26 両親の見た『夢』
「まあ! 本当ですか⁉︎ …前からお話のあった、バートン伯爵家の御令嬢レイラですわね?」
私も嬉しくなってテンションがあがる。以前お茶会でお話したけれど、私にとても懐いてくれた可愛い女の子だ。あんな可愛い妹が出来るなんて嬉しいわ!
「そうなんだ! お父上の伯爵もご立派な方だし、何より本人同士も気が合うようだからね。
リリアンヌは侯爵家に嫁ぐし、我が家は前途洋々だな!」
うっ……。それを言われると辛いわ……。私は若干顔がひきつる。
マティアス様との婚約破棄、それを知ったお父様達の落胆がコワイわ……。
「そして、これでジェイムスに大きな顔をさせんぞ……!」
お父様はそんな私の様子に気付かず、父の親友……悪友? である、サリアの父ジェイムス モーガン伯爵に対抗意識を燃やしていたようだ。
そう、最近サリアの弟も婚約者が決まったそうなのだ。…子供達をそんな対抗のネタにしないで欲しいものだわ。
「トーマス。子供達のお祝い事でそんな対抗意識を持たないの!
…それよりリリアンヌ? どうしたの、気分が悪いの?」
流石はお母様、私の少しの変化にも気付いてしまわれたわね……。
でも心配をかける訳にはいかないわ。
「なんでもありませんわ。馬車に揺られて少し酔ったのかしら? 大した事はございません。
それよりお父様、サリアの弟の婚約にはこんなに対抗意識を持っているのに、どうしてサリアの婚約が決まった時には何もされませんでしたの?」
昔からなんに対してもライバル意識を持つ2人。
どちらかが馬車を新調すれば片方もまた新調し、またどちらかが妻に宝石をプレゼントすればまた片方も……とエンドレスな戦い? は続いているのだ。
そんな父が唯一動かなかったのが、私の婚約だ。
5年前サリアに婚約者が出来た、と話を聞いた時には、もうコレは私にも出来るんだろうなと思った。
それが10日経っても1ヶ月経っても父は何も言ってこない。
私はとうとう我慢出来ず、
『お父様? どうされたのですか? どうして私の婚約を決めないのですか?
お体が悪いのですか? それとも我が家の経済状況が悪くお話がまとまらないのですか⁉︎』
と詰め寄ってしまったものだ……。
その時お父様は苦笑して、
『体も悪くないし、我が家の経済状況も、リリアンヌが心配する様な事は何もないよ。
それに結婚はそんなジェイムスへの対抗意識などで決めるようなものじゃないからね』
…と仰ったのだ。
うん? 話が違うんじゃない?
「お父様……。確か、お父様はサリアの婚約が決まった時、『婚約はジェイムス様への対抗意識なんて理由で決めるものじゃない』と仰ってましたわよね……?
今回、完全に、対抗意識で決めましたよね……?」
父はハッとした顔をしてしどろもどろと言い訳を始めた。
「いや、コレは偶然たまたま、いいご縁が、たまたま! 重なってしまっただけなんだよ。
いや〜、私達は仲が良いから、こんな祝い事まで重なってしまうんだなぁ……」
「…先月、サリアの弟の婚約が決まってから、ニコラスの婚約をまとめるためかこの一月、お父様はあちこちに調整に奔走されていましたよね」
ジト目で見る私にタジタジの父トーマス。
そんな父を見かねたのか、お母様が助け舟を出した。
「リリアンヌ、それくらいでお父様を許してあげて? …貴女の婚約をなかなか決めなかったのには……訳があるの」
「ジョセフィーヌ、それは……」
お父様はハッとしてお母様を止めようとしたけれど、
「もういいではありませんか。リリアンヌももうお話が決まっている事ですし。それに私達が見た『ただの夢』だけの話ですしね」
「それは……そうだが。君も信じていたのではないのかい?」
『夢』?
私が「?」な顔をしていると、2人は決心したのかこちらを向いた。
「リリアンヌ、…君が産まれる時に私達は『夢』を見たんだ。しかも、2人共同じ『夢』を」
「同じ……夢……?」
何のことかと2人を見返す私に、お父様はおっしゃった。
「そう『夢』。あれはリリアンヌが産まれる日。白く光る神々しい方が現れて、『この子は将来高貴な方より望まれるのでそれまで婚約を待つ様に』と仰ったんだ。
朝起きてお互いにその話をして驚いたよ。2人共全く同じ夢を見ていたんだから。だからコレは本当かもしれない、と話合い適齢期になる迄は婚約者は探さないでおこうと決めたんだよ」
「同じ夢……。神々しいお方とは一体……? それに高貴な方って……」
驚き過ぎて繰り返す事しか出来なかった。
「まあ夢を見たのは本当にその一度きりで、それから何があった訳でもなかったのだけれどね。だから半信半疑のままきたのだけれど……。
ワーグナー侯爵家からどうしてもとお話が来た時は、この事か! と2人で興奮したものだよ」
お父様はそこは本当に夢が現実になって驚いたのだろう、興奮気味に仰った。
うーん。本当はそれも違った訳だけれど……。
確かに高貴な身分の侯爵家嫡男 マティアス様との婚約のお話だった訳だけれど、その話は実はもうすぐ破談になるのだし……。
だけど、おこがましいかもしれないけれど、私がきっかけになってマティアス様とカタリーナ様の狂った歯車が直る、という事なのかしら?
『前世』の記憶を持つ私によって?
そしてそれが天からのお告げだった?
「そうなのですね……。それで、お父様達が私の婚約者探しをしてこなかった訳がわかりましたわ……」
今は流行病で婚約者を亡くしたサリアのように、婚約者不在の貴族は多い。だけどだいたいの貴族の娘はは学園在学中には相手を決める。
けれどもまるで婚約者を探す素振りも見せなかった両親の事は、確かに不思議に思っていたのだ。
そして、それがこの世界の今の歪みを直す為に『天』が私に当てた役割ならば、立派にそれをやり遂げてやろうじゃないの!
いずれ婚約破棄される私だけれども、任された仕事はしっかりやり抜いて結果を出してみせるわ!!
お読みいただきありがとうございます。
この世界の貴族は幼い頃に婚約が決まっていたりします。全く事情を知らなかったリリアンヌは婚約が決まるまで、少し不安だったみたいです。




