)がある。…であるならば、きっと侯爵がどんなに力を尽くしていたとしても、この『設定』は変わらなかったはずだわ。


「…侯爵様。私は運命ってあると思うんです。そして、それは皆の努力で覆(くつがえ)す事が出来る、と思っています。

でもそれにはタイミングというものがあって、ある時期にはどんなに頑張(がんば)ってもダメな時があるんです、きっと。でもそれでも諦めず、時期を待って色んな人達と力を合わせて力を貯(た)めて、初めて成(な)し得(う)る事が出来る……のだと、思います。

そして、今がその時だと思うのです。

今、時は来たんです!」


 ワーグナー侯爵は、その青い瞳を見開(みひら)かれた。


「…そして、侯爵様。私は不幸ばかりではありませんよ?

今回、おかしな話ですが普通の婚約者であった時よりもマティアス様とは仲良くなったと思いますし、カタリーナ様とも良き友人関係にあると自負(じふ)しております。

そしてシュバリエ公爵やワーグナー侯爵家の皆様とも、とても良い時間を過ごさせていただきました。そして……、ノーマン公爵様とも、です。

どのお方とも、今回の事が無ければ今の関係はありません。そして、これもきっと運命なのですわ。…私の、宝物です」


 侯爵は、静かに微笑(ほほえ)みながら仰った。


「…その『宝物』は、誰にも奪う事は出来ませんね……。

マティアスより、アルフレッド様のお話は聞いておりましたが……。まさしく、貴女は『希少(きしょう)な宝石』だ。

かの方に相応(ふさわ)しい」


 感心(かんしん)したように、頷(うなず)きながら仰ったけれど……。途中からは呟(つぶや)くように仰ったので、よく聞こえなかった。


 ん? 何? 希少な……なんですって??


「…そうですな。今が、その時。

今から、我ら一丸(いちがん)となってやり遂(と)げましょう。

…そして、我がワーグナー侯爵家はリリアンヌ嬢、貴女をこれから全面的(ぜんめんてき)に支援(しえん)するとお誓いします」


 私はいきなりのワーグナー侯爵の爆弾発言(ばくだんはつげん)? に驚いた。

 

「私の支援……ですか⁉︎ えっと……どうして……?

はっ。あ、私の今後、パーティー後の事ですか⁉︎

私は、なんとか大丈夫なのですけれど……。ご無理を言って良いのならカールトン伯爵家を、両親や弟に、酷(ひど)い事にならないようにしていただけると助かります……。

私は自分で納得した上での事ですのでいいのですが、両親や弟に迷惑をかけてしまう事が心苦しくて……。今回の、私の心残りは本当にそれだけなのです……」


「リリアンヌ嬢。これから我が家がカールトン伯爵家を傷付けさせない、支援していく事は当然の事です。これだけの恩(おん)を受けた貴女と伯爵家を守るのは我らワーグナー侯爵家の成(な)すべき事です。

私が申し上げているのは貴女がこれからノーマン公爵様と……」


「父上ッ!! 今はその件は……。

それより、これから王宮に行ってからの父上の段取(だんど)りをお教えいただければ……」


 何故(なぜ)かマティアス様が慌(あわ)てて侯爵の話を遮(さえぎ)った。


 私は何故マティアス様が侯爵の話を遮られたのかしら? と少し不思議に思ったけれど、ワーグナー侯爵が途中から私に対して口調を変えられた事にはこの時は気付いていなかった。


お読みいただきありがとうございます。


ワーグナー侯爵も、ノーマン公爵に心酔する1人です。ウォード伯爵から話を聞いていたようです。

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