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始まってしまった…!  作者: 本見りん


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23 ワーグナー侯爵夫人の怒り

「頭が上がらないですって……! とんでもないわ、恩を仇で返すとはこの事よ。彼らは私達の顔に泥を塗ったのよ!」


 マーガレット様は激昂された後、ハッと我にかえられた。


「貴女に言った訳ではなくてよ、ごめんなさいリリアンヌ。気分を害してしまったかしら?」


 必死で取り直そうとされるけど、そもそも私の不用意な発言が原因なのだ。知っていたハズなのに。


「いえ、こちらこそ申し訳ありません、マーガレット様。私が不用意な発言をしたからいけないのです」


 心配そうにこちらを見ながら、マーガレット様は仰った。


「違うのよ。…私この話になると本当に……。王家には煮え湯を飲まされましたわ。

いい機会だわ、貴女にも少しお話しておこうかしら?」


 煮え湯を飲まされた、と思われた程の話……。

 それは、マティアス様とカタリーナ様との事……かしら?


「我が国の王妃様の事よ」


 ん? 王妃様?


 王妃様の印象は余りないわ。王室主催のパーティーで王の横でいらっしゃる位しか拝見した事がないし……。


「リリアンヌ。今の王様は46歳、王妃様は同い年、そして私は王様より5歳下…。王妃様は元侯爵令嬢で私は公爵令嬢。…この事の意味が分かるかしら……?」


 あら皆お歳が近いのね?

 公爵家と侯爵家、そして5歳差……この位の差なら全然結婚相手として許容範囲だわ、まさか……。


「まさか、王妃様に王様を奪われたのですか⁉︎」


「違いますわ!」


 マーガレット様に即答された。


「断ったのは、私ですわよ」


 えっ……⁉︎ まさかの、王家からの縁談のお話を断った……ていうか、断れたんですか⁉︎

 だって、それが出来ないからカタリーナ様やマティアス様はあんなにも苦しんで……。


「ふふ。公爵家が王家のお話を断るなんて出来ないと思ってる? …あの当時は、今とは少し状況が違っていたの。ある、公爵家の不幸によって」


 そして、マーガレット様は当時の事を話された――。


~~~~~


 今から45年余り前――。


 今の王(ノーマン公爵にとっても)の叔母にあたる王女がいた。彼女は本来は隣国の王子との婚姻が決まっていた。

 …しかし、王女はシュバリエ公爵家嫡男に恋をした。彼にも婚約者がいて当然彼も断ったのに。癇癪かんしゃくを起こし、彼と一緒になれないならば死ぬとまで言い出した。

 王女の父王はただ1人の王女を特に可愛がっており、その我儘を叶えた。

 かくしてシュバリエ公爵家嫡男は婚約者と別れさせられて、王女との結婚を強いられた。


 そのような無理矢理な関係で結婚生活が上手くいくはずもない。

 彼ら夫婦の関係は当然のように良くなかった。義父母にあたる公爵夫妻も心を砕いたが、王女の苛立ちを抑える事は出来なかった。


 王宮やパーティーに行ってはシュバリエ公爵家を悪く言い、高級な宝石やドレスを買い漁り公爵家の財産を散財した。

 シュバリエ公爵家の苦境は続いた。

 嫡男が産まれても王女は変わらず、心労を抱えたまま公爵夫妻は亡くなった。

 その王女の子である嫡男も、母の異常さに怯えて暮らした。王女はほぼ我が子に無関心だった。


 その後、嫡男も成長し父の協力で母とは距離を置いて生活していた。そして伯爵令嬢と恋愛結婚し、別邸で母とは離れて幸せに暮らしていた。


 そんな幸せな日々が続いたある日、いきなり別邸に母が現れた。

「伯爵令嬢如きが、王家の血を引く我が息子をよくも誘惑して…! 許さぬ…!」


 狂ったように叫びながら掴みかからんばかりに入って来た母に、大人になって大切な人を得た息子は怒りを爆発させた。

 父も祖父母も自分も…シュバリエ公爵家を不幸に陥れ、今度は大切な妻まで不幸にしようとしている母を、息子は許す事は出来なかった。

 そして、元王女である母を幽閉したのだった。


 その頃には王女を溺愛していた王女の父王は亡くなっており、王女の子であるシュバリエ公爵家嫡男がした王女への対応に何をも言われる事はなかった。

 王女の兄である当時の王は妹の余りの異常ぶりに、そしてそれをシュバリエ公爵家に負わせてしまった事に、非常に負い目を感じていた。


 そして、当時の貴族達も王女の余りの横暴に怒り、身勝手に引き裂かれた婚約者と公爵家嫡男に同情した。王家の王女への横暴を許した王家の甘すぎる対応に、非常なる不信感を抱き続けていた。

 『王女』の名の元に、何の落ち度もない一つの貴族を不幸に陥れた王家への不信感。最高位の公爵家がそんな事をされたのだ、次はどこの家が被害に合うかわからない。そんな『王家』にこのまま仕えていて良いものか……。


 王家は貴族達の不満や怒りを感じて対策に苦慮していた。

そんな時代だった。


 今から約30年前、現在の王で当時第1王子クリストフの婚約者選びが行われた。


 当時の2大公爵家のもう一つ、フォートナム公爵令嬢マーガレットは歳も王子と5歳違いとまあ良い年齢差であり、才女でもあり薔薇のように美しいと有名だった。


 王家としては、才女と有名な公爵家令嬢を王子の婚約者としたい。

 クリストフ王子もマーガレットを気に入り、是非にとの話になったが――。


「私は、シュバリエ公爵家のお話を聞いて育ちました。王族の方と結婚しなければならないのなら、私は修道院に参ります」


 とまで本人は言い切った。


 シュバリエ公爵家の悲話は、当時の王家には非常に痛手だった。そしてその話を持ち出されると、無理を通してまた貴族達の反感を買ってはと王家は引くしかなかった。


 そして、クリストフ王子は同い年の侯爵令嬢と学園卒業後すぐに結婚、その後公爵令嬢マーガレットは学園で知り合ったワーグナー侯爵家嫡男ハロルドと恋愛結婚したのだ。


 ところが、元侯爵令嬢の王子妃はマーガレットに対して非常に対抗心を抱いており攻撃的だった。初めは気にしなかったマーガレットだったが、なかなか看過出来ない程の、周りの貴族も眉をひそめる様な事を王子妃はする様になっていた。


 それくらいで大人しく引く性格でないマーガレットは、『今の王子妃はまるで元王女のようですわね、また王家の横暴が始まるのでは…』と貴族達に話を広め元王女の横暴を知る多くの貴族達の反発を買い、王家は慌てて公の場での王子妃の立場をなくす事にした。


 殆どお飾りの王子妃となった元侯爵令嬢だったが、事あるごとにマーガレットへの小さな嫌がらせは続いてはいた。

 しかしその度しっかりやり返しをし、益々王子妃は立場をなくしていき、パーティーや公式行事で王子の横で微笑むだけの存在となっていったのだった…。




お読みいただき、ありがとうございます!


『王女』のワガママで色んなところに歪みが出てきてしまいます…。そして、人を傷つけてまで好きな人を手に入れて、結局は周りも自分も不幸にしてしまいました。

元侯爵令嬢の王子妃は、マーガレットに嫉妬の余り色々やらかしてしまいます。この人も周りが見えなくなってしまってるんですかね…。

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