24 侯爵夫人の後悔
「――という訳で、私は当時の王子の求婚を断れたのよ。そして今の王妃の求心力が無いのは、王家が横暴を尽くした元王女を思い出させる行為をした王妃の立場をなくした為。
彼女は王妃としての権限はほぼ無いわ。けれども、王に色んな讒言をしている。王も、権限を持たない王妃に同情的でね。また身内を庇い過ぎて周りに被害をかける事に何とも思わなくなってきている。結局王家の体質は変わっていない。元王女の横暴の頃と何も変わってないのよ」
本当はその王妃の嫌がらせは、恐らく我が息子マティアスの思い人カタリーナ嬢との婚約の横やりの件にも関係していたのだろう。
そうでなければ、元王女の被害の当事者であるシュバリエ公爵家にまた無理強いをし、再び王家の権威の失墜の危険がある行為にはなかなか踏み切れなかったはずだ。
マーガレットが悔いる1番の事だった。
しかし、この話はリリアンヌには出来ないわねと、マーガレットは別の件に話を進める。
「そして……、恐らく14年前の戦争も、元王女が身勝手にした婚約破棄のせいね。国同士の約束を王女の我儘だけで反故にしたのよ?
当時の隣国の怒りは相当だったと聞くわ。それから殆ど表面上の交流しか無くなった様だし……。
軍事力の強化をした後の隣国の標的が我が国となったのは、過去の我が国への恨みと、外交もしっかりしてこなかった王家の責任ね」
マーガレット様はそう言いきった。
「まさか、シュバリエ公爵家にそんな悲劇があったなんて……。そして、14年前の戦争も元王女が絡んだ事情があったのですね……」
そう我が事のように悲しそうに言うリリアンヌ。
マーガレットはそんなリリアンヌが可愛くて仕方がなかった。
昔から女の子も欲しかった。いつかマティアスが妹が欲しいと言い出した時には是非女の子を、と3人目を産んだが男の子。勿論可愛い我が子であるのだが。
しかし夜会などで見かける令嬢は殆ど高位貴族である我らに媚びるような娘ばかり。可愛げのある娘などはなかなか見なかった。
我が息子達にもしなだれかかろうとする、品のない小娘達に辟易するばかりだった。
そんなある日のパーティー。
いつものように高位貴族に媚びようとする者たちを適当にあしらい、仲の良い伯爵夫人とバルコニーへと出た。
そこから園庭の木々の奥に5、6人程の貴族令嬢達が見えた。
「まあ、マーガレット様、あれは……」
「…そうね、品のない事。大人数で1人の令嬢を囲んでいるのだわ」
まあ、貴族ではよくある事でもあるけれど…。
少し息を吐き、余り酷い様なら声掛けをしようかしら? と思って見ていると、1人の令嬢が木の影から歩いて来て、どうやらその状況に気付いた様だった。
―まあ知らぬふりをするわよね。特にあの囲んでいる令嬢の中には侯爵家の令嬢もいる。それとも一緒になっていじめようとでもするかしら?
そう思って見ていると、その令嬢は少し考えた後、スッと彼女達に近づいて行った。
―まあ、一緒になっていじめようというのね?
呆れて見ていると――。
「あら? こんな所に……皆様集まってどうされましたの?
まあ、ミレーヌ侯爵令嬢ではありませんか! うふふ、いい夜ですわね、星も綺麗ですし。私ついフラフラと出て来てしまいましたが、皆様もですよね?」
良くない事をしている自覚はあるのだろう時に大声で名前を呼ばれ、星を見ているのかと聞かれればうんと言うしかなさそうだった。
「やはりそうですわよね! とても綺麗ですもの!
でも、よろしいのですか? もうそろそろアレが出る頃ですわよ。…この夜会の1番の目玉、プディングです!
ここのプディングは蕩けるように美味しいのですよ……。私の今宵の目的はそれと言っても過言ではありませんわ!」
もう彼女達はこの令嬢の強引な話術に乗るしかなかったようだ。
「まあ、そんなに美味しいのですの?」「私、いただいた事がなかったですわ……」等とささやき合っている。
「それでは是非皆様でいただきましょう!」
とその令嬢は彼女達を向こうに誘導し、後に残った被害者の令嬢に微笑んで囁いた。
「…ほら、貴女も。とても美味しいのよ、一緒にいただきましょう?」
そして彼女達は去っていった。
「…なかなか、見事な手腕の令嬢でしたわね……。高位の令嬢に恥をかかせる事なく上手く誘導していきましたわね」
一部始終を見ていた2人。伯爵夫人は感心したように呟いた。そしてマーガレットも大いに感心していた。
「本当に……。なんて食いしん坊で可愛い令嬢なのかしら……!」
そこから、彼女の身元を探し、カールトン伯爵の娘リリアンヌと分かった。
リリアンヌの事はマーガレットは聞いた事があった。流行病の時、領地の各地へ出向き対抗策を広めた小さな英雄だと。
その後夜会の度見ていたが、もうマーガレットには可愛く見えて仕方がない。
話しかけてみると、彼女は侯爵夫人に対して適切な態度はとるものの媚びる事はせず、話題も気持ちの良い話でマーガレットを非常に満足させた。
そして、幸いな事に彼女には未だ婚約者が居ない事が分かったのだ。
我が家には、歳の合う息子が2人もいる!
そう意気込んで夫のワーグナー侯爵と息子マティアスに話をしたのだった――。
そう、まさかこの話がリリアンヌを結果苦しめる事になるとは夢にも思わず……。
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マーガレットの思った「気持ちのいい話」は媚びたり悪口や人の噂話ばかりなどをしない、という事です。




