20 『公爵家』の行方
「リリアンヌ嬢、疑問は解決したかい?」
ノーマン公爵がそっと話し出した。
「…はい。不躾な質問ばかりしてしまい、申し訳ございませんでした」
お陰様でモヤモヤがほぼ解決しましたわ!
「それは良かった。先程のレナルド殿の件は、こちらでも注意しておくので安心して欲しい。
…それから君の学園での報告はとても有難いけれど、決して無茶はしないでくれないか。特にカタリーナ嬢と一緒にいる事でルーカス達の目を引いてしまう可能性があるのなら、暫くは接触しない方が良いのかもしれない」
ノーマン公爵は心配そうに私を見ながら言う。
「! いえ、大丈夫ですわ! 勿論これからはもっと気を付けますが、私意外にこういう隠密みたいな事が合っている気がしますの!」
なかなかどうして、スパイごっこは楽しいのだ!
「…リリアンヌ嬢」
今度は鋭い目で私を見るノーマン公爵……。すみません、悪ノリし過ぎてましたかね……。
「申し訳ございません……。自重いたします」
少し肩を落として反省の弁を述べる。そこでノーマン公爵はもう1度息を吐いた。
「約束だよ、リリアンヌ嬢。
…そしてもう一つ、重要な話をしてもいいかい?」
ノーマン公爵は急に真剣なお顔になって言われた。私もピシッと背筋を伸ばす。
「はい。承ります」
「…リリアンヌ嬢。君が話していた『公爵家乗っ取り』の話だ」
『公爵家の乗っ取り』
…そう言い切ってしまっていいのか迷う所だったのだけれど、ゲームでは結果そうなっていたのでそのままお伝えしたのだ。
『薔薇の誓い〜5人の騎士達〜』その乙女ゲームの断罪パーティー後、カタリーナ様は国外追放、その後第2王子はヒロインと結婚、『公爵』となっていた。
今この国は14年前の戦争とその後の軍備の拡充、4年前の流行病、各地へのワーグナー侯爵家システムの拡充の公共工事等あり、財政的に新たな公爵叙爵等あり得ない。先の戦争の立役者であり英雄となったノーマン公爵の話とは別の次元だ。
そもそもその為の第2王子とシュバリエ公爵家との婚約だったのだ。第2王子に『公爵位』を与える為だけの。
その公爵家令嬢との婚約を破棄すれば、第2王子の爵位は無い。ハズなのだが……。
ゲームの強制力は分からないけれど、今現実のこの世界でカタリーナ様に冤罪をかけ、『公爵家令嬢はイジメをした罪で国外追放とします。公爵家の跡取りはいなくなるので私第2王子が公爵になります』というのなら、それは『乗っ取り』という事になるのではないのかしら……?
「君のいう事を信じない訳ではないが、ルーカスの事もそこまで愚かだとは思いたくはない……。
一応、兄上には最近のルーカスの噂を耳に入れたのだ。兄上も当然知ってはおられたが、『若い内は色々あるものだ』とおっしゃられてね……」
そこでノーマン公爵はまた1つ溜息をつかれた。
「私はルーカスとカタリーナ嬢の婚約が決まった後からずっと苦言を申し上げてきた。
そして今回、今後これ以上の愚かな行いをルーカスがしたのなら、婚約の破棄をお約束していただきたいと、シュバリエ公爵家を自由にして欲しいとそう申し上げ、了承された」
! 凄い!
そこまで言ってくださったんだ!
…でも……。
「口先だけの約束は反故にされてしまうのでは……?」
おっと、つい声に出してしまったわ。
「そのやり取りを、全大臣出席の閣議で皆の前でしたので、知らぬ存ぜぬは出来ない。王の発言は絶対だからね」
少しいたずらっ子の様に笑顔で言うノーマン公爵。
流石!! 流石です!!
ちょっと、前世風に言うなら、『惚れてまうやろー』ってやつね!
私がキラキラした尊敬した目でノーマン公爵を見ると、少し照れた様に微笑まれた。うん、可愛い!
「そこで『乗っ取り』の話だ。私もルーカスはそこまでの事はしないと信じたいが、もしもその様な事をしそうになったら、申し訳ないがその時点で彼を強制的に止めさせて貰いたい。
…勿論、その時点でルーカスとカタリーナ嬢との婚約は破棄させると誓うよ」
! とうとう……!!
カタリーナ様の婚約破棄が現実のものとしてなってきたのね……!
そして、マティアス様と……。
「はい。カタリーナ様さえご自由になられれば、こちらも第2王子様を罪に堕とす事が本意ではございませんので、そちらの方は良きに計らっていただければと思います」
そう答えながら、私は、嬉しいような寂しいような悲しいような……、そんな複雑な感情でお2人を見ていたのだった……。
その後、ルーカス様は最近は王宮では説教を避ける為か、ご家族ともそれ程関わりを持たないようにされている事。兄の王太子も大変ご心配されている事。国の主要な貴族達も第2王子に良い感情を持っていない様子であり、会議の際も反対意見はほぼ出なかったとのお話をお聞きして、この日の会合はお開きとなった。
勿論、帰りにはたくさんのお菓子をお土産にいただいた。
お読みいただきありがとうございます!
リリアンヌがお土産を持って帰ると、すぐさま弟に見つけられてしまいました。
家族みんなで「さすが公爵家のスイーツ!」と感動しながらいただきました。




