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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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45  王妃イザベラ 

「王妃様、いかがなさいますか」


 弟ピシュナー侯爵こうしゃくが私にうた。私の可愛かわいい息子ルーカスの婚約こんやくを次に何か揉め事を起こせば破棄はきさせる。…そうあの義弟おとうとは王に皆の前で約束させたらしい。

 本当に忌々しいこと……!

 私はギリッとくちびるんだ。


 ただでさえ、彼方此方あちらこちらからルーカスの苦情は上がっている。だれかれも、王族である我らの行動に口出しするとはなんたる無礼ぶれいな事か!!


 そしてこの苦情とやらが上がっている中、このままでいれば婚約は破棄される、という事にされてしまうではないか! その様な事、決して許しはしない!


 今までこの婚約の為にどれだけ骨を折った事か……! 初めどうしても婚約を了承りょうしょうしなかったシュバリエ公爵には、本当に苦渋くじゅうあじわわされたわ!

 第2王子であるルーカスが、侯爵程度の家への婿むこなどと、冗談じょうだんではないわ!


「…とりあえず、王へ申し上げる。あの義弟が何事かをたくらみ、我が息子ルーカスをおとしめようとしている、とな」


 私がそう言うと、弟は少し表情をくもらせた。


「ですが、余りにノーマン公爵側を刺激しげきいたしますと……。彼らの結束は固く、そして我らより高位の貴族や沢山たくさんの貴族達がついているのですぞ。何より民はノーマン公爵の味方です」


 その言葉に私は怒りが爆発ばくはつした。


「この! 王妃である私よりも、王弟如きが上と申すか! 戦争の英雄とはいっても、もう十数年も昔の話ぞ! もうなんの値打ちもありはせぬわ! 過去の栄光えいこうだけで威張いばりくさりおって……! お前もいつまでもやつにへりくだらずともよいのだ!!」


 姉の逆鱗げきりんに触れたピシュナー侯爵だったが、そこはあきれをふくんだ目で見るしかなかった。


 自分とは違う派閥はばつで姉の敵とは言っても、ノーマン公爵は間違いなく国の英雄であり、ある意味この国の真の王である事は皆が知っている。姉達がおとしめていく王家の評判をつなぎ止めているのは、間違いなくノーマン公爵だ。


 ここでまかり間違って彼と本当に敵対てきたいしたら……。ピシュナー侯爵はゾッとした。万が一にも勝つ見込みがないどころか、もし万が一にもこちらが勝ったとしても信用の無い王家はあっという間にほろぶだろう。相手は他の貴族か隣国か、それとも蜂起ほうきした民か……。

 姉にはその辺りが全く分かっていないらしい。


「とにかく、ルーカス様に王族として学生として、きちんとした生活をしていただければ何も問題はないかと思われます。そして婚約者であるシュバリエ公爵令嬢に贈り物をする等、婚約者たる対応をきちんとしていれば、誰にも文句は言われません」


 姉は、ふん、と鼻息はないき荒く言った。


「あの子は普段ふだんから悪い事はしておらぬわ。周りが王子だからと型にめすぎているのではないか? しかも今はまだ学生なのだから、多少の事にうるさく言うものではないわ」


 これにも弟はため息を吐く。


「失礼ながら、王が学生であった時この様なご様子であったという記憶きおくはございません。それに学生の本分ほんぶんは勉強と学生らしい生活です。その2つ共をおこたっているともっぱらの評判です」


 王妃は持っていたおうぎを弟に投げつけた。


「お前は! 一体誰の味方なのだ!! 先程から聞いておれば、まるでルーカスが悪いかの様ではないか!!」


 ピシュナー侯爵は投げつけられた扇を拾い、姉に渡しながら言った。


「…そう、申し上げております」


 王妃は渡された扇を払い飛ばして言った。


「本当に誰も彼も……!! もう、よい! 下がれ!

私はこれから王に申し上げてくる!!」


 ピシュナー侯爵は追い出されるように王妃の部屋から出た。

 するとそこには、ピシュナー侯爵家嫡男がひかえていた。

 2人は歩き出す。


「…聞いたか?」


「王妃様のお声は、よくおひびきになられますから」


 何事も無い様に淡々と答える息子。そして、問う。


「父上は、…まだお決めにならないのですか?」


 何が、とは言わない。…聞かずとも分かっている。ここのところ2人の間でずっと交わされている会話。


「…しかし、あやつをどうするか」


 侯爵が、悩ましげに答える。


「アレは、自分で決めたのです。みずから決めた道なのですから、結果がどうなろうと自己責任じこせきにんですよ。私も母上も何度も注意いたしましたし、父上もでしょう? …なら、どうしようもありませんよ。

今、あれだけ勝手気儘かってきままにしておいて、困ったら助けてでは困ります」


 『アレ』とは、第2王子ルーカスに側近として付いている二男の事だ。すっかり第2王子と同じような考えにまっている。


「ともかく、私はもう決めております。父上も、早めのご決断を」


 嫡男はそう言うと、こちらを見ずに早足で歩いていく。


 ピシュナー侯爵は、その後ろ姿を見ながら深くため息を吐いた。




お読みいただき、ありがとうございます。


今回、王妃側のお話です。王妃はちょっと激しい方のようで…。

そしてピシュナー侯爵家も一枚岩ではないようです。

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