27 2人にそよぐ風
卒業パーティーまであと2週間程というある日、マティアス様からお届け物があった。
開けてみると、卒業パーティー用のドレスだった。
マティアス様の瞳の色の、とても綺麗なエメラルドグリーンのドレスと金の台座にエメラルドの首飾り。
「ザ・マティアス様の婚約者」な色合いの装いだわね。
…多分、マーガレット様のお見立てね。
そう思いながら、その繊細なドレスの生地にそっと触れてみる。
あれから、 ワーグナー侯爵家にてマティアス様とお会いしたけれど、ダニエル様とのケンカの事は聞けなかった。勿論例の密告の『犯人』の事も。
マーガレット様と『フルーツタルト』は美味しくいただきましたけどね!
卒業パーティーには、『婚約者のマティアス様』と行く事になっている。
帰りには、全く状況が変わっていると思われるので一緒に行くのもどうかしら、と思ったのだけれど、パートナーとして行かないと今回のパーティー会場には入れないのだ。
マティアス様の弟ダニエル様も今年ご卒業だけれど、ダニエル様は幼馴染の子爵令嬢と行かれるようです。
でも、…最後に、婚約者としてご一緒出来るのだ。
良い思い出として、充分に楽しませてもらおう。
…そういえば、イベントの断罪が始まるのはパーティーが始まる直前? だったわよね……。
うわぁ、じゃあダンスは出来ないのね! 残念……!
そして、滅多に食べる事の出来ない王宮の豪華なお食事! 食べる時間はあるのかしら? これだけは死守しなければ……!
…等と考えていても、やはり気が滅入る。
よし、こんな時はこっそり屋敷を抜け出して街に出るに限るわ。ウィンドウショッピングをして帰りに街のお菓子でも買って帰れば気も晴れるかもしれないわ。
私は町の娘に見えるワンピースを出して、こっそり屋敷から抜け出すのに成功したのだった。
~~~~~
「うわぁ、新しいお店が出来てるー!」
街のお店は入れ替わりが早いところが多い。あちこち見てると、うん、モヤモヤもなくなっちゃうわね!
なんて、油断していたら、
「…お嬢さん、こんな所でお一人とは感心しませんね……?」
急に、後ろから声をかけられた。
バッと後ろを見ると、茶髪に…金の瞳の美青年。…金の瞳⁉︎ まさか……。
「…ノーマン公爵様……?」
青年はにっこり笑って、シーッと人差し指を口に当てた。
「こんな所では何だから、向こうの公園にでも行こうか?」
街から少し歩いた所に、整備された少し広めの公園がある。そこへ、2人で無言で歩いて行く。
着くと、遊具のある方では子供達が遊んでいた。
ノーマン公爵は人気のない所で立ち止まり、こちらを見た。
「…君はいつもこんな風に侍女も無しに出歩いているのかい?」
少し説教口調で言われた。
「…それを仰るなら、公爵様もお付きの方がいらっしゃいませんよね?」
「私は変装もしてるし剣も使えるし……「何かあれば一緒です」……そうだね」
あら、素直にお聞きになられたわ。
「何か……あったのかい?」
ノーマン公爵は真っ直ぐ金の瞳で心配そうに私を見られた。…その瞳で見られて嘘をつける人なんて居るのかしら……?
「私……マーガレット様と、…ワーグナー侯爵夫人とお話したのです。…そして、カタリーナ様のおばあさまのお話等を、お聞きしました」
少し驚かれた様子のノーマン公爵。
「そうか、侯爵夫人は君の事をたいそう気に入られているのだったね」
「…はい。とても良くしていただいております。
以前話されていた、シュバリエ公爵が最初からカタリーナ様の王族とのご縁を断られていた、というのは、おばあさまが原因だったのですね」
ノーマン公爵はため息を吐かれて答えられた。
「…そう。そして周りの貴族も王族も、シュバリエ公爵家が王家と距離を置きたいと考えるのは当然の事だと思っている。私もだよ。元王女本人だけでなく、それを放置し公爵家を不幸に陥れた責任のある王家は、本来はシュバリエ公爵家に頭が上がらないはずなのだ。嫌がる婚約をさせる等とんでもない」
もう一つ、ため息を吐かれて、
「それなのに、王家はまたしてもシュバリエ公爵家に無理を強いた。そして、流行病の時大きな功績を挙げたワーグナー侯爵家にも煮え湯を飲ませるような行いをした。
…私も何も出来なかった分、同罪だが……。しかし、今回この機会を逃すつもりはない。
次に王家が何かやらかせば、完全に王家の信頼は失墜する。
私は今度こそ、彼らを糾弾する」
彼の、ノーマン公爵の瞳が強い光を放った気がした。
ノーマン公爵は、本当に初代国王様の生まれ変わりなのかもしれない、なんて、考えてしまった……。
『前世』が初代国王様……?
「ノーマン公爵は、本当は『前世』は初代国王様かもしれませんね。その昔、国々が乱れていた時に現れたという、黒き英雄ですね」
つい思った事をポロッと言ってしまった。
ノーマン公爵は、少しキョトンとした顔で私を見てから、破顔された。
「私の『前世』が初代国王で、君の『前世』は医療の発達した異国って事かい?」
あら、私の前世の話、ちゃんと信じてくださってたんですね。…私は少し嬉しくなって微笑んだ。
「…そうです。私達、2人とも『前世持ち』ですね」
ノーマン公爵も同じように微笑まれた。
「…そうかもしれないな」
ふわりと、風が2人の頬を撫でて通り過ぎていった。
お読みいただき、ありがとうございます。
卒業パーティーが近づき、だんだん落ち込んできたリリアンヌです。




